第59話 突入! フィオンの洞窟

「貴方、お帰りなさい」

「お兄さん、おかえりー」


 ワープ・ドアで洞窟前に作った小屋に戻って来ると、アタランテとマーガレットに出迎えられる。

 ルミのお母さんとの熱い一夜を棒に振ったけれど、俺にはアタランテやマーガレットが居るじゃないか。

 頑張ろう! 頑張っていれば、きっと誰かのおっぱいを触るチャンスくらいはあるはずだっ!

 自分自身へ言い聞かせるようにテンションを無理矢理上げる。


「ただいまっ! さぁ行くぞっ! いざ洞窟へ冒険の始まりだっ! 打倒魔王の為に頑張るぜっ!」

「……これは、エルフの村で何かあったみたいだね」

「そうだね。この様子だと、お兄さんが何かエッチな事が出来そうだったけど、それを涙を飲んで断念した……だけど、やっぱり惜しい事をしたと心のどこかで思っているから、テンションを上げて自分自身を誤魔化そうとしている感じかなー」


 アタランテもマーガレットも、読心術が使えるのだろうか。

 特にマーガレットは、さっきの言葉だけで、どうして大よそ何かあったか分かるのだろう。


「……まさか、お兄さん。遂にあのロリっ子エルフに手を出そうとしたんじゃない!?」

「いや、流石にそれは無いと思うな。どう見ても幼女趣味は無さそうだし。それより私が思うに、エルフの村で綺麗なお姉さんにでも会ったんじゃないかい? 年上の人に誘われたら、ちょっと誘惑に負けてしまいそうな気がするんだ」


 と思ったら、アタランテも何があったのかを概ね当ててきた。

 何これ。俺の言動を監視する魔法でも掛けられているのだろうか。


『断言しますが、そんな魔法は掛かっていませんよ』

(そうなのか? だけど、それにしては……)

『ヘンリーさんが分かり易過ぎるんです。行動も簡単に読めますしね』

(マジかよ。俺ってそんなに単純なのか!?)

『えぇ、それはもう。行動原理がパンツか胸かの二択ですから』

(そこまで酷くはねぇよっ!)


 流石にアオイの言い分は酷いと思いつつ、ルミを魔法で作った小屋へと案内する。


「洞窟の中で時空魔法が使えないから、一先ずこの小屋を拠点とする事にしたんだ。個室を四部屋作って二部屋残っているから、どちらか好きな方を選んでくれ」

「んーと、入口から入って、すぐ共有スペースみたいな場所に出て、そこから各個室へ行く間取りなんだねー」

「その通りだ。中央の共有スペースで食事を取ったり作戦を考えたりして、休む時は各部屋で……って感じだな。キッチンは無いが、トイレと風呂はある」


 拠点となる小屋の説明を終え、ルミが自分の部屋を選んだので、早速攻略開始だ。

 今日の目標は、一先ずどんな罠があるのかを確認するため、罠が仕掛けられているという二階層へ入る事。可能であれば三階層まで行きたい所だが、授業に一日の時間を殆ど取られているため、難しいだろう。


「よし、じゃあ出発だ!」


 今回は様子見だと目標も伝えているので、帰って来る事を前提とした最低限の荷物だけを持って洞窟へ。

 ちなみに、洞窟の中で精霊魔法による照明が点けられない事が分かっているので、アタランテが買ったカンテラに予め灯りを点けている。

 だが暫く歩いて火の光が届かなくなると、小さなランタンの明かりを除いて、周囲が一気に暗闇で覆われた。


「ランタンは一人一つでも良いかもしれないな」

「けど、それだとランタンを持ちながら戦ったりしなくちゃいけないよ?」

「そういう場合は、床に置いておけば良いんじゃないか? まぁ激しい戦いになると、蹴飛ばしたりしてしまうかもしれないが」


 一先ず昨日来た時には気付けなかった、ランタンの数を増やすという改善点が見つけられた。

 おそらく二階へ行けば、また不足している物に気付くだろうから、少しずつ改善して攻略していこう。

 そこから更に十数分歩くと、俺の身長よりも少し高いくらいの扉が現れた。


「ルミ。これが、次の階層への扉なのか?」

「そうだと思うよ。古代エルフ語で、『用無き者は去れ。ここから先は侵入者とみなす』って書いてあるし」

「なるほど。ルミの言う通り、ここまで――最初の一階層は何も無かったから、この先は罠があるって事なんだろうな」

「たぶんね。じゃあ、お兄ちゃん準備は良い? 開けるよ?」


 扉の中の気配を探ってみるが、何かが居る気配は無い。

 無言のままルミに頷くと、ルミが取っ手に触れ――扉が勝手に横へとスライドしていった。

 空いた扉をくぐると、中からひんやりとした冷たい空気が流れてくる。

 明らかにここまでとは雰囲気が違っていて、いよいよ本番といった感じだ。


「皆、ここからは警戒していくぞ。先頭は俺、次にルミとマーガレット。しんがりはアタランテに頼む」

「はーい。ルミがんばるー」

「了解っ! お兄さんに良いトコ見せちゃうからねー」


 ルミもマーガレットも随分と軽いのだが、大丈夫だろうか。


「……まぁ、最後尾は任せてよ」

「アタランテ、頼んだ」


 よく考えたら、俺とアタランテ以外戦えなくないか?

 いや、ルミは弓矢を持って来ているけどさ。

 マーガレットの武器は……メイス!?


「マーガレット。その手にしている物は……」

「ん? これ? 今日、買ったメイスだよ? 本当はモーニングスターみたいなのがあれば良かったんだけどねー」

「モーニングスターって、確か先端にトゲトゲが付いて破壊力抜群になっている鈍器だよな?」

「そうそう。せめてフレイルが手に入れば良かったんだけどねー」

「……まぁ、今度一緒に探そうか」

「うんっ! お願いっ!」


 残念ながら、フレイルもモーニングスターも名前とだいたいの形は知っているけど、自分で実際に使った事が無い。

 なので、具現化魔法で作りだすにしても、先ずは一度実物を見た方が良いだろう。

 そう考えただけなのだが、マーガレットは本気か冗談か分からない口調で、


「あ! もしかして、これってお兄さんからデートのお誘いなのかな?」


 とんでも無い事を口走る。

 二人で鈍器を見て回るデートって一体どんなだよっ!

 いくら俺でももう少しマシなデートプランを考えるわっ! と心の中で突っ込んで居ると、


「あ、あの……そろそろ新しい弓を見てみたいなーなんて」

「お兄ちゃん。ルミに魔法の杖を買ってー。ねぇ、お願ーい」


 何故かアタランテとルミが便乗してきた。

 アタランテの弓は未だ買ってから数日しか経って居ないし、ルミはエルフだから、杖とか要らなさそうなのだが。

 どうしたものかと考えていると、カンテラの灯りで、通路の先に蠢く何かが映し出された。

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