竜の王女

猫たろう

第一章 タンジー村の子供たち

第一話 物語の始まり

 片翼のままなんとか逃げ延びてきた森の中で、そのドラゴンは最後を迎えようとしていた。


 淡い光に包まれ星の様に輝く白い体毛は、よく見るとそこら中に傷があり、血液がどくどくと流れつづけている。かつて王国で最も美しいホワイトドラゴンと言われていたあの面影も、今はない。


 真っ白な卵を大事そうに抱えながら、息も絶え絶え、一歩一歩森の奥へと進んでいく。もう飛ぶ力も残ってはいなかった。しばらく歩いた後、ドラゴンはその場に崩れ落ちてしまった。


 この子が卵から産まれる瞬間を自分は見ることはない。この子の顔も、声も、知らないままここで息絶えるだろう。辛いよりも悲しいよりも、今はただこの子が不憫でならない。家族を失い、たった一人で生きていく我が子の運命を思い、ドラゴンは卵にポタポタと涙の染みをつくった。


 ドラゴンは最後の力を振り絞り、卵に魔法をかけた。心悪しき者には触れられない、結界の魔法。優しい緑の光が子守唄の様に卵を包む。命をかけた最後の魔法を唱え、ドラゴンはそっと目を閉じた。


 愛しい我が子。

 あなたの未来に…希望の光が満ち溢れんことを…


 ドラゴンの体が一際明るく光った後、一瞬にしてその光はバラバラに砕け散った。空中に浮かぶ光の粒子は、卵をその場に残してゆっくりと空へ昇っていく。

 その光は、まるで一本の柱の如く、長く長く伸びていった。

 光はやがて遥か上空の雲の中へと吸い込まれ、消えた。





 誰もが深い眠りにつくその夜の帳、たったひとり、その光に釘付けになる者がいた。








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