第2章 イカサマだらけの神のルーレット

2-1 自由都市ノンゴロドに到着

 十日間の旅を終えザムザ自由都市同盟の自由都市ノンゴロドに到着した。


「どうだ? 報酬を半額にまけないか? そうすればオマエを専属にしてやるぞ?」


「いえ……結構です……」


「ふん! ほら! サインだ! とっとと行け!」


 アコーギさんは毎日報酬をまけろと言って来た。

 俺は『勝手な事は出来ない』、『ギャラ交渉は冒険者ギルドにお願いします』とやんわり断り続けた。

 最初は、『まあ、仕方ない』と思っていたが、最後の方はかなりウンザリした。


 護衛の仕事は拍子抜けする程、何も無かった。


 夜野営をするので、一晩中火の番をする。

 数時間に一回、『魔よけの木』と言う黒い枝をたき火に放り込むのだ。

 この『魔よけの木』はダンジョンのドロップ品で、地上で燃やすと魔物が寄って来なくなるそうだ。


 食事はお察しだ。

 カチカチのパンと水がアコーギさんから支給され、水でパンをふやかして食べた。

 正直不味かったし、ぶっちゃけ二度と食いたくない。


 そんな依頼もこれで終了だ!


 俺は任務完了サイン済みの依頼書を持って冒険者ギルドへ向かう事にした。



 自由都市ノンゴロドは、大きな川沿いの街だ。

 水運が発達しているようで、川沿いに船着き場があり沢山の船が停泊している。


 街は木造の建物が多い。

 あまり洗練されていないが、どの建物もしっかりした頑丈な造りだ。


 石畳の大通りを歩いていると剣と盾をモチーフにした看板が見えた。

 近寄ってみると『冒険者ギルド 自由都市ノンゴロド支部』と書いてある。


(ここか! デカい建物だな……)


 ノンゴロドの冒険者ギルドは、木造だが三階建てで横幅もある。

 分厚い木製の扉を開けて中に入ると、だだっ広いロビーになっていた。


 左側に掲示板、中央に木製のカウンター、右側にはテーブルと椅子が数脚あるだけだ。

 かなり殺風景な印象を受ける。


 時間は昼過ぎなのだが、閑散としているな。

 中央のカウンターにも人がいない。


 カウンターの椅子に腰かけ奥の方に大声で呼びかける。


「すいませーん! 誰かいませんかー!」


 すると奥の方から野太い声が返って来た。


「おーう!」


 姿を現したのは、『山賊の親分』みたいなイカツイ男性だ。

 白髪交じりのオールバックで、片目が無いのかアイパッチをしている。


 頬には大きな傷跡、ぶっとい腕にも無数の傷跡がある。

 毛皮のチョッキにコゲ茶のシャツにズボン、ショートブーツをドカドカと鳴らしながらこちらに近づいて来た。


(えっ……! この人が冒険者ギルドのスタッフ!? 場所を間違えたか!?)


 イカツイ人は俺の目の前の席にドカリ座った。

 背後に『ゴゴゴゴゴゴゴ』と効果音が見える。

 体の厚みが凄いな……。


「あの……ここは……冒険者ギルドでしょうか?」


「そうだ」


 こ、怖い!

 そっとサイン済みの依頼書をカウンターに差し出す。


「えっと……依頼が完了したので、依頼書を持って来ました……」


「おお! ご苦労さん! 新人か?」


 イカツイ人は、ニカッと笑った。

 笑顔も怖い。


「はい! そうです!」


「うんうん! 偉いぞ! 俺は受付担当のセルゲイだ」


「ナオトです。よろしくお願いします」


 こんなイカツイ人が受付担当と言うのもどうなんだろうか?

 もう少し純情可憐な好印象の女性を配置して貰いたい。

 セルゲイさんは純情可憐とは真逆の存在だな。


 そんな事を考えていると、俺の目の前に木のカップが置かれた。

 横を見るとこれまたセルゲイさんに負けず劣らずイカツイ人がお盆を持って立っていた。


「歓迎するぜぇ。新人。茶ぁ飲めぇ」


「……ありがとうございます」


 やべえ……背後に『コオオオオオオ』とか効果音が見える。

 お茶を頂くが、緊張で味がまったくわからない。


 俺は親切にされているはずなのに、威嚇されていると感じるのは何故だろうか?


「ナオト。手続するから、ギルドカードを見せてくれ」


「は、はい」


 セルゲイさんは、ゴツイ手をニュウっと目の前に出して来た。

 ギルドカードをグローブみたいな手に載せる。


「うん? 名前しか書いてねえな……」


「あ! 登録した時に時間がなくてですね。続きは自由都市ノンゴロドの冒険者ギルドでやって貰えと言われたのですが……」


「おおっ! そうだったのか! よーし! じゃあ続きだな! この紙の上に手を置け!」


 セルゲイさんは羊皮紙を一枚カウンターの上に置いた。


(魔法陣?)


 羊皮紙には複雑な模様と文字が書き込まれていた。

 魔法陣に見える。


 恐る恐る羊皮紙に手をのせる。

 手が羊皮紙に触れた瞬間、羊皮紙が『カッ!』と光った。


 慌てて手をどけると、羊皮紙の魔法陣が消え、代わりに文字が書き込まれていた。



 -------------------




 ◆ステータス◆


 名前:ナオト・サナダ

 年齢:13才

 性別:男

 種族:人族


 ジョブ:なし


 HP: H

 MP: H

 パワー:H

 持久力:H

 素早さ:H

 魔力: H

 知力: H

 器用: H


 ◆スキル◆

 なし




 -------------------



「おおっ!」


「こいつは『鑑定紙』と言ってな。手を置いた者のステータスを表示してくれる」


 これは凄い!

 この世界はステータスなんて物があるのか……。


 しかし、全部が『H』?

 文字はアルファベットと違うが『H』なのはわかる。


 これ強いのか?

 弱いのか?


「それで俺のステータスの『H』は?」


「一番低い。一番上がSで次がA、BCDEFGと来てHだ!」


 ぐうう……。

 一番低いステータスなのか……。


 ま、まあ、年齢も13才だし。

 奴隷で栄養状態も悪かっただろうし。

 鍛えていなかっただろうし。

 こんなもんだよね。

 うん。


「がはははは! オールH! オールH!」


 セルゲイさんは、俺のステータスを見て大うけしている。


 なんだろう?

 色々と悔しい気がする。


 Hは違う文字だから、おそらく脳内で変換されているのだろう。

 だからHと言っても、スケベは意味しないのだが、激しくバカにされた気がする。


 はあ……。

 悪意のない笑い程人を傷つけるのだよ。


 さて、話を進めて貰わなければ!


「それでセルゲイさん。大体見た感じ想像つきますが、俺のステータスは最低ですよね? HPがH、MPがH、パワーがH……」


「待て! ナオトは字が読めるのか!?」


「はい。読めます」


「ほお! それは貴重だな」


「字を読める人は少ないのでしょうか?」


「うむ。それなりにはいるがな」


 識字率が低いのか。

 ここまで旅して来た印象だが、この世界の文化レベルは低い。

 だから識字率も低いのだろう。


 セルゲイさんが話を続ける。


「それでジョブと言うのはだ。戦士、剣士、盗賊、魔法使い、回復術士、弓士の六つの初級職から選ぶのだ」


 なるほど。

 ゲームに出て来るジョブシステムみたいな物か。


「初級職って事は、中級職もあるのでしょうか?」


「うむ。初級職で長らく活動すると中級職になれるぞ」


 セルゲイさんが各ジョブについて大まかに教えてくれた。



 ・戦士、剣士

 前衛職。

 魔物との戦いで最前列に出て、剣、槍、斧などの得物で戦う。

 盾を装備して守備重視の戦いを行う事もある。

 HP、パワー、持久力が高い者向き。



 ・魔法使い

 後衛職。

 戦士や剣士の後ろから魔法を撃ちこんで魔物を倒す。

 MP、魔力、知力が高い者向き。


 ・弓士

 後衛職。

 戦士や剣士の後ろから矢を撃ちこんで魔物を倒す。

 器用が高い者向き。



 ・回復術士

 怪我人を回復魔法で回復させる。

 前衛で戦う人もいれば、後衛で回復役に専念する人もいる。

 MP、魔力、知力が高い者向き。



 ・盗賊

 偵察役、遊撃。

 先行して情報収集したり、ダンジョン内の罠を解除したりする。

 戦闘では遊撃役が多いが、前衛をこなす者もいる。

 素早さ、器用が高い者向き。



「ま、ざっとこんな感じだな。パワーが無くても素早さが高いスピードタイプの剣士もいるし、自分のやりたいジョブを選べば良い」


 ほほう。

 面白いな。


 ジョブと言うか……自分がどんな役回りを行うかは考えていた。

 アコーギさんとの十日間は、それ程やる事もなかったからな。


 まず、冒険者になる事は、神様からの依頼『魔王を倒せ』を形だけでも実行する為に必須だ。


 とは言え!


 あのダンジョンでの戦い。

 エルンスト男爵家三男フォルト様が亡くなったトライコーンとの戦い。


 あんな凄惨な現場に俺はいたのだ。

 一緒にいた三十人以上の人間が俺以外全滅した。


 正直、ダンジョンや魔物は怖い。

 出来れば戦いたくない。


 そこで俺が考えていたのは……。


「ジョブは弓士でお願いします!」

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