第60話 VSスライム(初級)

 カンテラの灯りの中で、プルプルと何かが動いている。

 その正体を見極めようとして目を凝らしてみると、


「スライム……なのか!?」


 魔物とは違う、魔法生物と呼ばれる存在が居た。

 錬金魔法で製造するのはホムンクルスと同じだが、必要とする材料は比較的入手が容易で、求められる品質も高く無い。

 その分、高度な事は出来ず、唯一の攻撃方法も消化液で溶かすという物だが、目の前に居るスライムは小さく、内に秘める魔力も少しだけ。

 まだ第二階層だから罠のレベルが低いのか、士官学校の生徒ですらダメージを負う事はないだろうし、正直言って俺たちがダメージらしいダメージを受ける事は、絶対にないだろう。


 ……待てよ。スライムと言えば、半透明でネバネバしていて、おまけに服を溶かしたりするけど、人体には影響を与える程の力は無い。

 これはつまり、スライムでエロい事をしろという、エルフの先祖たちからの時間を超えた伝言に違いない。


「マーガレット。相手はただのスライムだが、この魔法が使えない洞窟の中で、どういう影響があるのかを見てみたい。スライムを倒さずに、攻撃を受けてみてくれないか?」

「え? スライムの攻撃を? まぁ攻撃って言っても、何も出来ないと思うけど……」

「いいから、いいから。一先ず調査が目的だから、俺が良いって言うまで倒しちゃダメだからな」


 訝しげな表情のマーガレットがスライムに近づき、「さぁ攻撃しなさい」とでも言いたげに、しゃがみ込む。

 こっちからは見えないが、あのしゃがみ方だと、スライムからパンツが丸見えだろう。

 ……こっちを向いてしゃがんでくれないだろうか。

 そんな事を考えていると、何か罠が発動したのか、スライムが一匹しか居なかったはずなのに、どこからともなく六匹増えて七匹になってしまった。


「お兄さん。何か、増えたんだけど。まだ倒しちゃダメなの?」

「あぁ。その増えたのも、もしかしたら魔法が使えない影響かもしれない」

「魔法が使えないとスライムが増えるの? そんなの有り得ないと思うんだけど」


 首だけ俺に向けて話しかけるマーガレットに、小さなスライムたちが体当たりを仕掛ける。

 もちろんマーガレットは一切ダメージを受けておらず、ふらつきさえしないが、その衣類にはしっかり影響が出て居た。


「ん? 何かスースーするような……って、お兄さん!? 私のスカート、ちょっと溶けてるんだけどっ!」

「何だってー! それも洞窟の影響かもしれない。もう少し様子を見よう」

「ちょ、ちょっと待って。スライムが私の太ももに登って……もー! スカートにネバネバしたのが付いちゃったんだけどー」


 ネバネバが嫌だったのか、マーガレットが立ち上がると、ファサッと白い布が地面に落ちる。


「え? ちょっと、今のって……私のスカート!?」


 よし、スライムGJだ!

 スライムの消化液でボロボロになったマーガレットのスカートが千切れ、パンツと綺麗な太ももが丸出しになっていた。

 このままでも十分眼福なのだが、


「やーん。見ないでよー」


 マーガレットが短いシャツを一生懸命下に伸ばして少しでもパンツを隠そうとする。


「そう! それだっ! マーガレット、百点!」


 パンツは良い。

 女の子が履いているパンツは尚良い。

 だが更に、そこへ恥ずかしそうにする仕草や言葉が入ると、同じパンツであっても、よりエロさが増す。

 はっきり言って、正面から堂々とパンツを見せられるより、今のマーガレットの様に恥ずかしがりながらパンツが見えてしまう方が俺は好きだ!


「もぉー、お兄さん。早く何か服を貸してよー」


 うむ、良いぞ。

 流石、聖女だ。俺の好みを的確に突いてくる。

 ジェーンと言い、マーガレットと言い、聖女は皆空気が読めるらしい。

 だがその直後、


「えぃっ!」


 マーガレットの傍に居るスライムたちをルミが素手で瞬殺してしまった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「……あ、うん。あ、ありがとう」


 ちぇ。もう少し待てば、もしかしたらパンツも溶けたかもしれなかったのに。


『ヘンリーさん。やはり、このエルフ、やりますよ』

(いや、やりますよ……って、スライムを倒しただけだよね? 別に大した事無いと思うんだけど)

『違いますよ。マーガレットさんがヘンリーさんの嗜好を読みとって、ヘンリーさんが好きそうな言動をしていたじゃないですか。ですがあのエルフは、それを分かってマーガレットさんに対するヘンリーさんのポイントが上がるのを妨げたんですよ』

(えー。いや、それは考え過ぎじゃないか? 単にマーガレットが困っているから、見かねて助けただけだろ?)

『そう。ヘンリーさんがそう思うタイミングまで彼女は待ったんですよ。見てください、あのマーガレットさんの残念そうな顔を。彼女もヘンリーさんの嗜好が分かっているから、本当はもうちょっと焦らして、その上もう少しサービスするつもりだったに違いありません』

(サービスって。というか、アオイってやっぱりルミに厳し過ぎないか?)

『そんな事はありません! ヘンリーさんがあのエルフのしたたかさに気付いてないだけです! 一挙手一投足全てが計算されているのです』


 なんだかなぁと考えていると、


「あ、貴方。私の服もスライムが……」

「いや、アタランテは最後尾にいただろ。それに、明らかに刃物で斬った跡があるんだが」

「……猫のお姉さんは、何がしたいの?」


 何故かアタランテが自らのスカートを刃物で切り、マーガレットと同じ格好をしたかと思うと、一人でへこんでいた。

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