こんな夢を見た/田舎の家

青葉台旭

1.

 両親は遠い街へ行ってしまった。

 高校生の僕は、老いた住み込み家政婦と二人で両親の帰りを何日も待った。

 待ちながら、(父も母も、もう帰ってこないだろう)と、何となく思った。

 ある日テレビの天気予報を見ていたら、かつて祖父母(父の両親)が暮らしていた村に大雪が降るだろうと言っていた。

 祖父も祖母も大分だいぶ前に亡くなっていて、彼らの住んでいた古い日本家屋は、父が相続した。

 しかし、相続した時点で既に父は、街場に自分自身の家マイホーム(僕と家政婦が留守番をしているこの家)を建てて生活の基盤を築いていた。

 いくら生まれ育った家を相続したからといって、父としても今さらそこへ移り住む訳にもいかなかった。

 祖父が他界し、その何年後かに祖母も亡くなって以降、もう二十年近く、その古い日本家屋は誰も住まないまま放置されていた。

 似たような空き家が祖父母の村には何軒もあって、人の住んでいる家の方が少ないくらいだった。

 僕は、普段ほとんど忘れてしまっているその田舎の家が、急に気になりだした。

 その家を相続した父が不在ということは、その管理責任は、この僕にある……そんな風に思えた。

 僕は家政婦に「今から村に行く」と告げて、父の自動車くるまに乗り込んだ。

 高校生だったはずの僕は、いつのまにか大人になっていた。

 運転免許証も持っていた。

 僕は自動車を運転して、かつて祖父母が住んでいた田舎の村へ向かった。

 村は、入り組んだ海岸線に沿って右に左に蛇行する道を延々と何時間も走った先にあった。

 海岸線を走っているうちにチラチラと雪が降ってきた。

 村へ向かって進めば進むほど、降る雪の量が増えていった。

 日が落ちて辺りが真っ暗になったころ、やっと村に到着した。

 僕は、かつて祖父母が暮らしていた、いまはもう誰も住んでいない海に面した古い日本家屋の鍵を開けて中に入った。

 築何百年の古い家だったが、二十年ほど前までは祖母が住んでいたから、もちろん電気も水道も通っていた。

 僕は座敷の電灯をけてエアコンの「暖房」ボタンを押した。 エアコンは動かなかった。

 窓を開けて室外機を見ると、既に雪に埋もれていた。

 急いで玄関から外へ出た。

 乗ってきた自動車も半ば雪に埋もれていた。もう動かすのは無理だろうと思った。

 周辺の家々にも明かりは無かった。この家と同様、子孫は別の街に行ってしまって無人のまま放置されている家ばかりだろうと思った。

 今夜一晩、祖父母の家に泊まるしかない。

 しかし暖房が無ければ凍え死ぬ。

(確か、石油ストーブがあったはずだ)と、広い古い日本家屋のなかを必死になって探した。

 どこかの暗闇に、何かが潜んでいるような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんな夢を見た/田舎の家 青葉台旭 @aobadai_akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ