30話 繚乱
「あと、1分。耐えてくれ…」
その1分はあまり長く感じなかった。
実際に1分ではなかったのかもしれないが、それでも短かった。
「いけるのか?」
「ああ、十分だ!」
貢は鬼力を回復させるのが得意ではない。
というよりは回復しづらい体質なのである。
大技を2回使ったとはいえ清のような十二星会レベルであれば2分で回復することができる。
しかし、5分かかってしまう。
貢が細かい練習を続けているのもこのためである。
「クソスライム!テメェは今からこの俺様により灰となる。覚悟はいいよなぁあ?」
貢はこのスライムが何をしたのかは知らなかったが、感じるのである。
悪意や殺意。
普段DoGから感じる悪の気配を
『十戒慈愛の撃 点火隕石殴打 繚乱 (じっかいじあいのげき インパクトメテオブレイク りょうらん)』
「打打打打打打打打打打駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄駄打離ァ亜亜亜亜亜――――――――!!」
「ははは…」
その技の威力に清は笑うしかなかった。
爆音と爆発、異常なまでに派手な技でありながら、それが霞むことのない威力。
鬼力感知のうまくない清や真が身体中から汗が止まらないほど出るくらいに物凄い技であった。
すでに二人の目の前からスライムが消え去っていた。
「ふう、あ?なんだ?」
貢は全てのスライムを焼き尽くしたあと、目の前に見える黄色い何かを見つける。
「これは…スライムか?」
先程の緑とは違い、黄色いスライム。
貢には鬼力がほぼ残ってはいなかった。
しかし、倒す事は可能だった。
『十戒慈愛の撃 点火隕石殴打 逆式 灯火の花(じっかいじあいのげき インパクトメテオショット ぎゃくしき ともしびのはな)』
その技は先程の技とは違い鬼力も音も殆どしないまま、黄色いスライムを消した。
その瞬間、貢と清と真の勝利が決まる。
〜
「眠い。」
「おい、首動かすな。耳が切れるぞ。」
スライムを倒したあと、『十戒』の効果が切れ普通の状態に戻った貢は溜まりに溜まった疲労により指一本動かすことができなくなったいた。
そして、2日ほど寝た貢は真に髪を切ってもらっている。
「というかお前、そんな怪しい薬よく飲んだよな。」
「たしかに今考えたらセンスがねぇよな。ただ、そん時はなんかいけると思っちまったんだよ。」
「何言ってんだお前は…清さんも何か言ってやってください。」
「その薬…知っている。」
思わぬ事を清の口から聞こえたので思わず二人は叫ぶ。
「「まじで!?」」
二人があまりにも声を出したので少し驚いていた。
「ああ、確か…剛が似たようなものを作っていたような気がする。」
「てことは…その『鬼の子』って奴は1区の人間ってことっすかね。」
「その可能性が今のところは一番高いな。1区のセキュリティが弱いとは思えない。」
その後もいろいろ考えたが、めんどくさくなり、考えるのをやめた。
〜
「ねえ、君のお名前はなんて言うの?」
「えっ!」
「お名前は?」
「え、あ、あやかです。」
「あやかか。いい名前だね。」
「あの、あなたは…?」
「僕?僕は?『マルコシアス』。マルコでいいよ。」
「マルコ…?」
「うん。僕は君の能力で僕の未来を見てもらおうと思ってきたんだ。」
「み、未来ですか…」
「そう、あと少しで正午だ。」
「わ、わかりました。」
「僕について知りたいことはあるかい?」
「い、いえ…」
「そうか…おや、君は体が悪いのかい?」
「え?なんで…?」
「やっぱりそうか。そうだ…あ、もう正午だね。未来を見てよ。」
「は、はい。」
『未来を見る太陽』
「どう?」
「え、えっと…」
「もしかして、良くない未来が見えちゃった?別にいいよ、隠されるのが一番悲しい。」
「いえ、そうではありません。見えないんです。あなたの未来が…」
「見えない…?それは、すぐに死ぬと言うことかい?」
「ち、違います。ほんとに何も見えないだけです…私自身初めてのことで…」
「そうか…ありがとう。何かお礼をしなければな。」
男は右手の人差し指をあやかの口の中に入れる。
「ふぇっ!」
「喋らないで、集中するから。」
あやかの口の中に今まで生きてきて感じたことのない何かが入ってきた。
「これで、大丈夫。君の病気はもう、治った。」
「え?」
今まで感じていた疲労感や体を動かすときの不自由さが全て消えていた。
「ありがとう!」
その言葉を伝える頃に『マルコシアス』はいなかった。
〜
「何も見えないか…実に僕らしい。」
『マルコシアス』はスライムの死んだ場所から何かを取り出す。
「これがあればいい…ふっふっふ。王者、待ってるよ…」
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