第5話 ワイバーン
工房の後に訪れたのはリナトの冒険者ギルドだ。
周辺の村の流通がまとまる町であるので冒険者の数も多い。
サハテイ村のギルドと違い各部署にちゃんと職員がいる。
まずは会計部。
会計部は依頼の報酬を受け取ったり解体代を支払ったりと、お金の出入りを総括する部署だ。
会計部の担当はマニさん。ハスキーボイスが特徴の40代のマダムだ。
「あらいらっしゃい。」
「こんにちはマニ姉さん。今日は肌のツヤがいいね。ダンナと仲良さそうで何よりだ。」
「やだねぇ、褒めたって何も出やしないよ。・・・お茶でも飲むかい?」
「出るじゃねぇか」
などと下らない会話をするのも楽しみのひとつだ。
「前に出した依頼は終わってる?」
出されたお茶をすすりながら確認する
アングリーボアの牙の収集の依頼をかけているのだ。
報酬は牙6本でアングリーボアのショートソード1本。
初級冒険者限定の
武器の価値がやや高いリナト周辺では初級者は刃の付いた武器を手に入れにくい。
そのため、材料の収集を依頼し報酬で武器を渡すようにしている。
俺は素材が欲しい。冒険者は武器が欲しい。win-winだ。
武器をもらうために武器が必要なのではと思われがちだが、アングリーボアは罠で捕獲が可能。時間はかかるがナイフ1本あればどうにかなる。
「依頼終わってるわよ~」
と言ってマニさんが麻袋をどかっと置く。
「ショートソード2本分の素材よ」
中身を確認すると牙がちょっと多い。
「あれ?ちょっと多くない?」
「あんたの依頼結構人気があるのよ?
牙を用意して依頼の張り出しを待ってる子もいるぐらいでね。
だから勝手だとは思ったけど必要な本数ちょっと増やしたのよ」
なるほどそういうことか。
「牙ばかり増えてもアレなんで、多い分は買い取ってもらっていい?」
「いいわよ。牙2本で銀貨3枚ね。」
「あとこれ次の依頼分です。いつも通り牙6本で依頼料はそこから天引きで頼んます。
張り出す時の条件は任せるけどあんまり吹っ掛けないでね。初級者が気の毒だ。」
先ほど工房で受け取ってきた完成品のショートソードを2本引き渡す。
「いつもありがとね。あんたの武器を持つ子が達成報告に来るたびに感謝しているよ。」
木製の棍棒頼みで冒険できるのはどこぞのゴリラぐらいで初級冒険者には無理だ。
俺の武器で初級者が生き残ることができているのなら依頼を出した甲斐がある。
「それは重畳。くれぐれも転売とか買い占めには気を付けて。」
「まかせときなさいって」
売上だけで言えば依頼に出さずに横流しした方が額になるはずだが、
俺の意図を汲み取って対応してくれるマニさんには頭が上がらない。
さて、あとはリナトの解体部に挨拶して買い物に行くかな。
リナト支部の解体部に顔を出す
「こんちわ。ケイブの兄さんはいます?」
「いらっしゃい・・・ってサハテイのバラシか」
大柄な30代の男が振り向く。彼がケイブ。
リナト支部解体部のリーダーだ。
作業場では大小さまざまな獲物が所せましと解体されている。
「ウチとは違って相変わらず繁盛してますね。
どうすか?最近いいの入った?」
「酒場にカワイイ女の子入りました?ぐらいのノリで聞くんじゃねえよ。
だが聞いて驚け。ワイバーンが入ったんだよ。」
ワイバーン。前脚が翼と融合した亜竜種だ。
腐っても竜の仲間、その強さはそこらの冒険者が束になってもかなわない。
「マジですか!でもワイバーンだとお残しはなさそうっすね・・・」
「それはお前さん次第だ。
そろそろお前さんが来る頃だったから時間もらって後回しにしておいたんだ。
当然手伝ってくれるだろ?」
解体職人の腕によって取れる素材の質と量が変わる。
珍しい魔物であればベストな布陣で臨むのは当然だ。
「やるやる。
「ま、そこは見てから判断してくれや。」
ケイブと一緒に冷蔵倉庫に入る。
ひときわ大きな台車にワイバーンの死体が鎮座していた。
体長およそ10m。中型のショベルカーぐらいと言えばイメージできるだろうか。
ちなみに某リオ〇ウスは体長20m。でかすぎワロタ。
胴体、脚、首に無数の矢傷や刀傷があり、翼の片方は焼けこげていた。
激闘の跡がうかがえる。
だが・・・
「厳しいっすね。」
解体屋からすれば状態はよくない。
「お客の希望はどんな感じですか?」
「取れるところは全部欲しいそうだ。特に魔石と角にはこだわっていた。」
台車をぐるっとまわりながら細かい部分の状態を確認する。
こいつは・・・
「鱗皮はどうです?」
ワイバーンの表皮はドラゴンのような大きな鱗ではなく小さい鱗で覆われているため鱗と皮を分けずに解体する。
「これだけ傷がついているからだろう。取れる分だけ取れればいいそうだ。」
「そうですか」
俺はニヤリと笑う。
どんなものにも真の価値というものがある。
このワイバーンの個体はレアものだ。
俺なら、活かせる。
「わかりました。細かい部分の骨と鱗皮を少々、焦げた方の翼爪1本で手を打ちましょう。」
「やってくれるか。脚の爪はやれないが傷んでる方ならなんとかなるだろう。」
「よし。
さあ、おいしい
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