MESSENGER 〜ガイバオ塔の由来〜

黒鐵桜雅

現実世界~荒れ果てた大地とアミュレット~

第1話 はじまり

未来の光の勇者へ




~運命は世界の理の与えられた神にのみ握ることが許されている~


~なぜ人は争い、血を流すのか~


~なぜ人は恋に落ち、失恋をするのか~


~なぜ人は希望を求め、絶望を味わうのか~


~なぜ人は憎しみ、信じるのか~


~なぜ人は生き、死すのか~


~なぜ世界は動き、操るのか~


~すべては運命が決めた道~


~その道しるべを進むことしか許されない~


~どのような選択であても、運命に抗うことはできない~


~今再び運命の歯車が動き出すとき~


~光の勇者よ、今こそ旅立ちの時、世界の理を授かり、世界の運命を断ち切ろう~


                                 黒谷明







 ふと気づいた時には遅かった。今私は、この忌まわしき塔から落ちている。地上までは遠いが、間違いなく即死だろう。

 私はもう抗うことは出来ないのか。諦めて世界の滅亡を許していいのか。この荒れ果てた世界は救われないのか。私は弱いままでいいのか。

私に力を与えてくれた者や私に期待するもの、そしてずっと支えてくれた彼女をこのまま諦めていいのだろうか。

 まだ時間はある、この近日中に起きた出来事を、思い返してみよう。


 ここ日本は現在令和2年、日本の人口は恐らく私一人だけだろう。東京オリンピックに際して、日本とアメリカが軍事的な激突が唐突に発生し、日本は瞬時にアメリカの支配下に落ちたが、まもなく、日本人は虐殺された。

 無人となった日本の都市、東京にアメリカは高さ1000メートルもある塔を建築した。日本諸島は我々アメリカ人のものであると主張するものであった。無尽な日本を狙う他の各国は、アメリカが日本のような結末を送らせるメッセージの元「ガイバオ塔」と名付けられた。

 しかし、アメリカ人はすぐに日本から立ち去った。ガイバオ塔の構造は非常に複雑な作りになっているが、ガイバオ塔を支えるための土地の下は、日本人の死体を埋め立てたものであった。そのため、明るい昼間でもガイバオ塔付近には怪奇現象が勃発し、また塔を管理していたアメリカ人が急死や病死をしだした。

 現在の日本は、呪われた島と呼ばれており、アメリカ人が作った死島であり、今や日本中で霊が行き交う場所だ。しかし、アメリカ人が日本を去って東京にそびえる第三の塔を見たのは誰一人としていなかった。


2年後(令和4年.西暦2022)

 彼はやや白い肌に血を浴びて薄汚れた床に倒れていた。気が付いた時には人が無残に倒れている場所に横たわっていた。日本人の死体なのかアメリカ軍の死体なのか判別がつかない。あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。

「よし、旅に出るとしよう。」

 偶然床にあった青い鎧を身につけた青年は言った。

 彼の名は瑞島槙侍、剣を片手に持ち外の世界へ出る。ここタチカワの地下街に生き延びた者で、アメリカ軍による虐殺を逃れることが出来たものだ。もちろん、目の前で人が人に虐殺される光景も見てきた。自分が生きているのは、周りの大人が必死に身を投げ出して隠してくれたからだ。

 アメリカ人は銃やナイフ等で容赦なく日本人を殺した。無抵抗な子供や赤ちゃんでさえも逃すことを許さなかった。

 槇侍はそんなアメリカ人に復讐心を抱いた時もあった。しかし、それでは争いを産むだけ。この状況を打破し、別の形で日本を復興するのだ。そのために、世界を回って現状を把握する必要があるため、旅に出る。

 今まで外に出てこなかったため、太陽を見るのも何年ぶりか。外は一体どうなっているのだろうか。獣や霊がいるのではないか。そのような好奇心を抱きながら、槙侍は地下街から出て行った。


 外の光景は槇侍が思っていたような現実世界のものではなかった。人や動物などの死体が放置され、建物は崩壊されていた。誰も消し止めることのない炎が舞っており、生活を送れる場所はないようだ。天気は曇り。今すぐ雨が降りそうな黒雲で、気分を落とすような世界が広がっていた。そして、ところどころ地形が変形しており、大地震以上の変化の仕方である。まるで異次元の世界にいるような体感をする。

 槇侍はある一角に注目する。そこには動物とはいいがたい生き物がいた。それは人間か動物かの死体の肉を食べている。一体その生き物は何なのだろうか。

 槇侍が近づくとその生き物はゆっくりこちらに顔を向ける。それの顔は非常にぐちゃぐちゃでグロテスクだった。皮膚は焼かれてえぐれており、目は半分飛び出ている。体毛には大量の血がついており目をそむけたくなる。

 槇侍は片手の剣を強く握りしめ、戦いの構えをとる。その生き物はゆっくり近づいてきて次第に猛スピードで襲い掛かってくる。槇侍はとっさに剣でその生き物の腹を突き刺す。剣が体に触れた瞬間、赤い血が飛び出る。槇侍の顔に返り血を浴びるが、槇侍の剣の動きは止めることなくその生き物に斬り続けた。

 恐怖のあまり無意識に攻撃していた槇侍は正気に戻り、生き物がすでに動かないことを確認する。

「この生き物は何だったのだろうか。見たことのない生き物だ、きっと世界に異変が起きている、いやとっくに始まっていたのかもしれない。はやく世界をどうにかしなければ。」

 この失われた世界を救うために何をすればいい。考える槙侍は次第に故郷のことを思い出した。まずは現状を把握する必要がある。故郷に戻って冷静になってこれからのことを考えよう。

 そう思いながら槙侍は無残な光景を胸に留めながら、故郷である「奥多摩」へと足を進める。

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