思いついたネタの思いついた部分だけ書いて置いておく

アスカ

転生先の異世界で、魔王じゃないのに追われてます

転生先の異世界で、魔王じゃないのに追われてます 1

「く、くそっ、なんだってんだ……!」

 僕は今、人生で一番全力で走っている。

 全力だ。まさに。

 地面は適度に柔らかい。それが唯一の救いだった。

 ただ状況はそんなものを吹き飛ばしてもあまりあるくらいに悪い。

 何せここは見通しの悪い森の中なのだから。しかも全く知らない場所ときた。

 その中で狼に襲われれば、誰でも死ぬ気で走ると思う。

 ——気づかれる前にさっさと逃げていればよかった。

 そんなふうに思うが今更遅い。後の祭り、というやつだ。

(は、祭りなんて楽しいもんじゃねーよ、くそが)

 最初は何かできると思っていた。

 何か——というより、何でもできると思っていた。それを試すには悪くない相手なんじゃないか、などと軽く考えていた。

 だが実際には何もできなかったのだ。本当に、なんにもだ。

 どうしてだ? そんなことあるわけないだろう。

 ちょっと大きいだけの狼にこの僕が何もできないわけがない。

 なぜなら、僕は異世界転生者なのだから。

 息が苦しい。心臓が張り裂ける。

 そんな中で、うっかり後ろを振り向いてしまう。

 そして、見てしまった。

 ぐおお、と雄叫びをあげた狼が、こちらに飛びかかってくるのを。

 避けられる距離じゃなかったし、攻撃を外す距離でもなかった。

 狼ではあり得ない真っ赤な瞳と、日本刀のように鋭い牙が光ったように見えた。

 息が止まったのを感じた。

 最後に思ったのは。

(転生直後に死んだら、流石にコンテニューさせてくれるかな)

 という、信じられないほど希望的なことだった。

 人はそれを、藁にもすがる、という。

 こうして僕は異世界転生早々、二度目の死を迎えることになった。

 もう、絶対に油断はしない、と心に決めながら。

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