第5章 新たな試練

第83話 回想……餌付け

「きゃあぁぁぁっ! 可愛いっ!」

「ねぇ、抱っこさせて! お願い、少しだけっ!」

「あー、私も子供欲しいなー!」


 教室に居る女子生徒に囲まれ、黄色い声が響き渡る。

 そして、その声の中心に居る幼女が怯えたようにして俺にしがみ付くので、必然的に俺も女子生徒に囲まれてしまう。

 三百六十度、どこを見てもおっぱいが俺を囲っていて、良い香りがするし、時折背中や頭にフニュフニュと柔らかい感触が押し付けられる。

 ありがとうナイスおっぱい……って、流石に密着し過ぎじゃないか?

 沢山のおっぱいが俺の顔を覆って、息が……苦し……。


 朦朧とし始めた俺の脳内で、どういう訳か、昨日の出来事が再生されていく。


……


 フィオンの洞窟で聖銀を手に入れた俺たちは、しっかり休息を取り、ドラゴン幼女と共に洞窟を出た。

 地上に戻った後、すぐさま空間収納魔法で聖銀を仕舞うと共に、買いだめしておいた食料を出して、ドラゴン幼女に食べて貰っている間に、ルミをエルフの村へ送る事にしたんだ。

 というのも、自分の先祖がドラゴンを無理矢理拘束して洞窟を守らせるような、非人道的な事はしないはずだから、それを確認したいとルミが言うので。

 ワープドアの魔法で村まで送り、その時エリーのお母さんから依頼されていた髪の毛を一本貰って、皆の所へと戻ると、


「おなかいっぱい。ありがと……にーに」


 未だに全裸のドラゴン幼女が、幸せそうな笑顔を向けて来た。


「にーに……って、俺の事?」

「うん。にーに、ごはんくれるから、すき」

「あ、ありがとう? って、そういえば君の名前を知らないな」

「……ユーリヤ」

「ユーリヤって名前なんだね?」

「そう」

「そっか。じゃあ、ユーリヤ。君はもう自由だ。お父さんやお母さんを探しに行っても良いよ」


 ユーリヤは成り行きで俺たちについて来たが、本来は逸れた親に会いたいはずだ。

 そもそも、ついて来たのもお腹が空いていたからだし。

 魔法で人間の姿に変えているけれど、両親と再会出来るように小屋を出て元の姿に戻って大きな翼で飛び立てば良いと思うのだが、ユーリヤが悲しそうな表情を浮かべる。


「わたし、にーにといる」

「え? でも、お父さんやお母さんに会いたいんじゃないの?」

「あいたい……でも、ばしょ、わからない。だから、にーにといる」


 親と逸れたのが五千年くらい前だっけ。

 ……うん。何の手がかりも無しに探すのは無理だな。


(アオイ。ドラゴンの居場所とか分からないか?)

『索敵魔法の範囲内でしたら分かりますけど、ドラゴンの行動範囲は大陸を越えますからね。それに普通は、人が訪れないような場所に棲みますし』

(そうか。確かに別の大陸だなんて言われたら、どうしようもないな。けど、じゃあユーリヤはどうするんだ?)

『ヘンリーさんが責任を持って、面倒を見るしかないかと』

(え? どうして俺なんだ!?)

『どうして……って、だって餌付けしたのはヘンリーさんじゃないですか』


 ……餌付け!?

 餌付けって、あれだろ? 動物に餌を与えて警戒心を薄める……あ、あれ? そういえば、さっき俺と一緒に居るって言った!?


『えぇ、はっきりと言っていましたよ。あと、ご飯くれるから好きとも』

(……しまったぁぁぁっ! 待ってくれ! 俺はドラゴンの子供を餌付けしようなんて気は微塵もなかったんだ!)

『ですが、結果的にやった事は餌付けですし、今更どうしようもありませんよ。一先ず、服を着る習慣から教えてあげましょう。流石に全裸のままだと可哀そうですし、そのままだとヘンリーさんが捕まります』


 そうだった。

 お腹が満たされたら元のドラゴンの姿に戻るだろうからと、服を着ていなくても、まぁいいかと思っていたけれど、俺と行動を共にするのであれば話は大きく変わる。

 どう見ても良くて基礎学校入学したて、もっと言えば就学前に見える子供を全裸のまま連れ回して居たら……死ぬ。社会的に死んでしまう。

 何なら全裸じゃなくても職務質問とかを受けそうな程、ヤバいのだが……とりあえず、服だ。子供服を用意しなければ。


「マーガレット。あのさ、昨日話した服を買いに行く件なんだけどさ」

「うん。いつ行く? 私はいつでも良いよー」

「じゃあ、今からでも良いか? ……ユーリヤも一緒に」

「……デートは? 二人っきりでデートは!?」

「いや、二人っきりだと言った覚えはないんだが」

「えぇー! お兄さんに騙されたっ! 純粋な私の気持ちを踏みにじられたー! お兄さんは私の身体だけが目当てだったんだー!」


 身体だけが目当てだなんて、人聞きが悪い。

 ただ新しい服を報酬として、ピンクスライムを倒してもらっただけじゃないか。


『あの、それって立派に身体――肉体労働――が目当てだと思うんですが』

(いや、でもそれはピンクスライムを倒す為であり、仲間をピンチから救うためであってだな)

『でも、その胸も見てましたよね?』

(それは仕方がないさ。だって、そこにおっぱいがあったら見るよね? 見ない訳がないよね?)


 男として刷り込まれた本能なのだから仕方がない……と続けようとした所で、


「貴方。今のマーガレットさんの話って、どういう事なのかな? ちょーっと、詳しく教えて欲しいなー」

「あ、アタランテ? 笑顔の割に目が笑ってないよ?」


 ピンクスライムを倒した時の経緯を詳しく知らないアタランテが、逃がさないよ? とでも言いたげに、腕に抱きついてきた。

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