黎明

@Fujita_3-A

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黎明

馬上から見た雲海の広がる頂の絶景であった。空は群星だった。北極星はhijiriなるもの。私は改めて感じた。————————————————————

オナガン州。私はこの真ん中の辺りのシホビハインドに住んでいる。ヘイデル遺跡とナイライラの宿場町がある由緒正しい街だ。最近ではワインとギターの生産が有名であり、特に、ワインは州内のワインCMのほとんどが我が市の企業である。

私は、北に隣接するモートパイン市の高等学校をあと数ヶ月で卒業する。そんな訳で、今は少し忙しくなってる。テストもあと1週間なので、今はより忙しい。今日は世界史と国語があったので、其れ等の教科書と共に私は下校した。生憎、雨なのに傘をウチから持って来なかったので、駅へ走った。16時21分発ワーガッカナー行き快速列車の中で夢と現を行き来し、駅名が聞こえたので途中で買った焙茶を飲み干し、私は改札を出た。我が家は徒歩で数分の場所。西は朱く東は柔軟な月があった。

帰宅するとポストに母宛の封筒があったので、台所の母に渡すことにした。母は気にも止めぬ素振りをして受け取った。(後日、伺った所、その中身は区内のお茶会の件だった。)夕食の準備があと一手間の所で、風呂が炊けた合図がしたので、私は入浴した。シャンプーは、詰替タイプのパウチにまだ少し残っていたので、完全に使い切り、中を濯いで空気を入れて金属の三角コーナーに入れた。やるべきを済ませ、風呂から出ると、甘辛い匂いがしたので、急いで拭いて脱衣所を出た。家ではアンダーシャツと長ティーだけなので色々と楽だ。やはり、あの匂いは回鍋肉だった。私は一人っ子だから、食費がかからない。なので少し奮発しても大差ない、と思う。丁度、テレビではアキラ・ハヤシ氏がニュースをわかりやすく解説をしていた。隣国同士の東西国境線崩壊問題についてだったので、卓上で議題になった。食事を済ませて、洗浄機の中に食器を入れたら、無性に中を観察したくなった。水又はお湯が最初に下から出て来て、次に泡状の洗剤が横と奥から出て、最後に上からノズルがミスト箒を掃いて終了。面白い。実に気持ちいい。あン中に入ったらお風呂なんか入らなくてもいいのに、なんて思っている内にもう8時近くになってしまった。今日は金曜日。もう寸時間あるので、自分の部屋に行き怠惰の限りを尽くした。テスト勉は教科書をパラパラするのみにして。結果、寝たのは1時30分だった。

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ベルが鳴った。6時のタウンチャイムだ。今日は町のイベントで草競馬がある。丁度50thだ。なので、2日に渡り祭が催される予定だ。実は、私はその騎手として参加する事になっている。曾祖父の代からの馬場があり、長休みは週3、4回行って馬を借りて端から500mを走ってみたり、その延長線上でコッソリ街を散歩したりする。其れだからか知らないが、祭の実行委員会のトップの人達が私に書状をわざわざ送ってきやがった。正味、唯の趣味だから来る筈が無かろうと思っていた。だが、病疾痛痩疹疫痲瘡痢瘤痳痰痒痘疵痍癌(イヤナモノタチ)以外は全て貰っておくべきだ、と言う私なりの教訓があるので、キッチリと享受する事にした。とりあえず、従兄妹から、ライナーを借りて土地(ツチヂ)にグラウンドトラックを描いて長距離の練習をした。小判型にしたり、鋭角なコースにしたり、一寸した街を再現したした。———

手綱に握汗が溜る中、始発のピストルが鳴ろうとしていた所、猛禽類が、ガシッと掴んでもって行ってしまった。會、予備があったそうなので、倉庫に行っている最中、誤って、その鳥がトリガーを引いてしまった。そして、右脚の生肉が我が馬の前に落ちて来た。吃驚した彼女は、走って行ってしまった。鎮まれ、鎮まれ、と手綱を引いても止まる事は無かった。コントロールは出来なかったわけじゃない、唯、何かが其奴を活かしているに違いなかった。第1コーナーは辛うじて出来た。唯、第2カーブのバリアをその馬は跳んで叢を駈けていった。その先の森に入って、道無き道を行った。その時、私はもう、トコトン付き合ってやろうと考えた。行くところまでユケ‼︎行くんだ!森を上がり切れる所にガードレールがあり、そこを飛び越えて、オレンジの線が一本入った道に出た。

その際に、後脚は天高かった。道を左に曲がった。(コンマ数十秒間の出来事であった。)青々と茂る森山を目指している様だ。蹄の音は高らかに、更に速度を上げて行く。朝日は夕日になる、バックにして。Watchはその所爲で全く見えなかった。走ってると、古びた赤矢印の看板があった。行き先はMt.〜である事は間違いなかった。実は私はそこに行った事が無かった。だが、馬はそこを行った。小径を挟んで右は木の生い茂る崖、左は急斜面の絶壁。パカラッパカラッパカラッと行く。手綱を通じて人馬一体になったような気がした。以前にもここを通ったような気がした。何時もより生きている気がした。気がした。気がしただけかもしれない、気がした。人が向かい合わせにギリギリ通り過ぎれる程の曲がりくねった道を行くと、森が切れて、少しばかりの草原があった。その中央に清沢があり、木の小橋があったのでそこを渡る。渡った先にも森があったので進んだ。陽が陰ってきたので、その森の奥が深くて暗かった。闇の中へ一心不乱に進んだら、あの矢印の看板があった。今度は錆びている上、汚れていた。Mt.すらも読めなかった。行くと、二股に分かれていた。指標があり、左はMt.イマクラン(標高2901)。右はチキポッテ高原(5km先)があった。我等は前者を目指す事にした。水捌けが悪い土だったからなのか、泥道になっていた。もう少し進むと、複数の銀杏が落ちていた。迷う事なく踏み潰し行く。行先、再び森が切れていた。崖に木と鎖だけの梯がある。向こうの森まで続いてる。躊躇わず行く。ガタガタする。下100mは岩川がある。中程まで来る。ミシミシする。もう少しで森が目前。終点まで行く。後右脚が最後の木材にかかった瞬間、基盤だけを綺麗に残し下の床材だけが川へ全て落ちていった。馬はそれらが落ちるよりも前に対岸へ渡り切っていた。陽は微かに稜線から見える。未だ、山の麓。

ここまで来ると、満天の星が木々の中から見れた。気持、疲れてきたようだ。彼馬(うま)もスローペースになった。だが、脚こそ止めなかった。山に登るには、大きく分けて二つに分かれる。時計回りに幾重にも渡る道を行くか(蛇道)、反時計回りにある2周半の坂道を行くか(龍路)である。我々は、龍路を行く。路は舗装されていたが、何年も通って無いのだろう。丈がある雑草が沢山生えていた。階段が最初あったが、それは数段のみだった。馬はそれを一っ飛びした。生憎、馬用に作られた路では無い為、結構、キツかったと思う。息が少し荒くなっていた。これは半周目の事であった。漸く、一周しようとしていた時に、watchを見てみた。蓄光なので、時間がわかった。01時50分になる所だった。半眠りだった。だが、手綱はちゃんと握ってた。そこで、私は自分にとっても、という意味で、その手綱を其奴に叩いてやった。嘶いた。後は頂上に行くのみ。私も、宙(ソラ)に叫んだ。まるで、あのペレセぺ星団を劈かんばかりに。そして、寒さを和らぐ為にスキットルを一飲み二飲みした。鞍に付けてあるその飾りは、左に赤と青の六芒星、右に緑と黄の横六芒星で、座面の座布団の六芒星は白と黒。自然の如し。今、暗闇の坂道を上る。

もう二周目に差し掛かった頃。朝日の、天辺が見えるか見えないかの所だった。東から鳶の鳴き声がした。もう、周りに樹々がなく、少量草が岩肌の間に生っている。後、1kmの赤矢印があった。ラストスパートをかける。残りのお酒を飲み干して、集中力を高めた。————

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馬上から見た雲海の広がる頂の絶景であった。空は群星だった。北極星はhijiriなるもの。私は改めて感じた。

東は碧く西は虚無に星があった。

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