《 第一回合同捜査会議 》 2・3・4

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 報告を聞いていた神奈川県警捜査第一課課長の佐々木警視は、こう切り出した

「現在、バラバラに管理をしている防犯カメラの映像や証拠品を、すべて合同捜査本部に集約する。本部鑑識課を筆頭に、各署鑑識班から二名を推薦し、合同捜査本部に常駐させる。」

 つづけて

「バラバラに映像や証拠品を確認していても、考えや見方の相違があれば、単独犯なのか、複数犯なのか。単独事件なのか、連続した事件なのかも判断するのに難しい。垣根を取り払い、いま起きている事件に、皆で真っ向勝負をかける。」


 これを聞いて、各署の鑑識班から二人が推薦され、合同捜査本部に常駐することになった。もちろん、総責任者は、本部鑑識課課長の山辺警部が仕切ることになった。総勢八人の精鋭部隊が整った。




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この事件が起きてから、はじめて田辺警部は、部下の安田警部補を喫茶店に誘った。お互い、珈琲について、うんちくを語れる間柄だった。とはいっても、珈琲のうんちくを語る時間も暇もなく。お互い事件の感想を、二人だけで照らしあわせる時間に喫茶店を、選んだ。


 大和北署の近くに喫茶「山猫」があった。喫茶店としては、めずらしく、個室がある、お店だった。


 二人は、珈琲を注文してこんな話からはじめた

「今回の事件で被害者同士の、共通する内容がないんだよ。」

 と、田辺警部が、切り出した。

「そうなんですよ。ひとつだけあるとしたら、銃弾で、亡くなっているということで、その弾の線条痕が一致しているということだけです。」

「佐藤さんは、一人旅の途中で。高校生の高橋君は、終業式の当日に。そして、野上朱美さんは、買い物途中に。事件に巻き込まれた。」

「そうなんです。」

「犯人の、素性や、行動パターンが、未だに判っていない。犯行時間もバラバラだしね。」

「解かっているのは、週に一度、犯行が起きているということだけですね。」

 と、安田警部補が、言った。


 田辺警部は、こう返事をした

「そうだったね。一週間に一度の犯行の意味を考えてみよう。」

「一番簡単なのは、その日が休みだった。」

「週に一度の休みだとすると、社員かアルバイトやパートで、定期的に休みがある働き方をしているということだね。」

「そうですね。そして、ドライブが好きなのか、旅行が好きなのか、どこかに行くのが好きなのか、街が好きなのか。」

「そうだね。これだけ色々な場所で起きているからね。どんな趣味を持っていてもおかしくないね。」

「でも、犯人の姿さえ判っていないんですよ。」

「そこなんだよ。男性・女性すらも判っていない。」


 安田警部補は、次のようにあらためて話をつづけた

「でも、ひとつだけ怖い現実は、一発で犯行を終わらせているということです。」

「それなんだよ。オリンピック選手や警察官や自衛官等で、銃の扱いに慣れていて、知識も豊富な人物だということだよ。」

「でも、動いている標的を射抜くことが、オリンピック選手や警察官・自衛官ができるのでしょうか?」

「そうだよね。われわれだって、構えて撃つことはあっても、動いている標的を撃つ訓練なんかしたことないしな。」

「そうなんですよね。それができるのは、スナイパーと言われる狙撃手の訓練を受けた者ということになりますね。」

「そんな人物は、日本でも、ごくごく限られた人物になるね。」


 話を進めれば、進めるほど、犯人像がプロに限られるようになった

 

 つづけて、田辺警部は、こう話をした

「白昼というか、人通りがある時間に起きていても、目撃者が被害者の姿を見ていても、犯人の姿を見たという話が出てきていないんだよ。」

「そうですね。プロなら、姿を見せなくても犯行が可能ということになりますね。」

「そこなんだよ。だからこの事件が怖いんだよ。見えない相手が、殺人のプロだったら、われわれさえも危険にさらされることになる。」



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 七月二十九日 午前九時


 各署から集約した防犯カメラの映像と証拠品が、大和北署の鑑識班部屋に置かれた。神奈川県警察本部刑事部鑑識課課長の山辺警部は、八人の精鋭部隊に、次の通り指示をした。

「この三件の事件が、単独犯なのか、複数犯なのか?三件の連続事件なのか?未だに解かっていない。だから、皆さんが培った鑑識の知識を最大限活用してもらいたい。せっかくなので今回は、八人をシャッフルする。いつもと違ったバディで、色々なものを見て、経験を共有して、この事件の解決の礎を築く。犯行時間の前後一時間の映像に映っている人物・車両の特徴を書き出して、三件が、どういった経緯で起きた事象かを発見する。」






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