第6話 変態たちの集い

『もうやだ。変な格好のオジサンに、エッチな事ばっかり考えるヘンリーさん……変態ばっかり』


 想定外のキツいオッサンの登場に、アオイが心底嫌そうな声で嘆くが……誰が変態だ、誰が。

 目の前のミニスカートを履いたオッサンは確かに変態だが、俺をこいつと同列に扱わないで欲しい。


「ちょっと、ウチをエッチな目で見ないでくれる!? 変態!」

「まぁまぁソフィアちゃん。あの年頃の男の子は仕方が無いのよ。とは言っても、私も尋常じゃ無いくらい凝視されたけど」

「おい、待て。俺を変態呼ばわりする前に、もっとヤバい奴が居るだろうが」


 アオイといい、ソフィアと呼ばれた少女といい、俺は変態じゃないからな?

 まぁ年の近いソフィアの脚は気になるが、これも健全な反応ではないだろうか。

 だが俺の事はどうでも良くて、それよりもこのオッサンの方が問題だ。


「アンタたち、このオッサンこそ変態だろう。とりあえず、通報しようぜ」

「はぁ!? 先生を? なんで!?」

「そりゃあ、こんな格好しているから……って、先生!? そっちの女性じゃなくて、この変な格好をしているオッサンが!?」

「変な格好……って、さっきも言ったけど、これは精霊使いに推奨されている服装なのっ!」

「精霊使いって、精霊魔法を使う魔法使いの事だろ? 精霊使いは頭がおかしいのか?」


 もしくは、その服を推奨しているのがドエロな奴か。

 しかし女の子の際どい服装を見られるのはラッキーだけど、それ以外の精霊使いと会ってしまった時は地獄だが。


「なっ……し、失礼ねっ! これにはちゃんと理由があって、精霊は人工物が嫌いだから、極力人工物――服を少なくして、精霊の力を妨げない様にしているのよっ!」


 ソフィアが頬を膨らませて怒っているが……ぶっちゃけ、この変態に騙されているだけではないだろうか。


(アオイ。あんな事を言っているけど、本当なのか?)

『精霊が人工物を嫌うのは本当ですね。ですが、だからと言って服の面積を小さくするというのは、どうかと思いますが』

(精霊の話は本当なのか。じゃあ精霊使いがあんな服装になっているのは、合理的なんだ)

『どうでしょう。私は精霊魔法も使えますけど、いちいちローブ脱いだりしませんでしたよ? それで精霊魔法の威力が落ちるような事はありませんでしたし』

(なるほど。結論としては、完全に嘘ではないけれど、もっともらしい事で騙されているって事か)

『ただ、そこの変態――失礼、先生と呼ばれた方も、その服を着るものだと教えられているのかもしれませんが』


 アオイの言う通り、このオッサンが二人を騙している訳では無く、オッサン自身も騙されている可能性もあるな。

 とりあえず、そんな服を着なくても精霊魔法が使える事だけは教えてあげようか。


「あー、せっかくこうして知り合った縁だから教えてやるけど、別にどんな服を着ても、精霊魔法の効力に影響は無いらしいぜ?」

「はぁ……ねぇ、アンタ。どうして、そう思うの? ウチは――いえ、ウチだけじゃなくて、精霊使いにとっては常識だし、それに実際服装を変えて精霊魔法の威力の違いまで確認したんだから」

「え? そうなのか?」

「そうよ……って、アンタ、よく見たら初心者用だけど杖を持っているじゃない。そしてここに居るって事は、精霊魔法が使えるのね? あれだけ失礼な事を言ったんだから、実際に見せてもらいましょうか」

「いや、ちょっと待ってくれ。俺は……」

「奥の部屋が魔法訓練場よ。少しくらい派手な魔法を使っても、建物に影響は無いわ。ウチと精霊魔法で勝負よっ!」


 良かれと思って忠告してあげたら、何故か魔法勝負を挑まれてしまった。

 というか、魔法勝負って一体何をするんだよ。まぁアオイが精霊魔法を使えるって言っているから、何とかなるのだろうけどさ。


「君……悪い事は言わないから、逃げなさい。ソフィア君は、あの魔法の名門ロックフェラー家の娘さんだ。持っている杖だって高価な物だし、その上あの年齢で三つの属性の精霊魔法を行使する天才だよ。後で僕がフォローしておくからさ」

「先生、大丈夫ですよ。ちょっとオシオキするだけです。致命傷は与えませんから」


 オッサンが俺を逃がそうとした所で、ソフィアが扉を塞ぐように回り込む。

 いつの間にかその手には、俺の小枝みたいな杖とは違う、大きくて立派な杖が握られていた。


「アンタ、まさか逃げる気じゃないでしょうね」

「いや逃げるも何も、俺はその勝負を受けると言って居ないし、受ける必要性も無いと思うんだけど」

「なっ!? あ、あれだけ精霊使いの事を馬鹿にしておいて……アンタも精霊使いの端くれなら、掛かって来なさいよっ!」

「馬鹿にはしていないって。ただ、変な格好だなって思っただけでさ」

「失礼な事に変わりは無いじゃない!」

「でもさ、ちょっと考えてくれよ。人工物である服は極力排除しようとしているのに、同じ人工物である杖は大きな物を使う……って、おかしくないか?」

「し、仕方ないでしょっ! ウチが魔法を行使するには、これくらいの杖が必要なんだからっ!」


 どういう事だ? ソフィアが魔法を使うには、大きな杖が必要だって事だけど、使える魔力が小さいって事なのか?


『ヘンリーさん、逆ですよ。彼女が持つ魔力が大き過ぎるが故に、質の悪い杖だと、魔法を行使しようとして魔力を込めた時点で壊れてしまうのでしょう』

(そんな事があるのか? でも、昨日俺がアオイの力で神聖魔法を使った時には、この小さな杖は壊れなかったぞ?)

『それは、私がちゃんと魔力の出力を杖に合わせてコントロールしているからです。正直、その杖は込められる魔力が小さすぎるので、魔法が杖から出力された後に、効果を増幅させたのですよ)


 難しい事は分からないけれど、とにかくアオイが上手い事やってくれていると言う事と、ソフィアが魔力のコントロールが下手だという事は分かった。

 自力で魔法を使えない俺が言える立場ではないが。

 アオイと会話を終えた後、気付けばソフィアが顔を赤く染めて、何故か先程よりも更に怒っていた。


『私と会話していた時に彼女が話し掛けていたんですけど、ヘンリーさんが返事を出来なかったので……』


 なるほど。ソフィアが何か言っていたのに、この状況で俺が無視した事になっているのか。それは怒るのも仕方がないかも。


「もう、本当に怒ったわよ! じゃあ、万が一にアンタがウチに勝てたら、望み通り脚でもパンツでも好きなだけ見せてあげるわよ! それなら良いでしょっ!」

「えーっと、良く分からないけど、その話……乗った! 君のパンツを見せて貰おうか」

「ふん! 後悔するがいいわ! この変態っ!」


 やった! 訳が分からない内にソフィアが条件を足して、俺が勝ったらパンツを見せてくれる事になった!

 そういう訳で、パンツの為に頼むぜアオイ!


『……私もヘンリーさんの事、変態って呼んで良いですか?』


 心底呆れた様子のアオイの言葉を聞き流し、俺はパンツを賭けてソフィアと魔法勝負をする事にした。

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