第12話 フニャフニャからカチンコチン

 ホムンクルスの材料を精製するため、材料の一つであるグリーンスネイクの抜け殻を手に取る。

 この中から蛇の生命力の根源となる核を抽出って言っていたけど、アオイの話が難しいので、エリーには俺が分かる言葉で説明していく。


「じゃあ、材料から余計な不純物を取り除いて行くんだけど、この抜け殻は今はフニャフニャだろ?」

「うん。ふにゃふにゃー」

「先ずは、ここから必要な生命力の元を取り出すんだ……アブストラクト」


 対象から欲しい成分だけを抽出する魔法を使用すると、右手に持って居た蛇の抜け殻が茶色い粉に代わり、俺の左手に少量の緑色の粉が現れた。


「ハー君、凄い! それが、生命力の元なの?」

「そうそう。で、これは一旦こっちに置いておいて、次はスケルトンの骨だな」


 他の材料も同じように必要な成分だけを抽出していく。


「次は、この抽出した物を混ぜ合わせるんだけど……せっかくだから、これは一緒にやろうか」

「いいのっ!? うんっ! エリーもするー!」


 真っ白な部屋の中で、二人で泥遊びでもするかのようにゲル状の何かをこねていく。

 ……良く言えば童心に返ったみたいだけど、客観的に見ると凄くシュールな空間になっている気がする。


「ハー君。これ、ネバネバするよー」

「スライムの成分も入っているからじゃない?」

「そっかー。あ、ネバネバが白くなってきたよー」

「白くなってきたら、今度は空気を混ぜるように掻きまわすんだけど、手でやるのは大変だから……エアリーシールド」


 アオイ曰く、何でも良いから攻撃魔法ではない風の魔法を……という事で、入門書に載っていた風の盾を生み出す魔法を使用する。


「凄ーい! ハー君が触ったら大きなフワフワになったー」

「さっきのに風を混ぜ込んだんだ。後は仕上げに……フリーズ」


 劣化を防ぐために氷結魔法で凍らせて、お終い。

 アオイによると、保存方法も良くなかったため、悪い品質の材料が更に悪くなっていたのだとか。

 念のために精製した材料に鑑定を行ってみると、


――ホムンクルスの元。品質:S。ランク:B。状態:氷結――


 材料の名前がホムンクルスの元になって、品質がSになっている。

 これなら余程の事が無い限り、きっと成功するだろう。


「うわー、今度はカチンコチンになちゃったねー。こんなの初めて見たよー」

「うん。凍っているけど、錬金魔法の素材としてはちゃんと使えるから、今度はホムンクルスの製造が成功すると思うよ」

「そっかー。じゃあ、早速やってみても良い?」

「もちろん。せっかく魔法訓練室に居る訳だしね。頑張って!」


 鞄の中から杖とフラスコを取り出したエリーが、長い呪文を詠唱し、


「クリエイト・ホムンクルス」


 ホムンクルスを製造する魔法を発動させると、床に置いていたフラスコが強い光を放つ。


「やったぁ! ハー君、ありがとうっ! 初めて成功したよっ!」

「おぉ、おめでとう。良かったな、エリー」

「うんっ! 後は、このホムンクルスの核を数週間温めれば出来あがりなのっ! これで、お母さんにも良い報告が出来るよっ!」


 余程嬉しかったのか、エリーが抱きついてきて、俺の身体に柔らかい二つの膨らみが無防備に押し付けられている。

 女の子の身体って、こんなに柔らかいんだ。世の男が――俺もだけど、おっぱいに憧れる理由が良く分かる。

 エリーと暫く密着するという思いがけないプレゼントに俺の思考が暴走しかけた所で、訓練室の扉から音が聞こえてきた。


「エリー、一旦落ち着いて。誰か来る」

「え? あ……ごめんね。つい、嬉しくって」

「いや、俺も嬉しかったから構わないんだが……って、イザベル先生か」


 慌ててエリーを離した所で扉が開き、イザベル先生が入ってきた。


「あら、随分と距離が近くなったのね。もしかして、私はお邪魔だったかしら?」

「いえ、エリーの魔法を手伝っていたんですよ」

「そうなの? ヘンリー君、ありがとうね。でも、二人とも。もうお昼休みだって気付いて……ないわよね」


 昼休み!? 休憩も無しに、ずっとぶっ続けで材料の精製をしていたのか。

 どうりで腹が減っている訳だ。


「やばい! 俺、昼は食堂なんで早く行かないと無くなるっ! じゃあ、エリー。また後でな」

「え? ちょっとハー君。それなら一緒……」


 エリーには悪いが、昼休みの食堂は死ぬ程ごった返すので、ダッシュで訓練室を後にする。

 出遅れれば売れ残ったパンをかじる破目になるし、運が悪い時はパンすら残っておらず、水で我慢するしかなくなってしまうのだ。

 しかし走って出て来たものの、魔法科の校舎の食堂はどこにあるのだろうか。

 エリーか先生に聞いてから出れば良かったと後悔しつつ、校舎の案内図を見つけ、改めてダッシュで向かい、


「え? あ、あれ? ここって、食堂だよな?」


 辿り着いた先は、オシャレで如何にも女子向けといった感じのカフェみたいな場所だった。

 テーブル毎に女の子たちが談笑しているけれど、戦闘科の校舎とは違って満席でもなければ、行列も無い。


「あの……ここって、食堂ですよね?」

「そうですよ。お兄さん、新顔だけど転校生かな? ここは女の子ばっかりで小食だし、自分でお弁当を持って来る子が多いんですよ。お兄さんは男の子だし、いっぱい食べますよね? メニューはどれにしますか?」

「じゃあ、日替わりランチで」

「はーい。日替わりの大盛りお願いしまーす」


 食堂の店員さんに話しかけたら、何故か問答無用で大盛りにされてしまった。

 だが、やはり女子向けの食堂だからだろうか。大盛りでも戦闘科の普通盛りくらいの量しかない。

 ちらりと隣のテーブルを見てみると、見知らぬ女の子がほんの少しのパスタを食べているのだが……たったあれだけの量で夕食まで耐えられるのか!?

 女の子の身体って、とても不思議だ。食べる量が少ないから、身体が柔らかいのだろうか?

 しかし逆に、「凄い。男の子って、あんなに食べるの?」と隣のテーブルで呟かれながら食事を終え、基礎魔法コースの教室へ戻る。


「――っ!」


 先程までは教室内が騒がしかったのに、俺が入って来た途端、ピタリと静かになる。

 ……あれ? 俺、何かやらかした? もしかして嫌われてるの!?

 内心泣きそうになりながら、アオイに慰めてもらおうかと真剣に悩んでいると、


「ハー君、おかえりー!」


 女子たちの中心に居たエリーが走り寄ってきて、俺の腕に抱きついてきた。

 その瞬間、再び教室内がざわめき出す。


「まさか、エリーに持って行かれるなんてっ!」

「意外だったね。エリーは、そういう事に疎いと思っていたのに」

「私も未だなのに、エリーに先を越されるなんて……」


 なんだろう。理由は分からないが、女子たちの視線が俺とエリーに集中している気がする。


「エリー。お昼休みに何かあったのか?」

「ううん、何もないよー。あ、でも、魔法訓練室で何をしていたのかは聞かれたかなー」

「どんな話をしたの?」

「えっとねー。最初にダーシーちゃんが、エリーの服に白いネバネバが付いてるって教えてくれて、それから訓練室でハー君と何をしていたのかって話になったの」

「あー、空気を混ぜた時に飛んだのかな? すまない」

「ううん。エリーは全然気にしてないよー」


 俺は気付けなかったけど、黒いローブに付着したら目立ちそうだ。

 染みたりしていなければ良いのだが、俺の心配を余所に、エリーが全く気にしていない様子で話を続ける。


「それでね、フニャフニャだったのが、大きくなってカチンコチンになったっていう話をしたの」

「うん、それから?」

「後はー、そうそう。ハー君に触ってもらったらフワフワしたーっていうのと、ハー君は凄いんだよーって話をしたくらいかな」

「そうか……ありがとう」

「どういたしまして。ハー君、これからもよろしくね」


 そう言って、エリーが再び俺の腕に抱きついてくる。

 エリーは気付いていないのだろうが、腕に胸の感触が伝わって来て、理性が飛んでしまいそうだ。

 しかし、それにしてもだ。エリーが特に変な事を話した訳でもないのに、どうしてこんなに見られているのだろう。


『あの、ヘンリーさん。今の話、聞き様によっては……いえ、何でもないです』


 何故かアオイが困惑していたけれど、何が起こったのか分からない俺は、一先ず次の授業に挑む事にしたのだった。

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