おい知ってるか?階段の上りと下りの段数が変わっても俺たちの友情は一生だぜ!

 意識はずっとあったが、目に見える世界が一気にカラフルになった瞬間があった。それと同時にどこか聞き馴染みがある騒音が耳に届いた。


 照りつける太陽の光がぞろぞろ並んでいる建物の表面に反射して、本来影になるはずの場所が燦燦としている。こんな景色を見た記憶は一切ない。でも懐かしさを感じる。


 「おい君っ!何してる!早く渡らんと危ないぞ!」


 背後から男性の声がするので振り返ると、複数の人がやぁやぁ騒いでいる。


 「渡るってなんだよ?」


 プーッ!


 俺の横から来た白い動く箱に威嚇された。ナニコレ、いきなり怖い。


 「ちょっと!早くこっち来てださい!」 


 横から急に現れた女性に手を引かれ、十数歩歩かされた。


 「あなたあんなところでなにしてたんです?あんなところで自殺とか勘弁してください。」


 俺と比べて少し背が小さいくらいの女性が、何かの窮地から俺を救ってくれたらしい。歳は同じくらいか?


 「あの!聞いてますか!?」


 「すまん、すまん。君は俺を救ってくれたのか?」


 「え、、まぁ有り体にいれば言えばそうなりますかね?別に私がやりたかったからやったことですからね!只の偽善です!」


 「君の偽善でこの命があるんだからな、偽善万歳だ。君、ここどこだかわかる?」


 「分かりますけど⋯。良かったら交番に連れていきましょうか?」 


 「交番…ね。」


 「え?冗談ですよね?警察がいるところですよ。」


 「警察は…あれか。はいはい。」

 

 「何ですかその反応は。ふざけてます?」

 

 「いやふざけてはないんだ。ホントに君が言っていることが分かんなかったんだって。」


 「何でわかんないんですか?じゃあ今は分かるって言うんですか?

 

 「今は分かるんだな。」


 「馬鹿にしてますね。もう帰ります。」


 「もしやあれかもしれん。記憶が無くなるやつ。」


 「まさかぁ?じゃあ質問しますね?今の西暦は?私たちがいる国の名前は?あなたが今話している言語は?」


 「すまん、全部分からん。」


 「⋯記憶喪失ってこと?んなわけないですよね。」


 「さっきからそう言っとるだろ。俺はあるピカピカする鏡にこの世界に行って精一杯生きなさいと言われたんだ。それ以上は何も覚えていない。」


 「記憶喪失に加えて狂人⋯?ちょっと手に負えないので私はここで失礼しますね。さよなr」


 俺は彼女の腕を反射的に掴んだ。


 「ちょっと待ってくれ。」


 「ちょっ!手を放してください!叫びますよ!?」


 「本当に何も覚えていないんだ。この世界に関しても先ほど言った通り全く知らない。このままだと飢え死んでしまう。どうか先程のような偽善で俺を救ってくれないか?」


 「えぇ⋯救うって、どうやって⋯。」


 「それは俺には分からん。でも、今この世界で頼れるのは俺にとって君だけなんだ。頼む。」


 「うぅ⋯。」


 十秒くらいの沈黙が続き、彼女は大きい溜息をした。


 「私って軽い女なのかなぁ⋯」


 「いや、身長が俺より少し小さいくらいなんだから軽いってことはないんじゃないか?」


 「な!?もうっ!少し助けてあげようかと思ってた自分が馬鹿でした!さよなら!」


 「え、なんか気に障るようなこと言ったなら謝るよー。ごめんって。」


 「もういいです!さよなら!」


 これが俺の新しい人生のスタートだ!

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