第24話 先輩24 デートー2
デート終了までの話→帰り際に他の先輩たちに2人で歩いているところを見られるシーンで終わり
「ん~!面白かったねっ」
「そうですね」
「私、途中から泣けてきちゃった。ほらあの、主人公の男の子が告白してきた女の子についに自分から告白したシーン」
「あ、そこは僕も感動しました。病気で彼女と恋人になることを諦めていた彼が、ようやく自分の本音をぶつけたところですよね」
「そうそう!残り僅かな人生だけでも愛する人と一緒に過ごすことを決意した彼のあの表情はまだ鮮明に覚えてるよ~」
ガヤガヤと上映スクリーンから出ていく人ごみに呑まれながら、僕らは今見た映画の感想談に花を咲かせていた。
「さて、ちょうどお昼時だし、どこかでご飯食べよっか。どこがいい?」
「んー、どこでもいいですよ?先輩は何か食べたいものありますか?」
「私も別に何でもいいんだけど……。あ、それじゃぁ、ちょっと歩くけど『なごやか』はどう?」
静岡県民ならだれもが知っているハンバーグチェーン店『なごやか』。
僕らが幼少期のころから点々とあった店だが、最近になって急激に人気に火がついたようだ。なんでも、100%牛肉を使用しているらしく、その肉汁、肉厚の食感は他のハンバーグ店とは全然違うらしい。僕は『なごやか』にしか行ったことないからわかんないけど。これ、静岡県民あるある。
そのうえ、その値段は学生にも非常にお手頃なため、今では全国の若者にちょっとした人気が出ているのだ。おかげで、休日や長期休暇中は全国からその味を知ろうと大勢の客が来るため、2~3時間は余裕で混雑する。まぁそんなとき、静岡県民は迷わず、他の店に行く。だって、いつでも食べられるから。静岡県民最高アゲイン!
「うん、いいと思いますよ。今ならどこの店も混んでるだろうし、ちょうどお客さんの少ない時間につけるんじゃないですか?」
「そうだね。じゃぁ、散歩ついでに歩こっか?」
「はい」
そう言って、歩き出そうとする先輩の手を、今度は僕の方からつないだ。ちゃんと、「恋人繋ぎ」で。
「あ……。ふふっ、やるじゃん、カイ君」
「あはは、さすがにもう慣れてきましたよ」
嘘である。ほんとは緊張のあまり、体中から汗が噴き出しているのだが、夏の暑さのせいだと自分に言い聞かせることにした。
「やっと着いたぁ……って、うわぁ何この混み具合」
駅から少し離れた西へ歩くこと20分、ようやくお目当てのお店に着いた僕らは、店内の混雑具合に驚いた。もうすぐ13時を回りそうだというのにも関わらず、待合室は家族連れからカップル、学生グループまで幅広い年代層の人でいっぱいだった。
「いらっしゃいませ~、ただいま大変混雑しておりますので、お先にこちらの予約システムで整理券の発券をお願いいたします」
「ど、どうする、カイ君?」
「ここまで歩いたんですし、僕は全然ちょっとくらい待ちますよ」
「そっか、それじゃぁちょっと券発券してくるねっ」
そう言って、会計のそばにある発券機で手早くピッピッピと操作する先輩。
「へぇ、電子対応になったんだ」
数か月前に家族と『なごやか』に来たときは、ファミリーレストランによくある紙の予約シートに名前と人数を書いたのだが、どうやら最近はどこかの回転ずし地チェーン店みたいに機械で予約するようになったらしい。
「おまたせ、カイ君」
「どうでした、待ち時間?」
「んーっとね……、30分らしいよ」
「思ったより短かったですね」
「そうだね、よかった。じゃぁちょっとここで待ってよっか」
「はい」
もう少し待ち時間が長かったら外で時間を潰していてもよかったのだが、ここら辺は住宅街しかないので30分じゃただの散歩になってしまう。さすがにこの炎天下の中、もう歩くのはちょっと疲れた。
キュッキュッ
待合室の椅子に腰かけると、先輩は白と水色のトートバッグからピンク色の小さめの水筒を取り出した。
ゴクッ
人目もあるのか、一気に飲みたいのを我慢するかのように軽く自分の喉を潤す先輩。
「……ん?こっち見て、どうかした?」
「え、いやっ、見てないですよっ」
「ふふっ、そんなところで見栄張っても仕方ないでしょ。ほら、どーぞ?」
そう言って、僕に水筒を差し出す先輩。
「あー、いや、さすがにそれは申し訳ないですよ」
「?別に全部飲んだって構わないよ?追加すればいいんだし」
「いやー、そういう意味じゃなくて……」
僕のあいまいな態度に首をかしげる先輩。しかし、その意図に気づくと途端にいつものお馴染みの例の悪戯っ子顔をこっちに向けてきた。
「あー、そういう……?別に、気にしなくていいんだよ?私との『間接キス』なんて……」
「ちょっ!?こんなところで何言って……」
周りを見ると、ニヤニヤしたカップルから怒りの視線を送ってくる男子高校生らしき集団からと多種多様な空気を感じながら、先輩の口を……じゃなくて言葉を塞いだ。
「んー……、まぁそれは冗談として、とりあえずこれは飲んで?この暑い中歩いたんだから、水分補給は大事だよ?熱中症になったらそれこそ一大事」
そう言って、僕の胸に水筒を押し付ける先輩。それって冗談になってるんですか……?
「じゃ、じゃぁ、お言葉に甘えて……」
ゴクッゴクッ……
ここに来るまでに蒸発させてしまった体の水分を取り戻すかのように、思いっきり自分の喉に冷たい水を流し込んだ。やばい、生き返るっ……。
「あ、ご、ごめんなさい。つい結構飲んじゃって……」
「ううん、気にしないで」
「ありがとうございます。おいしかったです」
「そう?じゃぁ、もうハンバーグは大丈夫?」
「あ、いや、それは……」
「……ぷっ、あはははっ。カイ君ホントかわいいね~」
「もうっ、からかわないでくださいよ」
「でも、おいしかったんでしょ、私の口付けた水?」
「なんか誤解を招く言い方はやめてください……」
やっぱり、我慢してでも断っておくべきだった。
それから店員さんに呼ばれるまで、僕は先輩に他にもいろいろ弄られた。
……楽しかったけどね?
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