第16話 狩猟祭(最初の獲物)

 村の狩人達と共に出張所に戻る


「あなた!おかえりなさい!無事で何よりだわ!」

 と出張所の手伝いに来ていた奥さんが出迎える。

 このぐらい朝飯前さ!ハハハと旦那の狩人は得意満面。リア充だ。


 お手伝いを頼んでいる村人には屋台での調理や処理済みの獲物をギルドの倉庫まで運搬してもらう仕事を任せている。



「アングリーボアはこっちの台の上に置くので手伝ってくださーい」

 1、2の3でアングリーボアを持ち上げ、木製の運送用のパレットに布をかけたような台の上に移す。


 俺は台の上の獲物の状態をさっと確認してミセリに報告する。

「ミセリ、サイズはC、状態はBだ。」


 受付でミセリがメモを取る。

 受付では獲物のサイズと状態を記録して討伐証を渡す。討伐証は簡単に言えば預かり証だ。

 大規模な狩猟祭ではその場で報酬を支払うが我がギルドは人手が足りないので後で報酬を清算する討伐証の形を取った。受け取る方も荷物が少ない分だけ楽なはずだ。


「後で清算しますので討伐証はなくさないようにお願いします」

 ミセリが狩人に討伐証を渡す。


「いくらぐらいになる?」


 報酬が気になったのか狩人が訪ねる


「そうですね、サイズCの状態Bですから、銀貨20枚ですね。」


「意外ときびしいねー!」


「それに副賞で蜂蜜酒1本と小麦10kgが付きます。」


「おおっ!?」

 色めき立つ狩人達。


 小麦はそんなに高いものではないが蜂蜜酒は地味にお高い。

 買えば平均して1本銀貨7枚だ。男衆には嬉しい副賞だろう。

 よし、あと2匹狩るぞとか聞こえてくる。


 サハテイ村の1日の給料は銀貨3枚~4枚。

 王都と比べれば圧倒的安さだが、物々交換と自給が多いため貧乏というわけではない。

 ただし、農産物の比重が高いため飢饉が起きると大惨事になる。

 凹むときは全員凹むというのが農村の弱点だな。


 そしてそんなサハテイ村の貴重なタンパク源のひとつが目の前に転がっているアングリーボアだ。テキパキと処理してしまおう。


 手順はシンプル。

 1、腹を裂いて内臓を出す。

 2、頭を落とす。

 以上だ。


 処理した獲物はギルドの倉庫に運び、皮や肉の処理を後日行うわけだ。


 ただ、最終的にどれほどの獲物が集まるかは未知数。倉庫のスペースは有限なので、できることなら完全に解体バラしてさっさと加工ルートに流してしまった方がいい。

 様子を見ながらなるはやなるべく早くで作業をしよう。


 今回のために用意した通常ワイバーンの皮切りナイフを用いて腹を裂いていく。性能がいい分取り扱いが難しい。切れ味が良すぎて手ごたえがないが、そこは経験でカバーだ。


 腹を開いたら肛門を切り外し内臓をもりもりと引っ張り出していく。この際多少腹膜が破れても気にしない方向で進める。内臓を出したら心臓と魔石を採取し、それ以外の内臓はスライムちゃんが入った桶にぶち込む。このスライムちゃんは王都にいるころからの付き合いでペロリンと名付けた。


 内臓の処分はペロリンに任せ頭部は切り外してしまう。切断に使うのは通常ワイバーンナイフ。猪の魔物ごとき逆鱗ナイフを使うまでもないでござる。ござる?

 バターを切るようにアングリーボアの皮ごと肉を切り裂き骨を断ち切るとゴトリと首が転がる。



「まるでバラシの周りだけ時間が早く流れているようだな。」

「腕は鈍ってないようですなバラシはん」


 村長とスピネルが様子を見に来た。


「ワイバーンナイフ様様ですよ。」

 見ます?とワイバーンナイフの脂を落としてから村長に渡す。


 皮を破らないようアングリーボアのナイフに持ち替えている。

 切れ味が少しでも落ちたらナイフを交換し皮を剥いでいく。

 みるみるうちにいわゆる枝肉(食肉処理前の状態)になる。


「これはなかなかいいデキやねぇ」

 スピネルもワイバーンナイフをしげしげと眺めている


「だろう?残念ながら懇意にしてた鍛冶屋が情勢が不安定だからって故郷にかえっちまったからもう作れないんだけどな。」


 村長とスピネルは顔を見合わせている


「スピネルもいい鍛冶屋知ってたら紹介してくれよな」

「あ、ああ、せやな、まかしとき」


 村の窯では武器作りに耐えるほどの火力が出ないというのもあるが、やはり職人の経験というものは一朝一夕でなんとかなるものではない。


 話をしながらも肉を部位ごとにサクサクと切り分けていく。


 傷が多かった背中側の肉は破棄してモモ肉、バラ肉を燻製液の入った樽に放り込む。

 背中側は美味い肉が多いだけに少し残念だ。


「あとは牙を残してペロリンに食ってもらおう。」


 牙をワイバーンナイフで切り落とし残った骨をスライム桶に放り込む。

 本来は骨もキープしておきたい所なのだが使うのが俺ぐらいしかいないからな・・・

 今回は涙を呑んでペロリンの養分だ。



「バラシお疲れ」

 ミセリが水を持ってきてくれた


「ありがとう。ここから忙しくなりそうだな。」

 コップの水をあおり一息入れる。



 ひと狩り終えた冒険者たちが続々と出張所に戻ってくる様子が見える。

 ここからが解体部の本番だ。

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