第84話 回想……全裸幼女問題

「ふーん、なるほどねー。私を除け者にしていたあげく、服を買う約束までしてたんだ」

「いや、だからね。除け者とかじゃないんだってば」


 ピンクスライムと戦う時は、アタランテだって大変な事になるからって納得してくれたと思っていたのに、マーガレットとのデートという言葉が出たために突っかかって来る。

 そして、暫く協議を行った結果、


「うぅ……お兄さんと二人っきりで、あんな事やこんな事をするつもりだったのに……」

「いや、流石にそんな事は約束してないから」


 マーガレットの服は買うものの、アタランテとユーリヤも一緒に行く事に。

 ただ、ユーリヤは全裸のままで連れて歩く事は出来ないので、一先ず魔法で姿を消し、最初に一式服を買い揃える事にしているが。


「マーガレット。この前、街へ買い出しに行ってもらったけれど、その時に子供の服を扱っている店はあった?」

「いくつかあったよー。お兄さんはセンスに自信ある? 無ければ、私が全部コーディネイトしても良いけど」

「……マーガレット、任せた」


 武器選びならかなり口出し出来るが、服には全く興味がない。

 だから、ここは素直にマーガレットへ任せよう。

 ワープ・ドアの魔法を使って街へ移動すると、マーガレットの案内に従ってファンシーな服屋さんへ。

 うん。俺一人だったら絶対にこんな店には入れないな。


「いらっしゃいませー」


 店員のお姉さんが可愛い!

 いいなぁ、こういう働くお姉さん。俺より少し年上で、胸もあって、スタイルが良くて……って、よく考えたらマーガレットもアタランテも、どちらも条件は同じか。

 でも何故だろうか。この店員さんに惹かれるのは、服装が良いからか? それとも顔が好み? 胸はマーガレットの方が大きいけど……


「お兄さん。今日は私とデートですよねー」

「貴方。早く用事を済ませてしまいましょうね」


 店員さんに向けていた顔が、無理矢理マーガレットとアタランテに向けられる。

 二人とも目が笑ってないよ。


「え、えーっと、今日は妹さん? のお洋服をお探しですか? それとも、彼女さんの?」

「えーっとですね。六歳児くらいの女の子向けの服を探しているんですけど」

「お、お子さんがいらっしゃるんですか!? しかも六歳!? ……あ、いえ。失礼しました。本日来られていないという事は、仕立てではなく既製品ですよね? では、こちらです」


 マーガレットとアタランテの言葉から、店員さんが二人を妹と恋人だと思ったみたいだけど、どっちも違うんだ。

 別に店員さんとどうこうしようって気は無いから、誤解されたままでも構わないけどさ。


「こちらになります。お嬢様の身長はどれくらいでしょうか?」

「……ちょ、ちょっと待ってくださいね。その、娘では無くて、姪へのプレゼントなんですよ。ちょっと身長を確認するので……また何かありましたら声を掛けますね」

「そ、そうですか……では、何かありましたら遠慮なくお申し付けくださいね」


 服屋さんが俺たちから離れるが、訝しげな表情を浮かべながらチラチラとこっちを見ている。

 まぁ、そうだよね。女の子の服を買いに来ておきながら、誰も身長を知らないからね。


「……ユーリヤ。静かに俺の前まで来てくれ……」

「きたよー」

「げふん、げふん! ……声を出しちゃダメだって……えっと、これが頭だから、肩が……これだな。それから……これは、お腹かな?」

「にーに。そこ、おしりー」

「……ご、ごめん」


 姿が見えない状態で服のサイズを測るって、めちゃくちゃ難しいんだけど。

 ……まぁ、そもそも姿を消す魔法を掛ける前に測っておけよって話なんだが、そこまで考えが至らなかった訳で。


「マーガレット。大体、肩から腰がこれくらいで、腰回りがこれくらいなんだけど、分かる?」

「……上下共にSサイズって感じかな? それから、確か髪の毛は明るい茶色で、肌が褐色だったよね?」

「あぁ。そうだな」

「好きな色とかデザインは……いえ、今はそれより急いで会計を済ませた方が良さそうね」


 アオイの魔法で姿は隠していても、ユーリヤの隠す気が無い高い子供の声が店内に響いているせいで、店員のお姉さんがこっちをチラ見する頻度がかなり増えている。

 着替えの分を含め、マーガレットが子供服を数種類選び、すぐさまレジへ持って行く。

 その際に、ちゃんと下着や靴なんかも選んで居るあたり、流石だと言うべきか。


「ありがとうございます。全部で……五十点ありますが、お間違えないですか?」

「は、はい。大丈夫です」

「では代金がこちらになります」


 提示された金額が、俺が思っていた金額の十倍以上ある。

 子供の服だから使っている生地が大人の服より少ないと思うのだが、どうしてオーダーメイドでも無い既製品の服がこんなにも高いのだろう。

 いや、高いと言っても俺の価値観からすれば高いと言うだけで、資金的には全く問題の無い額なのだが……ブランド服? とでもいうのか、女の子のファッションって大変なんだな。


「こちらは、プレゼント用に包装いたしますが、どのラッピングが宜しいでしょうか?」

「あ、包装は無しで良いですよ」

「え? そ、そうなんですね。では、どちらの住所へお届けいたしましょうか?」

「いえいえ、このまま持って帰るので、大丈夫です」

「えぇっ!? これを……ですか?」

「はい。気にしないでください」


 空間収納魔法で出し入れ自由だと言う訳にもいかず、瞬間移動ですぐに家へ帰れるとも言えず……ただただお姉さんに怪訝な顔を向けられてしまったが、一先ずユーリヤの全裸問題を解消する事が出来た。

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