けもフレ短編集〜特定の人にささるショートストーリー〜
井の中の蛙
カワラバト 題名「使われざる力」
「ほぇ?なんでそんなに力があるのに使わないのかって?」
俺は隣に座るフレンズ、カワラバトにそう訊ねた。聞くところによれば、彼女は小柄な体形をしているにもかかわらず、フレンズ身体測定でヘラジカやヒグマと同等の握力や腕力を叩き出したという。そんな彼女がなぜ戦いを好まないのか。それが気になって訊ねてみた所存だ。
「....そっかー。そりゃあ聞かれるよね」
彼女は夏の喧騒がやっと過ぎ去って肌寒くなってきた秋の青空を見上げる。
「最初は私も、なんでこんな力があるんだろうってびっくりしたんだー。だからセルリアンハンターにスカウトされたの。それでね....」
いざセルリアンに対峙したら、なんでか
【こいつは絶対に殺さなければならない】
って気持ちが出てきたんだ。そのあとからは、なぜか記憶があいまいになって....気が付いたらヒグマの膝の上で仰向けになってたの。
周りのフレンズから聞いた話だと、私だけが飛び出していってセルリアンを一人で全部倒したみたい。
それで、みんなが駆け寄ってきたら....なんでか、彼女たちにも手をかけちゃった、らしいんだよね。
私もよくわかんないんだ。
ヒグマの膝の上で目を覚ました時、周りのみんなの目が....
私を恐れているような眼をしてた。
「....それで、私はセルリアンハンターに向いてないから自分からやめたの」
彼女は道端に落ちている小石を拾い上げ、手でぎゅっと握る。
「私があんなことをしてしまわないために....セルリアンハンターなんていなくてもいい、平和な世界ができるように」
彼女は握っていた手を広げる。握られた小石はさらに小さく砕けていた。
「だから私は戦わずに、平和を願っているんだよ」
彼女は俺に向かって、愁いを帯びた眼でにっこりと微笑んだ。青空の下に吹く風が、今日は一段と冷たく感じた。
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