第2話(一人目のヒロイン&能力登場回)
慎吾といつものように朝の挨拶をしたあと、僕たちは一緒に登校する。
今日はテストの答案返却の日なので通学路ですれ違う同じ制服を着た生徒たちはいつもよりもソワソワしているように感じる。
自慢ではないが、僕は学力に関しては自信があり、今まで一度も一位を逃したことはない。
学年二位と20点以上の差をつけて常に一位をキープしている僕は敬遠されがちで、慎吾以外の他の人、特に女子には距離を取られている。
そのせいで僕はいわゆる『ボッチ』あつかいを受けており、虐められることはなくても哀れみを込めた視線で見られることはよくある。
と、ここまでとくに目立った会話もなかったので心の中で自分自身の説明をしていたわけだが・・・
・・・・・・うん、すごく変な人。
まあいいや、とにかく、僕には慎吾以外の話し相手がいなかったということが言いたい。
慎吾はイケメンでモテモテ、学力は平均より少しいいぐらいだけど、運動神経は抜群。おまけに苗字は鳳。主人公っぽい珍しい名前。
バレンタインデーなんかだと一緒に登校して下駄箱を開けた時にチョコレートの山が崩れる現場を見た。
そして慎吾は性格も良く、土砂崩れを起こしたチョコレートたちを丁寧に全て拾い上げると予め用意していたレジ袋ほどの大きさがある袋に一つずつ丁寧に入れていく。
この用意の良さから見て、小中学校でも何回か経験したことがあるんだろう。
そんな慎吾と一緒にいる僕はと言うと、頭は良くても運動ができず、顔も平均。
少しでも馴染みやすくなるようにと思ってメガネからコンタクトに変えてみたりもしたけど、廊下を歩くたびにヒソヒソと囁かれてしまうのですぐにやめた。
こう言うこともあり、慎吾と一緒にいると慎吾を狙っているであろう女子たちから恨みのこもった目で見られることもしばしば。
たまに体育館裏に呼び出されたから行ってみたら誰もいないなんてこともある。虐めとはいわないが、嫌がらせとは言っていいだろう。
そんな感じで僕のそばにいる慎吾と僕との間には全体に詰められない『差』というものがあって、僕は苦労しているが、やはりともだちであることに変わりはなく、いつも仲良くさせてもらっている。
そんなことよりも重要なのは僕の能力のことだ。
昨日徹夜で大量のサイトを漁った結果、能力者は自分の能力が何か理解できていないうちは無差別に能力を発動させてしまうことがあるらしい。そして、自分の能力を理解した時に記憶の中に能力名が刻まれるのだとか。
と、独白していたらもう校門前。
ここは
今日はテストの結果が張り出されているため、教室に行くときに職員室前の道に通りかかると沢山の人にもみくちゃにされてしまう。
案の定職員室前には『何処のバーゲン?』と聞きたくなるぐらいには人があふれていたので、少し遠回りだけど一度渡り廊下で旧校舎に行ってからもう一つの渡り廊下で新校舎に戻る形にすることを考える。上から見ると四角形をしている校舎ならではの通り方だろう。
僕は踏んでいた上靴の踵の部分を履き直すとそのまま渡り廊下の方へ歩みを進める。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
と、ここで毎テスト恒例のあの方による『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』が炸裂。
そこにいたのは常に学年二位を走り続ける黒髪ボブカットの女の子。
学校を代表するような美少女ではあるのだが、何処かの企業の社長令嬢と言うこともあり、常にトップであろうとするから学年一位の僕にテストのたびに突っかかってくる。慎吾の次によく話す人。
柚瑪村という苗字といい、本当にメインヒロインも真っ青な感じのすごいところに生まれた人だけど、なんかもうこう言うの見せられると惚れようにも惚れられないよ。
もうね、一年生の時からずっとだからね、もうセリフ覚えちゃったよ。
次の言葉はーー
「今回のテスト手を抜いたな!!」
あれ?いつも通りだと『今回のテスト、ズルをしたな?!』なんだけど、どう言うことだろう。
気になる。こう言う時は質問するのみ!!
「どう言うことだ?」
無難な言葉。肯定も否定もせずになにがいいたいのか聞く方法の1つ。
「どうもこもないでしょ!!私に20点以上も差をつけて勝っときながら今回のテストで全教科合計『777点』とかふざけるのもいいかげんにしなさい!!こんなんで一位をとっても嬉しくないわよ!!」
「ちょっと待て、」
777点だと?僕はそんな面倒なことしてないぞ?いつも通り普通に問題解いてたし。
「待てってなによ?しらばっくれるつもり?」
「本当にわざとじゃ無いんだよ!」
「あれを見て誰が偶然っていうの?学年順位が77位で点数が777点とか、狙ってるとしか考えられないじゃ無い!!」
学年77位だと……
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
今日の授業がやっと終わった。
みんなはこの後のファミレスの予定とかを話しながら帰宅の準備をしている。
かく言う僕はと言うと、机に突っ伏して自分の存在意義を自分自身に問いかけている状態。
これまで学年一位を取ってきたわけだから自分にもそれなりの自信はあったし、周りも認めてくれていた。
でも今回のテストで
いつも褒めてくれる先生にも『テストはちゃんと受けましょう』とか言われた。
学年一位にいたから僕はいじめられることもなかったけど、もう僕は学年一位では無い。
存在意義を失ったボッチとなってしまったわけだ。
うん、明日からは
あぁ、僕の能力が戦いに使える能力だったらいいなぁ。
僕はカバンの中に今日返された答案を綺麗に折りたたんでいれて、椅子を立ち上がると教室の出口まで歩いていく。
あ、消しゴムが落ちてる。
「これ、違いますか?」
「あっ、あ、ありがとうございます。」
めっちゃ目を逸らされたまま、奪うように消しゴムを取られた。そんなに僕のこと嫌いかね?
ついてないなぁ。幸運を呼び寄せる能力とかほしいなぁ。
トボトボと廊下を歩いて下駄箱に向かう。
あ、ハンカチが落ちてる。
「これ違いますか?」
「あ、ありがとうございます」
はぁ。
あ、ティッシュが落ちてる。
「これ違い(以下略)」
「あ、ありがと(以下略)」
はぁ。
あ、髪留めが落ち(以下略)
「これちg(以下略)」
「あ、ありg(以下略)」
あ、ボールペンが(以下略)
「こr(以下略)」
「あ、(以下略)」
はぁ。
やっと下駄箱。
「落し物多くね?!」
今日は落し物多すぎでしょ。何回もかがんだから腰が痛くなったよ?
ひょっとして嫌がらせ?学校中の生徒が僕を困らせようとしている?
だったら校門を出るまでの辛抱ってことか。
はぁ。
・・・・・・・
・・・
・
とか考えてた十分前の自分を殴りたい。
商店街を通っていると人とすれ違うたびに落し物を届けなきゃいけないから、腰の痛みと戦わなきゃいけない。
さらには、青果店のメロンが転がり落ちてきたり、横を歩いていた子供の手にあるアイスクリームが落ちたり、最悪なのは鳥の糞が目の前をかすめたり。
そのせいで、僕が一歩歩くと腰を屈め、一歩歩くと子供がもう一個のアイスをねだり、一歩歩くと危うくメロンを踏み潰しそうになり、一歩歩くと目の前に白いものが落ちる。
テストの順位が落ちた日にこの一連の落し物騒動。
もうわかったよ。
僕の能力は……
「
『能力者の能力自覚を確認。能力名:
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます