第7話 取調室にて
**署の取調室の大きな机を挟んで、御影と田村、真奈美が向かい合わせに座っている。
山科は座らずに机の周辺を歩き回りながら3人を眺めている。
彼が長年培った、刑事流の観察方法なのだろう。
「T大の最終実験に残ったのは僕と田村君、そして中田博君の3人だけだった。何十人も居た”超能力少年”の中で、本物は3人だけだったんだね」
御影は懐かしそうに話し始めた。
「そのうち中田君は今や世界的なマジシャンとして成功しているね。彼がいちばん賢かったのかもしれないな。僕は馬鹿正直に力を全部見せたから、ひとりだけピエロにされちゃったんだ」
稀代の天才マジシャンであるデビッド・カッパフィールドがあるインタビューで「もし、あなたに本物の超能力があったらどうしますか?」問われて、「マジシャンになりますよ」と答えたことがあるそうだ。
たしかに本物なら、その道に進むのがいちばん能力を活かせるのかもしれない。
「私には御影君や中田君ほどの力が無かったからね、ピエロにもマジシャンにもなれなかったよ」
「そのかわりこうして真っ当な職を得ているじゃないか。僕なんかずっとヤクザなゴト師稼業だよ。まあそれはともかく・・僕は今、殺人の容疑者なんだね?」
殺人・・という言葉を聞いて、山科が鋭い視線を御影に送った。
「さすが御影君だな。私は思考を閉じているのに、よくそれが分かったな」
「いや、そちらの刑事さんの強力な疑念が読みたくなくても僕の頭に飛び込んでくるからね。ゴト程度の軽い容疑じゃないだろうと思ってね」
・・・この人は思考も読めるんだ。。確かに『同類』といっても私たちとはレベルが格段に違うのかもしれない。
真奈美はそう思った。
「俺の考えが読めるのなら話が早いな。じゃあ単刀直入に聴こう。お前は東心悟を知っているか?」
山科がそう切り出す。
「東心悟?誰だそれは?」
・・・とぼけているのか?それとも本当に知らないのか?
真奈美にはそれすらさっぱり読むことが出来ない。
「今、世間を騒がせている『コスモエナジー救世会』の教主様だよ」
「ああ、あの事件か。そりゃ連日ニュースになっているから知っているさ。間違いなく彼は『同類』だろうね。しかしやることが子供じみている。あんなに目立ってどうするんだろうね」
「お前ならあんなことはやらないっていうのか?」
「僕ならもっと密かにやるな。人前で派手に力を使うのには凝りてるからね」
「だから密かな実行犯がお前なんじゃないかと、俺たちは疑っているんだよ」
「やらない、やらない。実際こうして疑いがかかっているじゃないか。これだけ派手な事件に関わる気はないね」
ここで田村が口を挟んだ。
「御影君、しかし君なら出来るだろう?実際にやったことがあるんじゃないのか?」
「・・・・」
饒舌だった御影は急に表情を曇らせ押し黙った。
その顔を田村はしばらくじっと見つめて、そして口を開いた。
「山科さん。御影君の身柄は我々S.S.R.Iに預けてほしい」
「ちょっと待て。御影は殺人の容疑者だぞ」
「彼は犯人では無い。私が保証します。それよりも彼には捜査に協力してもらいたいのです。とにかく時間が無い。1週間以内に片を付けなきゃいけないんだから」
山科はしばらく熟考してから口を開いた。
「背に腹は代えられねえってやつか。。しかし、警察としては依然として御影は容疑者だ。責任もって身柄を預かってくれよ」
「ありがとう、山科さん。事件解決に最善を尽くしますよ。御影君、協力してくれるか?」
御影は上目遣いで田村の顔を見て言った。
「協力しなければここから出られないんだね。仕方ないが、その前に僕はそのお嬢さんに興味がある。少し二人きりで話をさせてもらえないか?」
・・・え?
驚いた真奈美は顔を真っ赤にした。
「あ、いや・・そういう意味じゃなくて・・『同類』として君のことを少し知りたいんだ」
御影はあわてて言葉を付け足した。
そのあわてぶりに、田村が顔を綻ばせながら言った。
「いいだろう。宮下君、御影君に勉強させてもらいなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます