4-6 ハンスにつける薬は無い

 ――翌朝。


 レッドドラゴン討伐は、今日からスタートだ。

 待ち合わせ場所の街の広場に四つのパーティーが集まったのだが……。


 ハンスは一人でやって来た。

 ウチのパーティーメンバーが、ここぞとばかりにはやし立てた。


「なんでアイツ一人なんだ?」


「ニャ! ハンスと仲間たちじゃ、ニャいのかニャ?」


「うむ。パーティー名を『ハンス』に変える必要があるのじゃ」


「ひとりぼっちなんだよ!」


「きっと奴隷に逃げられたのよお!」


 ハンスは顔を真っ赤にして、プルプルと震えている。


 ウチのメンバーは、女の子ばかりだからな。

 嫌だよね。

 可愛い女の子に、色々言われるのは。

 あーあー、可哀そう(棒)。


 今回、全体のリーダーを務めるアドリアン・アドニスのアドニスさんが、ハンスを咎める。


「ハンス。なんで一人なんだ? オマエ……やる気あるのか?」


「違うんスよ! アドニスさん! 俺は被害者! 悪いのは、ナオトなんですよ!」


「どう言う事だ?」


 ハンスは、長々と話し始めた。

 話しの九割方は、俺への非難だが……。


 まあ、つまり、『俺が奴隷をそそのかして、怖くなったので奴隷を売っぱらった』と。

 要約すると、たったそれだけ。


「――ですから、アドニスさん! 俺は悪くないんスよ!」


 ビシリと俺を指さすハンス。

 だが、広場は微妙な空気だ。


 アドニスさんは、目頭を揉みながらハンスを諭す。

 朝からお疲れ様です


「いや、ちょっと、待て……。だからって、奴隷を全員売る事は、ないだろう? 今からレッドドラゴン討伐だぞ。わかってるか?」


「わかってますよ! だから、責任はナオトにあるんスよ! ナオト! 金出せよ!」


 おっと、俺の方へ矛先が!

 俺は淡々と応じる。


「金を出せと言われても、俺に責任はないでしょう?」


「いや、オマエの責任だ! オマエが俺の奴隷に変な事を吹き込むから、おかしな感じになったんだ!」


「俺は自分の体験談を話しただけですよ。元奴隷としてね」


「謝罪と賠償を要求する! 新しく奴隷を買う金を寄越せ!」


「はあ?」


 スゲエな。

 そう言う交渉をするつもりで、自分の奴隷を売り払って来たのか。


「そんな金を払う訳ないでしょう! だいたい、自分に人望がないから、奴隷が主人に懐かなかった訳でしょう? あんたの奴隷の扱いが悪いから、奴隷が不満を持つんでしょ?」


「奴隷をどう扱おうが俺の勝手だろうが!」


「勝手に扱って、奴隷から嫌われた。ほーら、やっぱ、悪いのはあんただろ! 市場の真ん中でいきなり女奴隷の胸を揉むとか、顔が悪いと罵倒するとか、奴隷相手でもちょっとは自重しろよ!」


「偉そうに説教かますな!」


 もうね、朝一からハンスと言い合いになると言うね。

 地獄……。


 周りもシラケた空気になった。


 ハンスは長々と俺を非難したが、ついに、『紅の戦斧』リーダーのひげもじゃドワーフさんが、ブチ切れた。


「やい! ハンス! オメーは、いつまでゴブリンのクソみたいに文句垂れてやがるんだ! あー!」


「いや、俺はですね――」


「いや、じゃねーだろ! おめえの奴隷扱いが悪いから、奴隷が物騒な事を考えたんだ! 奴隷は上手く使うモンだろうが! 自業自得だ!」


「けど――」


 アドニスさんも我慢の限界を超えたようで、ハンスに説教を始めた。


「冒険者パーティーに奴隷を入れる時は、きちんと装備を支給して、きちんと食事を食べさせろってのが、常識だろ? 忠誠心の低い奴隷に裏切られた冒険者の話しなんて、山ほどあるじゃないか。危ない所に命をかけて行くんだ。自分の命を預ける仲間は、大事にするのが当然だろ? それが奴隷でもだ!」


 俺は心の中でアドニスさんに拍手を送る。


(そうだ。そうだ。やーい)


 奴隷は主人を傷つける事は出来ない。

 それは奴隷の首輪にかかった魔法が効いているからだ。


 逆に言えば、ただ、それだけの事で、自分の命を投げ出してまで、主人を助けるかどうかは別問題なのだ。

 そりゃ、ヤバくなったら主人を置いて逃げるし、隙あらば主人が死ぬ方に動くかもしれないよね。


 結局、ハンスはヒゲもじゃドワーフさんの所『紅の戦斧』が臨時で預かる事になった。


 アドニスさんと、ひげもじゃドワーフさんは、『ハンスが悪い。良い薬だ。これで他人に接する態度が良くなれば……』と言っていた。


 望み薄だと思うが……。


 ひと悶着あったが、ダンジョンアタックを行う事に変わりはない。

 全員でダンジョンへ入る。


 ルピアのダンジョンは、俺が最初に入ったエルンストブルグのダンジョンに似た石造りの遺跡風ダンジョンだった。


 入り口は、石造りの遺跡のような建物で、床に大きな魔法陣が書いてあり、全員で魔法陣に乗るとダンジョン内に転移が行われた。

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