第9話 狩猟祭(予定)
辺境ギルドの解体部には--
「狩猟祭をやるわよ!」
「はい?」
「狩猟祭よ!知らないの?ワイルドボア祭りをやるのよ!」
朝イチにギルドの受付嬢ミサリが栗色の髪を弾ませながらやってきて得意げにまくしたてる。
「狩猟祭って何?」
俺とアルルはワイバーンの骨の粉砕作業をしているところだった。
狩猟祭。
何らかの影響で魔物が異常発生した際にはその魔物を集中討伐しなければならないが、魔物の発生場所が遠かったりすると狩っても運搬は大変だし移動のリスクもあるしという事で
そこで考案されたのが狩猟祭だ。
ギルドの出張所を魔物の住処周辺に設置し、依頼、会計、販売、解体を行う。
冒険者は近場でサポートが受けられるので依頼を受けやすくなり、冒険者の総数も増えて危険が減る。ギルドは素材の買取が増え、ポーションなどの消耗品も売れ、依頼料もガッポリ儲かる。そして増えていた魔物も減る。
いい事しかない。
解体部にとってはデスマーチ以外の何物でもないがな。
そして狩猟祭を開くためには条件がある。
大量の依頼をさばける人員を抱える大規模なギルドが必要であり、依頼をこなすに足るだけの冒険者達が必要であり、そして大前提として大量の魔物が必要だ。
サハテイの村には全てが足りていない。
いかんせん冒険者が少ないため魔物だけはそれなりにいるかもしれないが、それでも多すぎて村が滅ぶという話はない。
「こんな辺境の村で狩猟祭なんかできるわけないだろ。
寝言を言っていいのは俺の隣で寝ているときだけだゾ☆」
「誰が寝るかバカ!
村長が企画するって言ってたんだからね!」
村長が?
村長が言うならやれる算段があるんだろうな。信じがたいが。
村長はサハテイ村創立者の一人で、ここ10年餓死者を出していないらしいから統治者としての手腕は確かだ。そんな人がどうしてこんな辺境に村を作ったかは知らないけどな。
やるにせよやらないにせよ話は聞いておいた方がよさそうだ。
村長の家の玄関をノックする
「村長います?」
家の中にはやり手の青年実業家のようなブロンドの髪の精悍な男が立っていた。
いつ見ても田舎っぽさがないが村長だ。
「バラシ君か。入れ入れ。」
案内されて椅子に座り、前置きなしで本題に入る。
「村長、ミセリに狩猟祭をやると聞いたのですが本当ですか?」
「ああ、今すぐって話じゃないが、小麦の収穫が終われば収穫祭、その後は種まきを経て冬に入る。今年は多めに肉が必要になりそうだからアングリーボアが少なくなる冬前に狩って準備しておきたい。」
事情はわかる。しかし問題は人員の方だ。
「ウチのギルドの人員では狩猟祭を回すのは厳しいですよ?それに冒険者も少ないですし。」
「冒険者については心配しなくていい。2、3パーティ斡旋してもらえる伝手がある。狩猟祭運営の雑務は村のみんなにも手伝ってもらうつもりだ。刈り入れが終わってる時期なら人手は足りると思うんだがどうかな?」
どうかなって言われちゃうとねぇ。
集まる冒険者の数次第だがやれないことはないだろう。
しかし解体部だけサポートがないのは解せん。
「解体部に無理があるのは変わらないじゃないですか」
「そこは買取の方法を工夫するつもりだ。獲物の大きさと状態で一括買取すれば解体自体は後回しにできるからバラシ君の負担は減るだろう?もっとも、他の解体屋では厳しいかもしれないがバラシ君の腕ならなんとかなるだろうと考えているけどね。」
さすが村長そつがないな。現場で内臓などの下処理だけをするのであれば数をこなすのは簡単だ。処理した獲物の冷蔵倉庫への運搬は村人に手伝ってもらえば解体は後回しに出来る。
「そこまで考えられてるなら大丈夫でしょう。俺も協力しますよ。時期は収穫が終わった後って事でいいんですよね」
あと1か月ちょっとってところか。
いろいろ根回しもあるからそれぐらいかかるのだろう。
「ああそうだバラシ君」
「なんすか?」
「最近私と会っても褒めてくれないじゃないか。ちょっと寂しいぞ?」
褒めてほしいんかーい
「村長みたいに見た目も中身もデキる男は褒めどころが多すぎて逆に褒めづらいんすよ」
「そういうものなのかい?」
「言うなれば、サテイハ村はみんな元気で明るく遠慮なくメシをたかりに来るいい村ですよってのが村長への誉め言葉でしょうかね。」
村長はフフッと笑い、返事に満足したようなので村長宅を後にする。
こっちも準備を進めないとな。
具体的には設営の準備、倉庫の整理、屋台の企画、
そして道具のアップグレードのためのワイバーン素材の武器づくりだ。
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