第22話 初めての魔物バトル

 魔物――大昔に世界を脅かした魔族を統べる王、魔王の魔力に触れ、闇に染まった野獣の事だ。

 伝説によると、光の加護を受けた勇者により魔族は倒され、魔王も勇者の力によって封印され、現在に至るという。

 だが、強大な魔族は倒されたものの、世界中に散ってしまった魔物までは絶滅させる事が出来ず、今もなお、魔物退治は騎士団の任務の一つとなっている。


(あのさ、アオイ。普通、魔物を倒すなんてのは、騎士団の――それも精鋭の仕事なんだぜ?)

『それはSランク――災害級と呼ばれる魔物の事では?』

(災害級? いや、そんな等級なんてなくて、魔物は等しく騎士団が討伐しているはずだ。俺たちが平和に暮らせているのは、街や街道に張られた魔物避けの結界と、定期的に騎士団が魔物を討伐しているからだって、聞いた事があるぞ?)

『でも、事実として魔物の一部が露店で売られていたという事は、魔物を狩っている人たちが居るという事ですよ』

(それは、そうかもしれないけど、魔物なんて今まで戦った事すらないんだが)

『大丈夫ですよ。元々ヘンリーさんの身体能力は優れていますし、神聖魔法で更に強化も可能です。むしろダメだという理由が見つかりません』


 なるほど。神聖魔法が使えるという事をすっかり忘れていた。

 それにジェーンの実力を見る良い機会でもあるし、魔法大会での戦い方を考えるためにも、アリかもしれない。


「よし、決めた。エリー、ジェーン。俺たちで魔物を倒して、材料を集めよう」

「え? えぇぇぇっ!? ハー君……魔物を倒すだなんて、大丈夫なのっ!?」


 まぁそういうリアクションになるよなぁ。俺だって、最初にアオイに提案された時は、似たようなリアクションだったし。


「大丈夫だ。エリーは俺が守るから」

「えっ!? うん。じゃあ、エリーはハー君について行く」


 あ、あれ? エリーが随分とあっさり承諾した。

 俺はアオイの力を知っているから大丈夫だと納得したけれど、魔物だよ? エリーは錬金魔法に特化しているって認識だったけど、実は他の魔法も使えるのか?


『ヘンリーさん。自分の発した言葉の意味を、よーく考えましょうね』

「主様。魔物討伐は私にお任せを。奥方様共々、お守りしてみせます」


 何故か声が冷たいアオイと、やる気満々のジェーン。そして、何も言わずに俺の左腕に抱きつきだしたエリー。

 ジェーンはともかく、エリーのリアクションが理解出来ぬまま、一先ず魔物が居そうな場所――街の外側、北東に広がる大きな森に向かって移動する。

 普段は街の外――しかも街道から外れた場所へ行く事など殆ど無いので、若干緊張しながら、森の中へ足を踏み入れた。

 木々が生い茂る薄暗い獣道を進んで行くと、近くの茂みがガサガサと揺れる。

 思わず身構えると、小さなウサギが逃げて行った。


「なんだ、ウサギか」

「ハー君。今のウサギさん、可愛かったねー」


 若干緊張した俺に対して、未だに俺の腕に抱きついたままのエリーが場違いな言葉を発する。

 もしかしたら、エリーはメチャクチャ大物なのかもしれない。


『ヘンリーさん。今のウサギに随分と緊張していましたので、索敵魔法を使いましょう』

(索敵魔法? 何それ?)

『使用中、周辺に存在する魔物の位置が分かる、光の精霊魔法です。魔物の中にある闇を検知する魔法なので、普通の野獣などは効果がありませんけど』

(いや、普通の野獣なら気にする事は無さそうだから、その魔法を使おう)

『分かりました。あと、もう一つ気になった事として、ジェーンさんが落ちていた枝を剣代わりに持って居るのですが、流石にそれは可哀そうかと』

(あー。それは俺も気にしていたんだけど、魔法科に転科してから剣は寮に置いてあるからなー)

『そうですね。ですので、ここで剣を生成してしまいましょう。具現化魔法という魔法で剣を作り出せます』


 ……んん!? 剣を作りだす? ここで? 何だか、アオイがとんでもない事を言っている気がする。


『具現化魔法というのは、周囲にある元素――土や水などを元に、想い描いた物を生成する魔法です。術者のイメージが重要な魔法ですので、剣をしっかりイメージしてくださいね』

(物を生成するって、錬金魔法みたいなものなのか?)

『そうですね。確かに錬金魔法に似ていますが、シンプルな物しか生成出来ないというのが大きな違いですかね』

(剣とか槍とかって事?)

『そうです。錬金魔法は既存の物を材料とするため、ホムンクルスを代表とする人間の身体の様な複雑な物を作る事が出来ますが、具現化魔法は元素から直接生成するため、容易にイメージ出来る物しか作れないのです』

(なるほど。その代わりに、そこら辺にある元素から直接生成出来るメリットがあるのか)


 具現化魔法と錬金魔法は似て異なるから、ちゃんと使い分けが大切って事だな。

 という訳で、


「先ずはサーチ! そして、マテリアライズ!」


 早速アオイに教えてもらった索敵魔法と具現化魔法を使用する。


「わっ! ハー君、その剣……どこから出したの? しかも二本も!」

「これ? あー、その……寮から召喚魔法で呼び寄せたんだ。魔物と戦う訳だし、俺は素手でも戦えるけど、ジェーンは剣が欲しいだろうし」

「主様。この剣を私に? よ、よろしいのですか? ……ありがとうございます!」


 アオイにイメージが重要と聞いていたので、俺が一番よく知っている自分の愛剣を想い描き、それを二本作ってみたのだが、どうやら上手くいったらしい。

 しかも刀身の重さやバランス、グリップの握りなど、細かい所まで愛剣そっくりに再現されている。

 ただ、俺はアオイに説明してもらって、具現化魔法と錬金魔法の違いを理解したけれど、何も知らないエリーを驚かせないように、寮から取り寄せた事にしてみた。


「よし、じゃあもう少し奥へ行ってみよう。先頭は俺で、次はエリー。後ろはジェーンに任せたから」

「はーい。エリー、頑張るねー」

「主様。お二人の背中を任せていただいた事、本当に光栄です」


 暫く獣道を歩いていると、前方の茂みの向こうに小さな魔物の気配を感じる。

 視界に魔物の姿は全く映っていないけれど、これが索敵魔法の効果か。


「二人とも、前に小型の魔物が居る。先ずは俺が攻撃してみるから、何かあったらフォローを頼む」

「畏まりました。このジェーンにお任せください」

「ハー君、頑張ってー! エリーも一生懸命応援するよっ!」


 ……そうだった。エリーは錬金魔法に特化しているから、戦闘においては殆ど役に立たないんだ。

 魔法大会でエリーには何をしてもらおうか。

 っと、それよりも今は魔物を倒す事に集中しなければ。小型といえども、初めての魔物退治なのだ。

 気合を入れ直し、回り込むようにして茂みに近づくと、裏側に居た太くて青い蛇を目視で確認する。

 蛇と目が合い、ファイティングポーズかのように鎌首をもたげた瞬間、


「ハッ!」


 具現化魔法で生み出した愛剣を蛇に向かって振り下ろすと、何の抵抗もなく、スパッと蛇の頭が真っ二つに裂けた。


「主様。お見事です」

「ハー君、凄ーい! 流石だよー!」

「あ、あれ? こんなに簡単で良いの?」


 神聖魔法での身体強化も行わずに一撃で倒せるなんて、この蛇は本当に魔物だったのか?

 ……実は、ちょっと太いだけの普通の蛇だったりして。


『いえ、これは正真正銘の魔物ですよ。ブルーパイソンという種類で、先日錬金魔法の材料として使ったグリーンスネイクよりも、強いくらいです』

(へぇー。魔物って、もっと硬かったり、素早かったりして、倒すのが大変だと思っていたんだけど、そうでもないんだな)

『いえいえ、違いますよ。ブルーパイソンは、素早さも防御力も高いんですからね? ヘンリーさんの身体能力がそれを上回って高過ぎるだけなんですよ!』

(そうかなー? まぁいいや。一先ず、次はジェーンの戦いを見てみよう)


 初めての魔物退治をあっさりと終えてしまった俺は、召喚したジェーンの実力を見る事にした。

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