青春不感症候群

釣場 亜蓮

第1話 恋とは感情かそれとも思考か

「私と付き合ってください」

 高校に進学して新し制服に袖を通して迎えた春。

 桜の花びらが舞い、暖かで穏やかな季節。

 青春を代表するような勇気ある言葉が俺の目の前で告げられる。

 相手は俺の幼馴染である甘城あましろあずきだ。

 あずきとは幼稚園頃からの付き合いで家も近く。なんだかんだと腐れ縁でかなり親密な関係である。

 あずきの容姿はうちの高校の中でもかなりのトップクラスに可愛いと思うし、それ相応の付き合いの長さから性格もよく知っている。

 彼女と付き合うというのなら男として嬉しい限りであるだろう。

「残念だがお断りさせてもらおうか」

 だが俺は彼女からの申し出を断った。

「ダメ?」

 上目遣いでしたからのぞき込むように俺に語りかけてくる姿は可愛らしいが、どことなくあざとさを感じる。

「可愛く言ってもだめです」

「ダメか〜ゆうは固いね。色々と」

「もっとあずきにはいい人間が居るだろう。こんな辺鄙な陰キャなんか放っておいて付き合いのいい男とくっつけばいいのに」

「もし他の男と付き合ったら私のこと意識してくれる?」

「いや、全く。身売りは流石に止めるとは思うけど」

 俺はそうきっぱりと口にした。

 自分自身のことを辺鄙な陰キャだと称したが実際その通りだと思う。

 高校生というと恋に恋するお年頃。少しやんちゃな行動や反抗期、それに他人との恋愛と学校のイベント以外のことを考えてもかなり存在している。

 しかし、俺、葉月夕はづきゆうはそれらのイベントについて思いをはせても周囲のクラスメイトと同じように考えられず青春というものがよく分からなかった。

 どうやら俺は青春というものから隔絶かくぜつしてしまった。青春というイベントに対して何も感じない薄情で不感症な人間であるらしかった。

「少しは意識してほしいなぁ…これでも勇気は出したんだけど」

「…それは関係が壊れることが?」

 無論告白されたにしろ、されなかったにしろあずきとは友人としての関係を崩すつもりはない。

「んーいろいろかな?」

「色々?」

「恥とか外聞とか夕に告白するために色んな人に協力してもらったりしたし」

「それは済まなかったとしか言えないな…謝るときは俺も一緒に行こうか?」

「そこまで親身になってくれるのに、それでも付き合ってはくれないんだね」

「恋愛とかよく分からないし、もっと言うならあずきはもっと自分を大事にしろ。俺なんかに使う時間がもったいないぞ」

「私が好きな人を愚弄するとは…好きな人であっても許さないぞ」

「…随分直球で来たな。それでも駄目だ」

 本当にこの幼馴染は俺でもどうにもできない。

 やると決めたら諦めることもなくノンストップで突っ込んでくる人間だ。

「そういえば、あずきは俺のどこが好きなんだ?」

「恋人でもないのにそれを私に聞くの?」

「質問を質問で返されても困るが…確かにそうだな。だが、教えてほしい」

「ぜんぶ」

「は?」

「だから全部。夕のことなら何でもできそうなくらい」

「…そうか」

 好きという形にも色々あるだろうが、好きな部分ではなく俺の存在が好きと言われることはとても嬉しく感じた。

「あずきは好きっていう気持ちは感情だと思うか?」

「どういう意味?」

「好きという気持ちは思考や感情からくるものなのか、もしくは子孫を残すという本能の延長線から来ているのか。」

 実際、恋愛を心理学の観点から見た恋愛学という学問がある。その学問に当てはめるのであれば恋とは思考で行うものなのだろう。

 また、一部では恋愛というのは子孫を残すという生存本能の一環とも言われることもある。

 俺は恋愛を理解できないからこそ答えが欲しかった。

 物語を読んでも、恋愛について調べても。恋愛の経験したことある友人から聞いても。

 俺は恋愛という一連の考え方について何1つ理解することができなかった。

 だからこそ、最も親密な友人で恋心を持ったというあずきにこの一年間考えていたこの質問をした。

「うーん…難しい質問だけど、文字や言葉にできるものじゃないと思うんだよね」

「心理的なことだからな、それは仕方ない」

「というかフッた相手に対して失礼じゃないですか?」

「いや、悪気はないんだ、気に触ったのなら誤る」

「…何でもしてくれる?」

「俺にできうる限りのことは…約束はできないが」

「じゃあ、私と付き合って欲しいな!」

「何度挑戦しても無駄だ、ほらもうすぐ予鈴が鳴るぞ。後で売店でエクレア買ってやるから」

「……シュークリームがいい」

 そう言って指を2本立てる、どうやら俺の幼なじみは2個ご所望な用だ。

「了解、ほら行くぞ」

 そう言って2人で教室へと向かう。

 この後告白が成功したのかと勘違いしたあずきの友人達に囲まれたのは言うまでもない。

 しかし、この一幕は青春を知らなかった俺が青春を知るための一幕になったことはまだ知らなかった。

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