第13話 召喚士と錬金術士

 授業は特に問題が無かったものの、エリーを除いて同じコースの女の子から微妙に距離を置かれているような気がした転科初日が終了した。

 アオイに何か俺に悪い所が有ったか聞いてみても、何故か歯切れの悪い言葉で濁されてしまう。

 一先ず、今日も一日様子を見てみようと登校して、


「ハー君。おっはよー!」


 校舎の前に立って居たエリーが、俺を見つけるなり抱きついて来た。

 今日も、おっぱいが柔らかい――じゃなくて、女の子の挨拶ってボディタッチが多いんだな。


「エリー、おはよう」

「ハー君、一緒に行こー」


 もしかして、わざわざ俺を待って居たのだろうか。

 錬金魔法を手伝った事に恩を感じているのかもしれないが、あまり気にし過ぎる必要は無いと言おうとした所で、エリーに先制される。


「ハー君。今日、お昼ご飯を一緒に食べよっ!」

「え? あぁ、構わないけど……どうしたんだ?」

「あのね、昨日のお礼にエリーがハー君にお弁当を作ってきたの。だから、ハー君に食べて欲しいんだけど……どう、かな?」

「良いの!? ありがとう。お昼を楽しみにしているよ」


 ……流石にこんな事を言われて要らないと言える訳が無く、当初考えていた言葉を伝えられなくなる。


『ヘンリーさん。言うべき事はちゃんと言っておかないと、後悔する事になりますよ?』

(そ、そうかな?)

『そうです。忠告はしましたからね? 気を付けてくださいよ』


 アオイに気をつけろと言われたけれど、一体何に気を付ければ良いのやら。

 相変わらず、エリーを除く女子たちからは一定の距離を取られているのだが、視線は感じる。

 悪意は感じなさそうなので、興味を持っているといった感じだ。

 ……俺以外に男が居ないコースだから、戸惑っているのだろうか。


「ハー君、一緒にご飯食べよー!」

「ん? もうそんな時間なのか。どこで食べる?」

「んー、校舎の屋上も温かいしー、中庭もお花に囲まれて良い感じだけどー……あ、ダーシーちゃん! 一緒にご飯食べよー!」


 あ、あれ? 女の子が増えた? というか、エリーに呼ばれたダーシーちゃんっていう娘も想定外だったのか、目を丸くしているんだが。


「え、えっと……私も? 二人の邪魔じゃないの?」

「い、いや。別に俺は大丈夫だけど……」

「ほら、ハー君もこう言ってくれているし、大丈夫。大丈夫。じゃあ天気も良いし、屋上にでも行く?」


 困惑した様子のダーシーがコクコクと頷くと、


「私もご一緒して良いかしら?」

「わ、私も!」

「私も行きたいけど、今日はお弁当じゃないから……急いでパン買って来る!」


 ほぼ全員がついて来ようとしている。

 魔法科の校舎って、女子に大人気なんだな。


 エリーに手を引かれて屋上へ到着すると、俺とエリーが座ったベンチの周囲に、どこからともなくベンチが運ばれ、囲まれる。


「ハー君。どうぞ」

「ありがとう……お、旨いな」


 他の女子たちとは明らかに大きさが違うバスケットの中に、沢山のパンやサラダが詰められていて、エリーが手渡してくれる。

 エリーのどうでも良い雑談をしながらパンを食べているのだが、皆で食事を共にしているというのに、周囲の女子たちが無言で聞き耳を立てているのはどういう事だろうか。


「あ、そうそう、ハー君。昨日初めて成功したでしょ? 家に帰ってから、その事をお母さんに話したんだー」

「えぇっ!? エリー……初体験の事を親に話したのっ!? その……ヘンリー君の事も?」

「うん。話したよ? ハー君が凄いんだよって話をしたら、お母さんも詳しく話を聞きたいから、今度家に連れてきてって」

「えぇぇぇっ!? エリーのお母さんまでっ!? ……ヘンリー君、エリーの家に行くの!?」


 今まで沈黙を貫いていたダーシーだったけど、エリーのホムンクルス製造成功の初体験の話に食いついてきた。

 お母さんも錬金術士だというから、錬金魔法の話をしてもおかしくはなさそうだけど、何か問題があるのだろうか。


「別に隠したりする必要も無いし、俺は全然構わないけど?」

「やったぁ。じゃあ、お母さんに都合の良い日を聞いておくから、是非来てね」

「ひぇぇ。もう親御さんに挨拶だなんて……負けたわ。完敗よ……」


 ダーシーが何と戦っているのかは知らないけれど、何かに負けたらしく、項垂れて……って、周囲の女の子も皆呆然としているけれど、マジで何と戦っていたの!?


『何て言うか……突っ込み要員不在なのが残念でならないです』

(どういう意味?)

『いえ、そのまんまの意味ですよ』


 アオイの呟きも意味が分からず、一先ずエリーにお弁当のお礼を言って午後の授業へ。

 自由研究時間に、エリーから魔法訓練室へ行こうと誘われた時には、教室中から生温かい目で「ごゆっくり」と送りだされてしまった。

 ダーシーに至っては、エリーが一緒に行こうと誘ったものの、


「ご、ごめん。興味はあるけど、いきなり複数人はレベルが高過ぎるよ。流石に初めてはノーマルが良いかな」


 と、意味不明な言葉と共に断られてしまった。

 今日の俺は自力での精霊魔法を使うための練習をして、エリーは昨日と同様に俺を介してアオイに錬金魔法を教えてもらう。

 俺の精霊魔法は成果が上げられなかったが、エリーは手応えがあったらしく、今日も俺の腕に抱きつきながら教室へ。

 エリーがご機嫌で浮かれているのを隠そうともしないからか、女子たちから興味や羨望に嫉妬と、様々な感情のこもった視線を感じる。

 どうしたものかと考えている内にホームルームが始まり、イザベル先生が口を開く。


「では今日は、以前より連絡していたコース対抗魔法大会の代表メンバーを決めたいと思います」

「……エリー。魔法大会って何だ?」

「えっとねー。魔法科の各コースで魔法の腕を競いあう大会で、半年に一度行われるの」


 なるほど。戦闘科でいうところの、武道会みたいなものか。

 あれは盛り上がるからなー。

 日頃の鍛錬の成果をぶつけあい、最強を決めるべく戦う。

 普段共に汗を流して切磋琢磨している友人たちと、互いの全力をもって戦うのだが、コース代表を決める内部の戦いだけでも、お互いの長所や短所を把握しているつもりはずなのに、仲間内にも教えていない切り札があったりして面白い。

 魔法科の魔法バトルか。先ずは、基礎魔法コース内の代表決定戦に勝たなければならないけど、エリー以外の能力を全く知らないからな。

 気持ちは熱く燃えるが、果たしてどんな戦いになるのだろうか。


 戦闘科コースの頃を思い出し、内心ワクワクしながら先生の説明を待って居ると、


「では、魔法大会の基礎魔法コースの代表に立候補する人は……居ないよねー。じゃあ、推薦する人が居れば挙手で教えてくださーい」


 耳を疑う言葉が聞こえて来た。

 代表選手が立候補制!? そして、誰も居なくて推薦制!? どういう事だ!? 俺が元居た戦闘科の総合コースでは、全員が出たくて、数日間かけてガチバトルを行っていたというのに。

 予想外の展開に呆然としてしまっていると、


「はーい! エリーはハー君が良いと思いまーす。ハー君って、凄いんですよー!」


 突然エリーが俺を推す。

 その直後、葬式のように静かだった教室内がざわめきだす。


「そっか。今回は男子が居るんだ。是非、お願いいたしましょう!」

「でも、魔法大会は三人のチーム戦だよ? ……あ、でも彼が出るって事は、エリーも当然出るよね」

「そうそう。きっと全力で守ってくれるもんね」


 どこからともなく俺とエリーをセットで考える意見が飛び交うのだが、先ず魔法大会がチーム戦だという事に驚かされる。

 魔法科に来たばっかりなんだから、ルールを説明して欲しい。

 そんな事を考えているうちに、


「うん。ハー君が出るならエリーも出るよー。ハー君は、絶対にエリーを守ってくれるもんね」


 魔法初心者で召喚士の俺と、錬金術士のエリーが代表メンバーになってしまった。

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