人魚姫の涙。
@mariariri1212
第1話裏切りの味。
東京都の小さな街で起こった男子高校生殺害事件。
誰が、罪もない、平凡な男子高校生を殺害したのか、世間はみな注目を集めていた。
メディア達はこぞって集まり男子高校生の通っていた高校にまで行き、しまいには被害者遺族に質問を投げかけるなど、どこまででも遺族に配慮はなかった。
それが2014年9月15日の事である。
警察は全面的に犯人を捕まえると報道した。
そして事件発覚から1週間後の事だった。
「東京都男子高校生殺害事件」
の犯人と思わしき人物が逮捕された。
その人物に世間は眉間にシワをよせた。
まさか・・・ありえない・・・と。
その人物は男子高校生と親しい、いわゆる恋人関係である同い年の女子高生だった。
これには、みながダメージを受けた。
まさか・・・。
まさか・・・あの子が・・・、と。
でもそのまさかは存在するし、もう失った命は戻らない。
彼女は男子高校生を殺害した。
理由があるのか、ないのか、彼女は一言も話そうとはしなかった。
彼女自身も、きっとまだ・・・失った男子高校生を求めていた。
受け止めれなかった。
その一方で、あの時の感覚が深い快楽を彼女に与えていた。
殺人は悪い。
幼いときから教わった。
酒癖の悪いお父さんに、浮気ばかりするお母さんに。
あの人たちはあたしにはいらない。
いっその事あの人たちも殺せば良かったのだろうか?
狭い留置所で彼女は考えていた。
命ってあんな簡単に奪えるんだぁー。
でも、あたしは悪い事したけど仕方のないことだった。
2012年-春。
誠真高校は新入生で溢れかえっていた。
中学時代のぼったりと重い髪の毛とまだあどけない無垢の笑顔。
ピカピカの制服は少なくともあたしを引き立ててくれているはずだった。
紺のブレザーに白いブラウス、中学時代から愛用している灰色のダボッとしたカーディガン。
首元には青と白の線が入ったリボン。
スカートはふつーに紺色のプリーツスカート。
初日だからって関係ない、せっかく第1希望の高校に受かったのだ、少しくらい羽目を外したかった。
少し悩んであたしはスカートを2回おった。
紺の長い靴下を履き、まだなれない高校生専用の靴を履きカバンを抱えて家から出た。
そして着いた誠真高校はやはり、想像どうりの素晴らしいとこだった。
新入生の説明会と、言うことなので体育館へ行きたいものの、どうやら迷ってしまったらしい。
うろちょろしていると、ポンッと肩を叩かれた。
後ろを振り向くと、優しげなたれ目をした若いまだあどけない少年があたしを見ていた。
「道に迷った?俺もなんだよね!この高校マジ広すぎじゃね?」
少年は無視を決め込むあたしに構わずヘラヘラと話しかけてくる。
「君、名前は?俺大智!川口大智ってゆーんだ!皆たっちゃんとかたいちって呼ぶ笑」
どうしよ・・・教えとくべきだろうか?
でも何かとこいつに会う度話しかけられるのは気が進まない。
見た通り同い年っぽいし。
まぁ・・・そのうちバレるだろうし・・・。
あたしは頭をフル回転させた結果ひとつの結論を出した。
「凪・・・海野凪・・・」
「そっかーなぎちゃんか!!可愛いね!!俺たいちでいいから!!俺も凪って呼んでいい?」
屈託のない笑顔で言われては断れない。
「好きにすれば・・・」
あたしは素っ気なく返すと早く体育館に行かねばと、たいちを置いてその場を離れた。
体育館は案外近くにあった。
それがたいち・・・あたしが殺した川口大智、
男子高校生との出会いだ。
5月、新入生活にも慣れて授業も遅れずついていけている。
何とかやっていけてるのが自分でも驚きだ。
人づきあいが苦手で1人で行動したいあたしはクラスでも常に1人だった。
でも・・・オシャレはそれなりにしてるつもりだ。
入学して直ぐに染めたダークブラウンの肩までの癖のある髪、流行のキャラクターソックスも、もう買い揃えた。
何とか、動画や雑誌を見て覚えたナチュラルメイクも何とか映えているはずだ。
その成果かどうかは知らないけど、何人かの男の子に告白されたりもした。
もちろん、今のあたしには恋愛する余裕など微塵もないので、全てお断りした。
いつも1人のあたし。
それで良かった。
繋がりなんか要らなかったし、自分でも求めた事などない。
でも・・・たいちはあたしを見かける度嬉しそうに手を振ってくれたり、所構わず話しかけて来た。
最初はウザイと思っていたあたしだけど、たいちは話し上手で聞き流しても吹き出してしまったりした。
その時、ポンッと頭を撫でられた。
あまりの突然だったのでびっくりして動けなかった。
「笑った顔、すっげー可愛いじゃん!!いつもブスッとしてないで笑ったらいいじゃん!!
何か困ってんなら、俺相談のるし!凪、いつもいつも辛そうで何か抱えてんじゃん、好きな女が辛いのに見過ごせねぇよ!!」
たいちはニカッと笑った。
笑うと目が無くなる、んだ・・・。
「・・・・・・あんたさ、あたしの事好きなの?」
「あったりまえ!!入学式で一目惚れした」
たいちは胸を張って答えている。
バカなのかな?
「・・・・・・あんま人付き合い好きじゃないけどあたしでいいなら・・・」
何故、あの時たいちと繋がったのだろう?
あの時繋がらなければ彼は生きていた。
あたしの寂しさを埋めるだけなら、まだ良かった。
でも、あたしに言ってはいけない事を言ってたいちはあたしを裏切った。
あたしのものにならないなら、永遠にあたしのものにすればいい。
こうして海の中の孤独な人魚姫は陸地に住む人間と恋に堕ちました。
人魚姫の涙を拭うのは、彼しかいなかったのです。
孤独で尾びれが傷だらけの人魚を・・・。
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