第21話 錬金術士の課題

 むにゅむにゅふにふに――柔らかくて温かく、きめの細かい優しい感触の凄い毛布に包まれ、最高の目覚めだったのだが、その柔らかさの正体を知って、朝から困惑させられる。

 エリーのお母さんに案内されて来客用のベッドで寝ていたはずなのに、右側にエリー、左側にジェーンが俺と同じベッドでスヤスヤと寝息を立てていた。


『おはようございます、ヘンリーさん。今のお気持ちは?』

(いや気持ちも何も、何がどうなって、こんな事になっているんだ?)

『残念ながら、ヘンリーさんが眠ってしまうと私も活動出来なくなるようで、夜に何があったのかは分からないんですよねー。ただ推測は出来ますが』

(ちなみに、そのアオイの推測っていうのは?)

『この部屋ですが、おそらく来客用ではなくて、エリーさんの部屋ですよ。机に魔導書が並んでいますし、壁にヘンリーさんと同じ黒いローブが掛けられていますし』

(マジかよ。てか、どうしてエリーのお母さんは、俺をこの部屋に案内したんだ? 自分の家だから、間違う事は無いと思うんだが)

『ヘンリーさん。それ、本気でそう思っているんですか? ……思っていそうですね。もっと頑張りましょうね』


 あ、あれ? アオイが呆れを通り越して、励ましてきた。

 今のやり取りは、そんなに酷かったのか!?


「ん……」


 俺に密着したエリーがモゾモゾと小さく動く。

 良かった。昨日、本気で疲れて熟睡していて。

 こんな状態で、理性を保ったまま一晩過ごせる訳が無い。

 そんな事を考えているうちに、ジェーンが目覚めたので、昨晩の事を聞いてみる。


「昨日の夜ですか? 主様が就寝されておりましたので、すぐ傍で夜通し見張りをするつもりだったのですが、奥方様から一緒のベッドに入ってくれないと、泣くと言われ……気付いたら眠ってしまっておりました。申し訳ありません」

「いや、見張りとか大丈夫だから。ここは戦場じゃないし。それよりも、とりあえず着替えたいんだが、エリーにジェーンの服を貰わないとな。あと、俺の服はどうなっているんだろう」

「主様の服は、奥方様の母上様が洗濯されておりましたが」

「そうか。じゃあ、エリーのお母さんに聞かないといけないから、先ずはエリーを起こすか」


 視線をベッドに戻すと、幸せそうな顔をしたエリーが一人で熟睡している。

 あまり遅くなって学校に遅刻しても仕方がないので、毛布をはぎ取り、


「エリー、起きてくれ。俺の服を……って、どんな格好で寝ているんだよっ!」

「……ふぇ? あ、ハー君。おはよー」

「挨拶は良いから、先ずはエリーが服を着てくれっ!」

「……うん。わかったぁー。エリー、着替える……ね」

「言ってる傍から寝るなって! ジェーン。エリーを起こすのを手伝ってくれ!」


 パンツ一枚しか身に着けていないエリーに着替えてもらい、俺とジェーンの服を用意してもらって、ようやく食卓へ。

 朝から疲れを感じつつも、朝食を用意してくれていたエリーのお母さんへ挨拶をすますと、


「おはよう。……その様子じゃ、何も進展は無かったのね。残念」

「何がですか?」

「えっ? おほほ。さぁ、朝ご飯にしましょう。座って、座って」


 用意してくれていたトーストとサラダを食べていると、エリーのお母さんが昨日とは打って変わり、真面目な話を始める。


「ところで、エリー。前に言ったホムンクルス製造の事だけど、そちらのジェーンちゃんがそうなの?」

「うん、そうだよー。エリーがホムンクルスの核を作って、ハー君が一気に核を成長させてくれたんだー」

「なるほど。核の成長を早めるのも聞いた事が無い凄い話なんだけど……エリー。ホムンクルスの核をもう一度作りなさい」

「えっ!? どうして!?」

「ホムンクルスの育成よ。ヘンリー君が凄いのは十二分に分かったけれど、それとエリーがホムンクルスを普通に製造するのは別問題よ。本気で錬金術士としてやっていくのであれば、ホムンクルスの核を作ってから、数週間その核を温める経験は絶対にしておくべきだわ」


 どうやら、お母さんにはお母さんの考えがあるらしく、エリーが時間を掛けてホムンクルスに愛情を注ぐべきだという話だった。

 決してジェーンに何かが不足している訳ではなく、あくまでエリーの錬金術士としての成長のためらしい。

 錬金術士ではない俺やアオイには分からないが、ただ錬金魔法を使うだけでは得られない何かがあるのだろう。


「わかったー。じゃあ、また材料集めからかな」

「エリー。それは俺も手伝うよ。お母さんも、材料集めの手伝いは構わないですよね?」

「えぇ、もちろん。今のエリーに足りていないのは、自分の手で育てるという事なので」


 その後は昨日同様に雑談を交えて朝食を済ませ、お母さんにお礼を言って登校する。

 俺とエリーが一緒に教室へ入ったら、何故か教室が一瞬静まり返った後にざわついたのだが、やっぱり俺が嫌われているのだろうか。

 そんな事を考えながら今日も魔法の勉強を頑張るのだが、


「あ、主様。大勢の人前で、そんな所を……」

「ん? 何か今、変な声が聞こえなかった?」

「ダーシーちゃん。い、今のはエリーの声だよっ。ちょ、ちょっと声が変になちゃっただけで。あ、あははは……」


 アオイの魔法で姿を消したジェーンに俺がぶつかってしまい、エリーが必死でフォローしてくれている。

 というか、ジェーンの忠誠心が高いのは分かったけれど、俺やエリーから離れたくないというのは何とかならないのだろうか。

 せめて学校が終わるまでは、どこかで待機しているとかさ。


……


 授業が全て終わった放課後。

 何とかジェーンの存在が周囲にバレる事無く一日を終える事が出来たので、今朝エリーと話をしていたホムンクルスの材料集めのために、街へと繰り出した。

 ジェーンの透明化を解除し、以前にイザベル先生と廻ったという露店を三人で探してみるが、


「あ、あれー? 確かこっち……それとも、向こうだったかなー?」


 エリーの記憶が曖昧で目的の店が見つからない。


「ハー君、ごめんね。エリーがしっかり覚えられてなくて」

「いや、材料を買ったのはかなり前なんだろ? だったら、露店が移動していたり、扱う商品を変えている可能性だってあるし、仕方がないさ」

「で、でも……材料が無いとホムンクルスは作れないよー」


 焦るエリーを余所に、困った時にアオイに聞いてみる。


(アオイ。ホムンクルスの材料がどこに行けば手に入るかなんて、流石に分からないよな?)

『そうですね。先日と全く同じものを揃えろと言われても、私には分かりかねますね』

(だよなぁ……イザベル先生に聞いてみるか? でも、あの先生も錬金魔法は専門外っぽいしなぁ)

『ヘンリーさん。先日の材料の入手先は分かりませんが、ホムンクルスの材料は割と簡単に揃えられると思いますよ』

(どういう事だ?)

『単純な事です。売っている店を探すのではなく、ヘンリーさんがご自分で魔物を倒せば良いんです。幸いジェーンさんも居ますし、大丈夫でしょう』

(ま、魔物を倒す!? 冗談だろ!?)

『え? 本気ですけど? ヘンリーさんの身体能力でしたら、楽勝だと思うのですが』


 な、なんだってー!?

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