第110話 情緒不安定ソフィア

「こほん。それで、アンタはウチに何をして欲しいのよ?」


 ソフィアがマーガレットの言葉を掻き消すように咳払いし、要件を聞いてきた。

 一生懸命平静を装うとしているようだが、耳まで真っ赤に染まっていて、俺と目を合わせようとしない。

 これは、店の中で攻撃魔法とかを放たれないように、回答には細心の注意を払わなくては。


「えーっとだな、詳しい事は話せないんだが、地中に含まれる鉱物が多い場所を教えて欲しいんだ」

「鉱物? 鉱物って、鉄とか銅とかって事? アンタ、何をする気なの?」

「いや、いろいろあってな。協力して欲しいと言っておきながら、全てを話せないのが心苦しいんだが」

「まぁアンタは王宮の人間として活動しているのだから、詳細を話せないのは仕方が無いと思うけど……そもそも鉱物の場所を探る程度だったら、ウチよりも王宮の宮廷魔術師に頼んだ方が早いんじゃない? 詳細だってちゃんと話せるでしょうし」


 おぉぅ。ソフィアの口から思わぬ正論が出て来た。

 だが、別に協力しないと言っている訳ではなさそうで、単に疑問が湧いたから聞いたという感じだ。

 とはいえ未だに顔は赤いし、真っ直ぐ顔を見ると、一瞬目が合ってもすぐに視線を逸らされてしまう。

 王宮内で俺を手伝ってくれるのはニーナとシャロンだけで、精霊魔法が使える人材が居ないと正直に言うべきか、それともソフィアを持ち上げて気持ち良く協力してもらうべきか。

 少し考え、ゆっくりと口を開く。


「まぁソフィアの言う通り、宮廷魔術師の中には精霊魔法を得意としている者は沢山居る。だけど、俺はソフィアじゃないとダメなんだ。ソフィアに手伝って貰いたいんだ」

「~~~~っ!」


 あ、あれ? 考えた末に、特別感を出して持ち上げる作戦を実行したら、当のソフィアが無言で顔を背けてしまった。

 目を逸らすどころじゃ無くて、露骨に俺から顔を逸らす……というか、背中を向けるレベルなんだけど。

 どうしたものかと、ニーナやマーガレットへフォローしてもらおうと視線を向けると、


「きゃぁぁぁっ! 隊長さんったらぁぁぁっ!」

「うっひょー! さすがお兄さん! 普通の人たちにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「にーに、これおいしー!」


 ユーリヤはいつも通りだけど、二人のテンションがおかしい。

 さっきの場面は、正直に言うべきだったのか?


「わ、わかったわよ! も、もぉっ! 既に手伝うって言った後なんだから……そ、そういう事は人前じゃなくて、その二人の時とかに……」


 後半は小声で聞こえなかったけど、一先ずソフィアが鉱物を探してくれるらしい。

 未だに目は合わせてくれないけれど、何故か机の下で俺の手を握ってきたから、友好状態になったという事なのだろう。

 ……未だに、目は合わせてくれないが。


「じゃあ、ソフィアはニーナとマーガレットに協力してくれ。で、何か分かったら、定時報告時間じゃなくても、随時マーガレットがメッセージ魔法で俺に連絡してくれ。じゃあ、俺は一旦王宮に戻るよ」

「……へ? ちょ、アンタ、どういう事よっ!?」

「いや、今日はちょっと忙しくてさ。ユーリヤは、どうする? 俺と一緒に行くか? それとも……って、はいはい。行こうか。じゃあニーナ、後は任せた。移動する時は、ソフィアのペースに合わせてあげてくれよな……テレポート!」

「は? ちょ、アンタ! はぁぁぁっ!?」


 友好状態になったと思ったのに、一転してソフィアが何故か怒ったので、ユーリヤを抱っこしてテレポートで逃げるようにして王宮へ。

 しかし、ソフィアは情緒不安定なのだろうか。ころころ感情が変わり過ぎる。


『あの、この一連の流れは、彼女じゃなくても怒ると思いますよ』

(え? なんで?)

『いえ、この手の話については、私はもうヘンリーさんを更生させるのは諦めましたので、その辺のアドバイスは別の方に求めてください』


 更生って。

 俺に更生しなければならない程、悪い要素なんてあるだろうか。

 あ、エロは更生不可だぞ? 男は皆エロい生き物なんだから、俺が特別って訳じゃないからな?

 ちょっと冷たいアオイと話しつつ、いつも通り手続きをしてシャロンの元へ。


「シャロン。今、ちょっと良いか?」

「ヘンリーさん。はい、大丈夫ですよ?」

「じゃあ、訓練場へ行こうか。昨日話した剣の訓練だよ」

「あ、そうでしたね。では、早速参りましょう」

「あぁ……って、シャロン。その格好のままで行くのか?」

「はい。いけませんか?」


 そう言って、シャロンがいつも通りフードを目深に被ったまま、キョロキョロと自分の服装を確認する。

 資料庫に居るのならローブ姿でも全く問題ないのだが、青空の下で剣を振るうには動き難いだろう。

 だが、シャロンがフード付きのローブを着ているのは、自分が獣人族だとバレないようにするためだし、今から帽子や兜を調達するのは難しいし……


「そうだ。今日は訓練初日だし、軽い運動と説明を中心にするから、第三王女直属特別隊でいつも使っている小部屋で訓練をしよう」

「部屋の中で、ですか?」

「最初はね。いきなり大きな剣から入っても大変だろうし、先ずは型の練習からしよう」


 シャロンがローブを脱いで訓練出来るように、いつもの密会用の小部屋へ向かう事にした。

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