第10話 『酒と鉄』再び
リトナの町 鍛冶工房『酒と鉄』
今日は早速作ったワイバーン素材の武器の仕上げを頼みに来ている。
「ちわーガイエル兄さんいます?」
工房の中はいつも通り・・・かと思いきや妙に作りかけの武器が多い。
珍しく忙しそうだ。
工房の奥からドワーフの鍛冶屋ガイエルがのそのそと出てきた。
「ガイエル兄さん、今日もヒゲが・・・どうしたんですか?えらい疲れてるみたいですが。」
自慢のヒゲはぼさぼさで艶がない。
手入れできないほど忙しいのだろうか。
ガイエルはカウンターの椅子にどっかと腰かけてため息をつき、持っていた金槌で肩をトントンと叩く。だいぶお疲れのようだ。
「ちょっとまずい状況でな」
ガイエルは口を開く
「まずはこれを渡しておこう。お前さんから預かったショートソード6本分の金貨2枚だ。国の役人が来てな、武器という武器を全部無理矢理買いあさって行きやがった。破格の買取額とはいえウチも信用商売だ、当然突っぱねたんだがここで仕事ができなくなるぞと脅されてしまってな。すまない。」
「そうでしたか・・・預けた剣は仕方がないですが、役人がそこまで強引な手段で武器を集めるなんて珍しいですね。」
「ああ、こんな僻地のリトナでこの状態だ、前から言われてた北の帝国との戦争が現実味を帯びてきたな。そうでもなければこんな武器の買い方はしないだろうし、オレに無茶な発注をしたりはしない。」
作りかけの武器が多いのはそれが理由か。
頼み事がしづらい状況だがダメもとで聞いてみるしかない。
「俺も今日は武器の仕上げを頼もうと思って来たんですけどなんとかなります?」
「モノによりけりだ。見せてみろ」
お疲れながらも興味はあるようだ。刃が短い皮切りナイフが2本と刃渡り20cm程度の普通のナイフが2本、そして鉈を1本並べる。
「どれどれ・・・ほほう、これはこれは。噂のワイバーン素材か。2本あるうちの片方は手触りが違うのか。面白いな。」
ガイエルはそれぞれを手に取り見分する。俺がワイバーンの解体を手伝った情報は伝わっているようだ。
「つまらん急ぎ仕事ばかりで飽き飽きしていたところだ。やってやろう。
ただしお前も付き合え。今の状況で預かると返せる保証がないからな。」
「ありがとうございます。こいつで一息入れてから始めましょう。」
マジックバッグから酒瓶を取り出す。
先日の焼肉パーティで結構な数の酒をもらった中で一番いい酒を持ってきた。
「おお、わかってるじゃねぇか!いい仕事には酒がなけりゃ始まらん!」
ガイエルはがははと笑い早速酒に手を付ける。
うまそうに飲むなぁ。酒を買いに行くヒマもなかったのだろう。
無茶言うつもりで手土産を用意してきてよかった。
「それで、焼き入れはどうする。ざらざらのやつとツルツルのやつは同じでいいのか?」
「ざらざらの方は普通のワイバーンと鉄の混合素材で、ツルツルの方は普通の素材に逆鱗の触媒を浸潤させたものです。両方とも最初に600度程度でしっかり焼きを入れて、ゆっくり冷ましてください。その後、普通の方は900度、逆鱗の方は1800度で短時間の焼きと急冷でお願いします。」
「逆鱗にも驚いたが1800度だと?正気か?」
鉄の融点は1500度ちょっと。普通であれば溶ける。
「理論値です。ワイバーンの素材と鉄が融合して結晶化し、表面がコーティングされるはずなんです。成功すれば色が赤く変わります。俺も完成品を見たことがあるだけで工程は聞いただけなんで詳細はガイエル兄さんの勘に任せるしかないんですが・・・」
「まあ何本かあるから試しながらやってみるしかないな。1800度の仕上げは重労働になるぞ。お前にはふいご番をやってもらうからな。」
ふいごというのは簡単に言うと巨大な送風機で、炉の温度を上げるために休みなく動かし続けなければならない。運動量が多く炉の熱さも手伝って地獄の苦しみを伴う。1日で2kg~3kgのダイエットに成功とか日常茶飯事だ。
ちなみに魔法で代用可能だが俺は魔法が使えない。
キツイ労働だが二度とないであろう機会だ。
やるしかない。
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