《 第三回合同捜査会議 》 2・3
2
神奈川県警捜査第一課課長の田辺警部は、今後の捜査方針を発表した
一、坂口浩介の行動監視
10係 永井淳也巡査・水月菜穂子巡査
大和北署 工藤博一巡査部長・藤田仁巡査
二、坂口浩介の交流関係
10係 新城泰治巡査部長
大和北署 浅倉正和警部補
三、坂口浩介の仕事関係
10係 安田大輔警部補
大和北署 佐賀洋子巡査部長
「どんなことをしても、家宅捜索令状の発行にこぎつけたい。坂口浩介の軽自動車が目の前にあっても、手も足も出ない状況である。それを早く打開したい。皆の協力なくして、発行は無いと思っている。何か一つ突破口になる物証を見つけて欲しい。」
と、捜査第一課10係係長の田辺警部は、あいさつをした。
3
八月十二日 午前十一時
お盆休みがはじまったこの日、朝から出版社のいくつかに連絡をしていた
捜査第一課10係の安田警部補と大和北署刑事第一課の佐賀巡査部長は、坂口浩介が寄稿している、月刊『コンバット・ガン』を発行している出版社が、話を聞いてくれるということで、訪れた。
安田警部補は、警察手帳を提示して
「お盆の最中、お時間いただいてありがとうございます。」
と、あいさつをした。
対応してくれたのは、編集長の大場隆久だった
安田警部補は
「今日からお休みですよね。お仕事ですか?」
「そうですね、出版社は、休日がないんですよ。締め切りだけに追われていますよ。取材があれば、土日・祝日は全く関係なくなりますよ。」
と、編集長の大場隆久は、笑った。
「それでは、連休もなしですか?」
「社としてはですね。ただ、編集者個々で、連休を取っていますよ。」
安田警部補は、本題にはいった
「早速ですが、フリーライターの坂口浩介さんの話をお聞きしたいのですが。」
「坂口さんですか?」
「そうです。」
「どんなことですか?」
「こちらで発行している月刊『コンバット・ガン』に寄稿していますよね。」
「そうですね。月刊誌ですが、年に十一回発行しています。」
「十一回の発行に、すべて寄稿しているんですか?」
「いえ、二ケ月に一度の寄稿をお願いしています。」
「どのような内容のものを、書かれているんですか?」
「坂口さんには、ガンの紹介文を書いてもらっています。雑誌としては、コンバットとガンを載せていますが、坂口さんは、コンバットには疎いですが、ガンに対しての知識はものすごく豊富で、その豊富な知識を書いてもらっています。」
「ガンというのは、モデルガンですか?それとも実弾を撃てる実際の銃ですか?」
「両方です。モデルガンであれば、メーカーさんの製品レビューです。」
「実際の銃であった場合は、どんな感じですか?」
「ちょっと待ってください。坂口さんは、何かしらの事件に関与しているんですか?もしかして、いま起きている連続射殺事件に関与しているんですか?」
「いえ、そんなことはありません。」
と、安田警部補は、答えた。
つづけて
「坂口さんに限らず、ガンに詳しい方の状況を調べているだけです。ですので、坂口さんがどうのこうのという訳ではなく、こういう雑誌が、どのように出来上がるのかも知りたいと思って、お聞きしています。」
「そうですか。」
と、編集長の大場隆久は、怪しいなと感じながら返事をしてみた。
「それで、実際の銃の時は、どうするんですか?」
と、安田警部補は、つづけた
「その場合は、海外で取材をします。アメリカが多いですね。坂口さんも何度か渡米して、記事にしてもらっています。」
「そうですか。ちなみに、近況ではいつ頃渡米していますか?」
「そんな事まで聞くんですか?」
「いえ、参考までです。調べないといけないようでしたら、大丈夫です。」
と、安田警部補は、話をさえぎった。
つづけて
「今後、坂口さんが寄稿する予定の雑誌は何月号ですか?」
「来月の9月号です。いま、まさにその号の最終確認を行っている最中ですよ。発売は、9月1日です。」
と、大場隆久は、答えた。
「それでは、先月取材をしたんですか?」
「いや、5月に取材をしてもらっています。」
「そうでしたね。二ケ月に一度、取材をお願いしているんでしたよね。」
「そうです。」
「ちなみに、先月の7月はどんな取材をお願いしたんですか?」
「先月は、モデルガンメーカーの取材ですね。新製品が、クリスマス商戦に合わせて発売される予定なので、その取材をお願いしました。」
と、編集長の大場隆久は、答えてくれた。
安田警部補は、質問をつづけた
「編集長は、ライターさんと呑みに行ったり、社内以外の場所で会ったりはするのでしょうか?」
「私自身は、年に二回ですね。忘年会と暑気払いの時に編集部とライターさんに集まってもらって交流会をしています。」
「坂口さんとは、年に二回しか話をしない?」
「まぁ、ここで会うこともありますのでその時は、世間話程度の話はしますよ。普段は、担当編集者とやりとりしています。」
「そうですか。その担当編集者の方に、少し話を聞くことはできますか?」
「先程からいろいろと聞いていますが、坂口さんは、事件に関与しているのでしょうか?」
と、編集長の大場隆久は、食い下がった。
安田警部補は、次の通り答えた
「いえ、先程もお話をしました通り、編集の方と、ライターさんの関係も知っておきたくてお聞きしたまでです。」
「うちの雑誌が事件に関与しているみたいな言い方に聞こえますが。」
「それも違います。単純に雑誌ができるまでのプロセスが解かればと思って聞いてみました。」
「わかりました。
担当編集者を紹介します。」
「ありがとうございます。」
と、安田警部補は、頭をさげた。
三十歳位の担当編集者が呼ばれた
「坂口さんと一緒に仕事しています。担当編集の園田明です。」
と、あいさつをした。
「園田さんは、坂口さんより年齢は若いですね。」
と、安田警部補は、聞いてみた。
「そうですね。」
と、頭をかきながら少し笑顔になった。
つづけて、園田は
「よき先輩ですよ。年齢もそうですが、人としても、ですね。」
「そうですか。尊敬している?」
「もちろん、していますよ。」
「呑みに行ったことはありますか?」
「プライベートで、ですか?」
「そうですね。」
「それはないですね。呑みには行きますが編集者とライターさんの仲だけですよ。」
「どんな話をするんですか?」
「もっぱら、ガンの話ですよ。」
「雑誌の構成とかもですか?」
「そんな話はしないですよ。ガンの知識はものすごいですから、僕が疑問に思ったことを解かり易く話をしてくれるので、編集としても助かっています。」
「そうだね。坂口さんが寄稿をしはじめてから、読者からの反応が、好意的になったね。」
と、編集長の大場隆久が、口をはさんだ。
安田警部補は
「モデルガンの改造等の話をしたことはありますか?」
この質問に、大場と園田は顔を見合わせた
編集長の大場隆久は
「やはり、いま起きている事件は、坂口さんの犯行ということですか?」
安田警部補は
「もし、そうだとしたらどうしますか?」
と、質問をした。
編集長の大場隆久は、こう答えた
「うちの雑誌とは関係ないです。モデルガンの改造についても、記事にしたことはありません。そんな記事を掲載してしまったら、モデルガンを製造しているメーカーから、大変な抗議を受けることになります。閉刊になるような危険な記事は絶対に書きませんし、警察としても、黙っていられないですよね。」
「そうですね。そんな記事が出回ってしまったら、大変な事件ですね。」
と、安田警部補は、答えた。
つづけて
「園田さんは、いかがですか?」
園田は、少し考えて編集長の大場を立たせて、席を離れていった
しばらくして、二人は戻ってきた
戻ってきた園田は、次の通り話をした
「先程のモデルガンの改造の件ですが、話をしたことはあります。」
「どちらから、その話題を持ち出したんですか?」
と、安田警部補は、質問をした。
「坂口さんからです。二人で呑みに行ったときに、そんな話がありました。」
「それは、雑誌に掲載したいという話でしたか?」
「そうではなくて、モデルガンの改造をしてみたいという話でした。」
「モデルガンの改造は、出来たという話は聞きましたか?」
「いえ、聞きませんでした。正直、真顔で話をはじめたので、少し怖くなって、それ以上、聞くのをやめてしまいました。」
「編集長には、この話をしましたか?」
「いえ、していません。」
「どうしてですか?真顔で言われて、怖く感じていたんですよね。」
園田は、編集長の大場の顔をみて
「すみません。怖かったのは事実ですが、僕にとって、大切なライターさんでもあって雑誌としても必要な方でしたので。」
と、言って、頭をさげた。
編集長の大場隆久は
「良いってよ。仕方ない私だって、そんな話を聞いただけで、雑誌に穴があくとも思っていないよ。」
つづけて
「刑事さん、坂口さんが、犯人なんでしょうか?」
安田警部補は、こう答えた
「いろいろな方に聞いている中の一人です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
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