第72話 パンチラ五割増し

 魔法訓練室を出て基礎魔法コースの教室へ行くと、いつもの様にエリーが居たのだが、その隣にダーシーが居た。

 ダーシーを見た瞬間、頭の片隅に何かが引っ掛かる。

 何だったっけ? ダーシーについて、何かがあったはずなんだ。

 エリーとダーシーが二人で楽しそうに談笑しているのだが、何かではしゃぐエリーのスカートが捲れ、一瞬シマシマのパンツが見えた。


「って、そうだ! そうそう……うん、これこれ。やっぱり白だよね」

「えっ!? ヘ、ヘンリー君!?」

「……ハー君、ダーシーちゃんに何をしてるのー?」


『ヘンリーさん! ヘンリーさん! 教室のど真ん中で、何でいきなり女生徒のスカートを捲っているんですか!? 血迷い過ぎですよっ!』


 え!? アオイのツッコミで我に返ると、何故か俺の右手がダーシーのスカートを握り、白いパンツと太ももを露わにしている。


「……ヘンリー君って、エリーちゃんの彼氏だよね?」

「……もしかして、エリーちゃんと上手くいってないのかな? ……私にもチャンスがあるの!?」

「……でも、いきなりスカートを捲り上げるのはやり過ぎじゃない? だけど王女様を助けた英雄で、既に王宮に内定も決まっているし……私も見せようかな?」


 周囲の女子生徒から視線が集まり、ヒソヒソといろんな声が聞こえてくる。

 すぐ傍ではエリーがキョトンとしているし、当のダーシーちゃんは……めちゃくちゃ困惑してるね。

 見た目は怒っている訳でも、悲しんでいる訳でもなく、とにかく訳が分からないよって感じだ。


「ご、ごめん! えっと、その……だ、ダーシーちゃんと付き合っている幻――じゃなくて、夢。そう、ダーシーちゃんと付き合っている夢を見ちゃって、ちょっと混乱してたんだ。本当に申し訳ない」


 大慌てで手を離し、思いっきり頭を下げる。

 まるでサーッと、自分の血の気が引いて行く音が聞こえるかのようだ。


「あはは……ヘンリー君ったら、そんな夢を見たんだ。ぱ、パンツくらいなら気にしないから大丈夫だよー」

「すまない。えっと、何か償いを……何か俺に出来る事なら何でも言ってくれ」

「いいよ、いいよ。パンツくらいで大袈裟だってばー」


 ダーシーが許してくれて助かった。これがソフィアだったら何を言われていた事か。

 だが一方で、隣に居るエリーが頬を膨らませている。


「ハー君。夢の中でダーシーちゃんとチューとかしたの?」

「えっ!? し、してないから。本当、ちょっと変な夢を見ちゃっただけなんだって」

「むー。ハー君、パンツが見たければ、エリーのを見れば良いのにー。ハー君はエリーのパンツだけじゃなくて、一緒にお風……」

「げふん、げふん! あ、エリー。先生が来たぞ。さぁ席に着こう」


 エリー、元は俺が悪いんだけど、だからって大声で変な事を言わないでくれよ。

 ちょっとご機嫌斜めなエリーを何とか宥め、午前中の授業を終えて昼休みとなった。

 休み時間になる度に、エリーの頭を撫でたり、可愛いと褒めたのが功を奏したようだ。

 だが、何故だろうか。

 何故か俺の席の近くで女子生徒がお弁当やパンを広げ、身体を俺に向けている気がする。

 そしてどういう訳か、皆足を開いていたりスカートがやけに短くなっていたりと、普段の教室でも女子生徒のパンツは見えていたが、いつもよりパンチラ度合いが五割増しくらい高い。

 その事実にエリーが気付いていないのが幸いだけど、何だか面倒臭そうな事になる気がしたのと、別で用事を思い出したので、昼食を終えたエリーを誘って魔法教室へ。


「ハー君、どうしたの?」

「あぁ、ちょっと用事があって、エリーのお母さんに会いたいんだ。この時間だと、どこに居るんだ?」

「お母さんに? 今なら、錬金ギルドに居ると思うけど……」

「よし、じゃあ今すぐ行こう。……ワープ・ドア」


 エリーを連れて、以前行った錬金ギルドの裏手へ移動すると、早速お母さんの居る場所へ。


「お母さーん」

「その声は……エリー? 貴方、学校はどうしたの?」

「すみません。ちょっと用事があって、俺が連れだしちゃいました」


 食事もそこそこに切り上げ、仕事に取り掛かっていたエリーのお母さんに断り、事情を説明する。


「……という訳で、魔法が使えない状況で、この幻覚作用のある花粉を防ぐ術を知りたいんですよ」

「なるほど。魔法が使えないっていうのは困ったわね」

「そうなんです。植物に詳しいエルフの知り合いにも聞いてみたんですけど、風魔法で防ぐという手段しか答えが無くて……」

「へ、ヘンリー君。エルフに知り合いが居るの!?」

「え? はい。居ますよ? 何でしたら、エルフの長老も知ってますが」

「何ですってー! お願い、ヘンリー君。今、エルフの髪の毛が欲しいの。その花粉対策は責任をもって考えるから、誰でも良いからエルフの髪の毛を一本貰って来てくれないかしら」

「髪の毛くらいなら大丈夫だと思いますよ」

「本当っ!? じゃあ、その花を預かるわね。今日の夕方にでも、また来てくれるかしら」


 クリムゾンオーキッドを一つエリーのお母さんへ渡し、再びワープ・ドアを使って学校の魔法訓練室へ戻って来た。

 すると、突然エリーが抱きついてくる。


「もぉ、ハー君ったら。今朝のダーシーちゃんの事は、あのお花のせいだったんだー」

「え? あぁ、まぁそうなんだ。ただ、皆の前で聖銀や魔族とかの話をして、変に不安を煽る訳にもいかなかったからさ」

「そっか。じゃあ、仕方ないね……って、あれ? でも、どうしてお花で幻を見たとしても、出てくるのがエリーじゃなくて、ダーシーちゃんなのー?」

「いや、それは俺にも分からないんだけど」

「ねぇ、ハー君。どうしてー? どうしてなのー?」


 せっかくエリーの機嫌が直っていたのに、再びご機嫌取りをするハメになってしまった。

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