第45話 勇者召喚?

「凄い。貴方は、こんな事まで出来るのね」


 テレポートの魔法で面倒臭――こほん。ロリっ子エルフから逃げるようにしてエリーの家の前へ移動すると、抱きかかえられたままのアタランテが俺から降りる事さえ忘れて、キョロキョロと周囲を見渡す。


「そっか。アタランテと居る時は使っていなかったね。一度行った事のある場所なら、こうして魔法で移動出来るんだよ」

「なるほど。それは良かったよ。またあの馬に乗って帰らないといけないのかと思っていたから」


 そんな事を話していると、突然エリーの家の扉が開く。


「あ、ハー君だ! アタランテちゃんも! ジェーンちゃんの言った通り、本当にハー君が居たよ!」

「はい。主様の気配を感じましたので」

「おかえり! ハー君っ! アタランテちゃん!」


 エリーがジェーンを従えて駆け寄って来て、突然抱きついてきた。

 うん。エリーのこの感触も久しぶりだ。


「ただいま。こっちは特に問題は無かったか?」

「うん。ジェーンちゃんと一緒に街をパトロールしていたんだけど、これと言って特に何も無かったかな」

「そうか。それなら良かった……って、どうしたんだ? その微妙な表情は?」


 一応ジェーンを残していったものの、まだ魔族が表立って何かをするとは思っていない――予想通りではあるものの、エリーの表情が少しだけ曇っている。


「あ、あのね……エリーも寂しかったから、アタランテちゃんみたいに抱っこして欲しいなー、なんて」

「あ。まだ抱っこしたままだった。けどな、エリー。これは魔法を使うためであってだな……」

「と、とりあえず私は降りておくね」


 いくら約一週間振りに会うとはいえ、用も無いのにお姫様抱っこするのは恥ずかしいので、エリーの頭を撫でる事で妥協してもらって、本題へ。


「さて、これからフローレンス様に魔族の動向を報告しに行くんだが、結論から言うと魔族の動向は分からなかった。しかし、伝説に出てくる魔王……こいつが実在して、今も生きているという事が分かったんだ」

「ふーん。そうなんだー」


 エリーは魔王に興味が無いのか、反応が薄い。だが俺も含めて、魔王を神話でしか知らないので、ある意味で当然の反応だとも言える。

 一方でジェーンはというと、魔王という言葉をどう思ったのかは分からないが、いつも通り畏まっていた。これは納得しているのか、それとも興味が無いのか、どっちだろう。


「で、その魔王の情報を得る過程で、俺はとても凄い事を思いついたんだ。そのために……エリーまた俺に協力して欲しい」

「エリーが? もちろん! エリーに出来る事なら何でもするよっ!」

「そう言ってくれると助かる。じゃあ皆、ついて来てくれ」


 そう言ってワープ・ドアの魔法を使うと、俺はまたもや学校の魔法訓練室へと移動した。


『ヘンリーさん。どうして、またここに?』

(ふっふっふ。さっきエルフの長老サロモンさんから、勇者と魔王の話を聞いただろ? 俺はそこで、凄い情報を得たんだ)

『凄い情報?』

(あぁ、勇者の名前だ。勇者ツバサ=キムラ――変わった名前だから、同姓同名なんて中々居ないはずだし、召喚魔法を使う時に名指しで指名すれば良いんだよ)

『なるほど。というか、私に聞いてくれたら勇者の名前くらいすぐに教えたのに』


 ……あ、本当だ。アオイは勇者と一緒に魔王討伐の戦いをしていたのだから、知っているに決まっているか。

 だけど、最初はアオイが魔王と戦った事を信じて居なかったから、その発想には至らなかったんだけどさ。


(そう言えば、勇者の名前もアオイの名前も珍しいけど、どこか外国から来たのか?)

『え? ……ま、まぁそんな所ですよ。そんな事より、私は召喚魔法に詳しく無いんですけど、名指しで呼ぶ相手を指名なんて出来るんですね』

(いや、やった事はないけど、出来るんじゃないか? ……たぶん)

『随分と適当ですね。まぁやってみれば分かる事ですが』

(そうそう、そういう事。というわけで、やってみるか)


「エリー。この数日でそこそこ魔物を倒してきたから、悪いけどまたホムンクルスを作ってくれないか?」

「ハー君との子供? うん、喜んでっ!」


 大量の素材の中からホムンクルスの製造に使える物を選びだして、以前と同じように精製し、


「クリエイト・ホムンクルス」

「グロウ・ホムンクルス」


 エリーが作ったホムンクルスの核を、俺の魔法で成長させた。

 これでホムンクルスの準備は整ったので、四度目となる魔法陣を描き、


「サモン!」


 強く「勇者ツバサ=キムラよ、来てくれ!」と念じながら召喚魔法を発動させる。

 すると、


「いっぇーい! 現世だ! ひっさしぶりの現世だー! おぉー、空気が美味しぃー!」


 随分とはっちゃけたゴーストが現れた。


(アオイ。これが勇者ツバサ=キムラなのか? 随分と俺のイメージと違うんだが)

『いいえ。全然ツバサと違いますね』

(なるほど。名指しで念じても、俺が思っている英雄が来てくれる訳ではないのか)


「やぁやぁ、今回は呼んでくれてありがとう。久しぶりの現世を堪能させてもらうよ。ホント、ウルトラハッピーだよー」

「……チェンジで」

「えぇぇぇっ! ちょっと、どうして!? これでも私はれっきとした聖女だよ? というか、来たからには帰らないからね?」

「聖女ねぇ。俺の知っている聖女と全く違うんだけど」

「や、ホント。ホントに聖女なの。信じて、お願い! 私、こう見えて退魔とか得意なの! ……今はゴースト状態だから、退魔スキルで自分自身が滅びちゃうけどねっ!」


(アオイ。こいつ、本当に大丈夫か?)

『私には何とも。とりあえず、退魔が得意って言っているので、今の状況には良いんじゃないですか?』

(まぁ確かに、これから魔族と戦ったりするんだろうし)


「じゃあ、とりあえず名前を教えてくれ。話はそれからだ」

「私? 私はマーガレット。退魔だけじゃなくて、妊娠や出産の加護もあるから、子供が欲しくなったら声を掛けてね」

「……まぁそれはさておき、俺たちは魔王や魔族と戦わなければならないんだが、退魔が得意だっていうマーガレットの意見を聞かせてくれないか?」

「気合で頑張る?」

「よし、チェンジ……」

「えっと、アレよ! 聖剣。魔王や魔族は聖剣に弱いでしょ? 聖剣を手に入れれば良いのよ」


 マーガレットが妊娠の加護を持つと言った時、何故かエリーがもっと詳しく話を聞きたそうだったのだが、それはさておき聖剣の話だ。

 言っている事はまともだし、的を射ているのだが、その案は一つ決定的な問題がある。


「うん。聖剣があれば話は早いよな。でも、その聖剣がどこにあるかなんて、誰も知らないだろ?」

「え? 私知ってるよ? というより、正しく言うと聖剣の材料がどこにあるか知ってる」

「何!? どういう事だ!?」

「……ふっふっふー。教えて欲しかったら、ゴーストじゃなくて私の姿を何とかしてよー。お兄さんは召喚士なんだから、何とか出来るんでしょー?」


 こ、こいつ。優位に立てたと分かった途端に、態度が戻りやがった。

 だが、仕方が無い。オリバーレベルの魔族なら、聖剣が無くても勝てるだろうが、それより強い魔族や魔王には有効な武器があった方が良いだろう。


「仕方が無い。エリー、マーガレットをホムンクルスとして呼び出してくれ」

「うん、わかったー。コール・ホムンクルス! 貴方の名は『マーガレット』」


 エリーの言葉に応じてホムンクルスとマーガレットの霊魂が混ざり合い、赤毛の綺麗なお姉さんが現れた。


「やったぁー! 身体だぁーっ! これで私は、何でも出来る! 何でもなれる!」


 何でもなれる……って、一体何をする気なのだろうか。というか、マーガレットは聖女なんだよな?


『調べてみましたが、一応聖女ですね。しかも、そこそこ位が高いです』


 マジかよ。生前は素の性格を隠していたのか? と考えていると、


「そのお姿は……あぁ、十二歳の時に私を導いてくださった聖女そのもの。まさか貴方様だったとは」


 ジェーンがマーガレットに畏まる。

 詳しく話を聞くと、生前のジェーンが聖女らしい振る舞いのマーガレットに導かれたのだとか。


「え? えぇ? えっと……コホン。まさかこの時代で信徒に会う事が出来るとは。私はこの奇跡を嬉しく思います」

「いや、今更手遅れだから! もう、どうやっても挽回出来ないから!」


 以前の自分を知るジェーンを前に、何とかマーガレットが取り繕うとしていたが、もうどうにもならないくらいに素が出ていたのだった。

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