第25話 先輩25 デートー3
「はぁ、おいしかったねー」
「はい、久しぶりの『なごやか』はいいですね」
『なごやか』で少し遅めの昼食を済ませた僕らは、会計時に無料でもらったハッカ飴を口に放り込みながら店を出た。
「それにしても結構混んでたね~、おかげでもう2時半だよ」
「あー、確かに。あの混雑レベルは予想外でしたね」
「ほんとにねー」
おかげで僕も先輩に40分間近くも弄られたわけだけど。
「それで、この後はどうします?いったん街戻ります?」
「そうだねー……、せっかくだし色々回りたいな。カイ君はどこか行きたいところある?」
「んー…………」
聞かれて考えてみたものの、特に思い浮かばない情けない僕。
「特にないってことね」
「はい、ごめんなさい……」
「まぁ、カイ君らしいけどね。それじゃぁ、私の行きたいところに付き合ってもらうけどいい?」
「あー、もう全然ついていきます」
投げやりではないけど、少し任せきりになってしまっている気がしたが、ここは先輩に任せたほうがいいと判断した僕は、言われるがまま先輩についていくことにした。
「とりあえず、駅まで歩こっか」
「はーい」
僕らは相変わらずの炎天下の中、さっき来た道を今度は登って戻っていった。
「あづ……」
「ほんと、あっついね……。まずはカフェでちょっと涼もうか」
9月とは思えないあまりの暑さに、僕らは街に到着していきなりだが、目の前のよく見かける喫茶店で休憩を取ることにした。
「はぁ、涼しいっ」
「生き返る……」
店内に入ると、全身の汗を冷やすような冷房の効いた空間に驚く2人。
「とりあえず、なにか飲み物を頼みましょ?」
「そうだね。もう喉カラカラ……」
先輩のかわいらしい水筒の中身は、さきほど僕がほとんど飲み切ってしまったので、店を出てからずっと水分を一方的に蒸発させていた2人の体は、すでに水分への危険信号を出し始めていた。
「いらっしゃいませー、ご注文はお決まりでしょうか?」
大学生らしき女性店員さんが汗だくの僕らにも愛想よく対応する。
「えっと、私はアイスティーで。それから……カイ君は何にする?」
「僕は……」
パパっと即決で注文を済ませる先輩に続き、僕も早めに決めようとメニューをざっと見る、が……。
「ごめんなさい、優柔不断で……」
「いいよいいよ、ゆっくり選んで?」
なかなか注文が決まらない僕に呆れることもなく、先輩は笑顔で返してくれた。天使かな?
「今日みたいな気温の高い日でしたら、こちらのアイスライムはいかがでしょうか?」
僕がメニューとにらめっこをしていると、先ほどの店員さんがメニュー表の期間限定枠にある「アイスライムティー」を勧めてきた。おそらく、メニューが多くてなかなか決められない僕に気を使って助け船を出してくれたのだろう。
「じゃぁ、それのトールで」
「はい、ありがとうございます」
会計を済ませると、僕らは注文した商品を受け取るために隣の受け取り場所の前に移動した。
すると、さっきの店員さんがまずは先輩に商品を渡した。僕のは少し時間がかかるようだ。
「じゃぁ、私先に席取っておくね」
「ありがとうございます」
「アイスライムティーのお客様ー」
「あ、はい」
僕の注文したのもできたようで、受け取りに行く。すると、飲み物を渡しながら店員さんは笑顔を崩さず小さな声で言った。
「優しくてかわいい彼女さんですね」
「……そ、そうですね」
突然の言葉に、なんて返したらいいのかわからず生返事をした。でも、先輩の彼氏と認識されたことに、少なからず嬉しさを感じた。
飲み物を受け取って客席にいるであろう先輩を探すと、真ん中のテーブル席で既に座っている先輩を見つけた。
先輩は、僕の姿を見つけると、「こっちこっち」と言うかのように胸くらいのところで小さく手を振ってきた。かわいい……
「お待たせしました。席空いててよかったですね」
「うん、ちょうど前のお客さんが席を離れるところだったからタイミングよかったよ」
僕は席につくと、早速冷たいライムティーを口に持っていく。
「っおいしいー」
「はははっ、店員さんべた褒めしてたもんね」
いい具合に冷たくなっているアイスティーにライムの酸っぱさと微かな甘さが上手く混ざりあって乾ききった喉を潤していく。これは確かに、店員さんがオススメする気持ちもよくわかる。
「カイ君」
「はい?」
僕がライムティーを堪能していると、向かいの先輩が、声をかけて言った。
「ちょっと交換しない?」
「え」
「なーに、その嫌そうな顔は。そんなにあの可愛い店員さんにオススメしてもらったライムティーが美味しかったのかな?」
「違いますよ。美味しいのは認めるけど」
「ほらやっぱり」
「だーかーらー……」
本当はただ単に間接キスが気になるとかちょっと思ってたり……。え、前話?そりゃいくら2回目だって緊張するんだから仕方ない。
「……はぁ、まぁいいですよ。はい、どーぞ?」
じっと見つめてくる先輩の視線に耐えられず、僕は仕方なくライムティーを差し出す。
「ふふっ、ありがと。ほんとだ、これ美味しいねっ」
「でしょ?!」
「うん、私もこれにすればよかったー。あ、はい、カイ君も私のどーぞ」
今度は先輩がアイスティーを僕に渡す。
「いただきます」
ここで恥ずかしがるとまた何か言われると思ったので、できるだけ平静にストローに口をつける。
「どう?」
「美味しですよ」
「ライムティーとどっちが美味しい?」
「ライムティー」
「あははっ、即答じゃん」
「だってこっちの方が美味しいんだから仕方ない」
「じゃあ、私との間接キスより可愛い女の子が作ってくれたライムティーの方が好きなんだねー?」
「ゴホッ、ゴボッ、ゴボッ……」
「あははっ、カイ君反応が素直すぎてホント面白い」
くそっ、構えてたはずなのにまたやられた……。
「もう、先輩はすぐ変な冗談言うんだから」
「えー、だって面白いんだもん」
「僕は全然面白くないんです」
「あははっ、それはそうだねっ 」
そう言って、敗北感を覚えながら、ぬるくなったライムティーを飲み干した。
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