15話 見せつけろ女の意地

『フレキ』は初めて恐怖という感情を感じた。


今まで生まれてきてから自分より強い人にも尊敬はしても恐怖だけは感じたことがなかった。


しかし、今、目の前で腹を刺され死にかけの人間が笑っているという光景を見て恐怖というものを感じた。


自分よりも弱く、自分に負けたはずの相手を見て体が震えていた。


「ハハハハ。どうした?私が怖いのか?」


「そんなわけがない。私より強いものならわかるが、私より弱く、私に負けた者に恐怖など感じるわけがないだろう。」


しかし声は震え、心臓の音が聞こえるほどに恐怖を感じていた。


『フレキ』は恐怖を感じたということよりもなぜ感じているのかの方が気になって仕方がなかった。


「なぜだ…」


「教えてあげようか?それはね。私はあなたより弱いかもしれない、でも負けてない。まだ勝ってない相手に勝ったと言うことにあなたの体は恐怖している。私の未知の部分にあなたの体は恐怖している。」


「負けていないだと?死にかけの分際で…」


「確かに、死にかけ、でもね、あと5秒で私はあなたを倒す。」


「5」


「何を言っている?そんなのできるはずがない…」


「4、3」


「どうせハッタリなんだろ?」


「2、1…」


「こいよ、やってみろよ。」


「0。」


真希が0と言った瞬間。真希の下から大量の赤い植物が生えてくる。


『植物園の管理人の服タイプ戦闘特化 紅(しょくぶつえんのかんりにんのふくたいぷせんとうとっか くれない)』


真っ赤に染まった植物の服を着、植物で出来た車ほどの右腕で『フレキ』殴り飛ばす。


「あんたが、敗者だ!」


そう言って、まきはその場に倒れこむ。



真希が行ったのは、いつもの逆である。


いつもは植物が育つ時に水や日光などを必要しない様にしているが、今回はその逆成長するためにある必要なものがいるようにした。


それこそが人間の血。


真希は拘束される寸前に自分の真下に種を落としていた。


縛られたまま絞殺される可能性もあった。


まさにギリギリの戦いだった。


『紅』は血を必要にする代わりに強い。


『フレキ』を倒すためではあるが、あまりにも血を流しすぎた。



『フレキ』と真希が倒れる少し前、真希が『フレキ』に斬りかかった少し後。


「オラオラオラオラオラ。」


「はあああああああああ。」


『ゲリ』の止まらない攻撃を凪沙が受け止め続けていた。


「そろそろ諦めたらどうですか?」


私が諦める?


そんなのありえない。


昔、何かの時に聞いたことがあった。


リーダーの好きな女の子のタイプを。


「俺の好きなタイプ?そうさなぁ…男女は別にして諦めない奴は好きだな。時には諦めるのも必要だけど少しくらいしぶとい奴の方が俺は好きだな。」


そんなことを言われては諦められるはずがない。


私は何も諦めない。


だから!


「ふざけんなぁああああああああああああああ!」


「ここに来て水の勢いが上がった?先ほどまでは本気じゃなかったんですかね?じゃあ、僕も行かせてもらいますよ。」


すると『ゲリ』の『アイスボール』は数は減ったが速度が上がった。


一撃の威力も上がり凍らせる速度の方が少し上回り始めた。


まずい!


このままだと、もうこの『水の鎧』では持たない。


でも!


持たせるしかない!


能力は無限に出来るわけじゃない。


走れるからと言って無限に走れるわけではないのと一緒で能力にだって限界はあるし疲れだってある。


私は能力的な体力には自信がある。


だから、耐久戦に持ち込もうとした。


しかし、最初に疲れが顔に見え始めたのは私だった。


私の額に汗がで始めた時にまだ、『ゲリ』は笑顔を絶やしてはいなかった。


得意の耐久戦では勝てない。


しかし、これしか今の私には出来ない。


いや、違う!


勝手に決めるな!


私は諦めない。


私が私自身で奴を倒すことにまだ私は諦めていない!


「ねぇ、そろそろ凍ったら?どうせ、君じゃあ勝てないからさ。」


「黙れよ。私が勝てない?勝手に決めんな、バーーーーカ!」


「さっきから思ってたけど、女の子なんだからさそんな汚い言葉は使わない方がいいよ。」


「いいんだよ。女だって汚い言葉になろうともなさなきゃいけない時があるんだよ!」


「ふーん。それってどんな時?」


「惚れた男に振り向いてもらう時だよ!」


凪沙の周りを回っているだけだった水が凪沙を守る服へと形を変える。


それはまるで水で出来たウェディングドレスだった。


『セイレーンの花嫁衣装(セイレーン・ドレス)』


「能力をコントロールできるのはすごいけどさ、正直そんな薄さじゃ僕の能力を1発食らっただけで終わりだよね。」


『アイスボール』


目の前に液体窒素が来ているのにもかかわらず、凪沙は瞼一つ動かしていなかった。


その姿はまさに凪いだ海。



私はみんなみたいに寺や教会で育ったわけじゃ無い。


海の近くの道場で育てられた。


そこで毎日武道に勤しんでいた。


何かと言われると何かは分からないオリジナルの武術だった。


海と一体になり、体を動かすのではなく波のように流す。


昔の私には何が何だか分からず成功することはできなかった。


でも、今ならできる!


『人海一体術壱の心得『凪』(じんかいいったいじゅついちのこころえなぎ)』


全身の動きを止め、体全身で今いる場所全てを感じる。


相手の呼吸、足音、周りの様子。


全てを知り全てになる。


目を閉じていてもわかる、相手の技が今私の目の前にいることが。


『人海一体術弐の心得『海流』(じんかいいったいじゅつにのこころえかいりゅう)』


避けるのではなく相手の技によって生まれた波に乗る。


「なんだ今の?避けたのか?いや、そんな風には見えなかった。こいつ、こんな切り札を!まずい!」


「今更気づいても遅い。」


『人海一体術陸の心得『灘』(じんかいいったいじゅつろくのこころえなだ)』


凪沙は足音も立てずに速く、そして流れるように『ゲリ』のところへと行く。


なんだこの女の動き?


読めねえ。


だが、対応出来ないわけでも無い。


『凍てつく世界』


液体窒素を壁のようにする事でどこから来てもこれでお前は凍りつく。


その速度、急には止まれないだろ。


「なるほど。でも甘い!」


『人海一体術参の心得『落潮』(じんきいったいじゅつさんのこころえおちしお)』


凪沙は止まるのではなく引いた。


ほぼモーションなしで前に進んでたというのに後退したのだ。


「なんだよ今の動き?気持ちわりぃ。」


「私にこれをさせたのは失敗だったな。波は一度引くと次来るときには津波のように大きくなって帰った来る。その場しのぎでは今の私には勝てない。」


『トライデント』


凪沙の右腕に三俣の槍ができる。


「海の力を知れ!」


『人海一体術伍の心得『濤』(じんかいいっちじゅつごのこころえとう)』


「はあああああああああああああ。」


凪沙は『ゲリ』に向かい先ほどよりも速く強く行く。


だめだ。


この波は避けられねぇ。


さっきみたいな壁を作るには時間がねぇ。


この波はデカすぎる。


『ポセイドンの槍(ぽせいどんのやり)』


凪沙の槍は『ゲリ』の腹を貫いた。

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