模造体になったわたしと、気がかりな夢のあとのこと
郁崎有空
模造体になったわたしと、気がかりな夢のあとのこと
ふと自分の手の甲を晴れた空に透かしてみると、機械仕掛けの骨格が見えるような気がした。「手のひらを太陽に透かすと、赤い血潮が見える」というような昔の童謡があったわけだし、じゃあわたしの手のひらはなにが見えるのだろう。そう感じたから。
実際に見えたのは、前とまるで変わらない、少し皮膚の透けた手の甲。一見なにも変わってないように見えさえする。
だけど、わたしにはそう思えない。これはわたしの身体じゃないと、魂が身体を拒絶するような。そんな乖離感に侵されているような気がしている。
カーテンが陽光を遮るうす暗い部屋のなか、ベッドの上でそんなことを思う。あの日以来、部屋の外に出られずにいた。この身のなかに渦巻く魂と身体の乖離感が、わたしを動けなくさせてしまったのだ。
わたしは妹の犠牲になった。わたしはなにをやっても中途半端で、妹のほうがはるかに優秀だったから。お前は
だから、わたしがこうして家に引きこもっていても、親はなにも言わない。模造体の子供なんて世に晒されるだけで恥だし、親も模造体のデータと引き換えにじゅうぶんな金をもらっている。わたしは家で、モルモットになるのが仕事だということだ。
実験が終われば、わたしはどうなってしまうのだろう。家を追い出される? いや、あの親は周囲の目を気にするような人間だ。ひっそりとわたしを殺すのだろう。例えば、模造体のデータをいじって故障と見せかけて殺すとか。
未来は分からない。わたしはきっとこの暗い部屋のなかで、一生を終えるのだろう。
だけど、妹が憎いというわけではない。元々わたしはあまり学校が上手くいってなかったし、あの子が喜んで学校に行けているのならそれでいい。そう思っていたし、いまでもそう思っているから。
勉強については心配ないだろう。ただ、運動のほうは心配だ。わたしの怠けたような身体で学校で上手くやれているだろうか。
まあ、心配するまでもないか。なにしろ、親が期待するほどの妹なのだから。
わたしが身を捧げたほどの、妹なのだから。
夢から醒めて起きたら虫になっていた、といったような小説がある。いまのわたしの人生はまさしくそれだ。
いや、ただ家の中に棲まうゴキブリだったものが、実験動物として格上げしただけにすぎないのかもしれない。わたしは元から、この家にとっての「虫」だったのだ。
やることもなく、親指を視界の中心に持ってきて、脳に埋め込まれたAR端末を起動する。退屈なこの空間で、インターネットの世界は非常にありがたい。ゾンビのようにあてもなくサイトをさまよわされる代わりに、時間というものを忘れ去らせてくれる。
SNSを覗いてみる。相変わらず、やれ誰が何々しただとか、やれこれはどうなのか。毎日毎日なにかしょうもないゴシップを見つけてはしょうもない言い争いを始めたり、まるで虚無みたいな独り言を垂れ流したりする、いわゆるインターネットゾンビどもの呟きが激流のように目の前で絶えず流れていた。
これは発展したテクノロジーの生んだ負の遺産だ。何十年もの間にも媒体を変えては、こいつはテクノロジーを獲得した人類になかば永久につきまとう。ゆくゆくは遥か彼方宇宙にまで、地球のインターネットゾンビどもの戯言は飛んでいくのではないか。そうして地球外の存在がそれを拾って解析し、それを見たそいつは「この地球という星は呪われている」と思うことだろう。
こんなゾンビの群がる場所で、わたしの境遇を話したらどうなってしまうだろうか。ゾンビは本能のままにわたしの両親を叩いて炎上させるか、あるいは大した騒ぎにもならず何事もなく流されるか。もちろんそんなことをしてバレでもしたら家を追い出されるだろうし、なによりその過程で妹の人生を潰してしまうかもしれない。だから、そんなことはやるつもりはない。
わたしはいつものようにつぶやきを投稿する。
『今日も一日』
ハンバーグの画像を添付して投稿する。元々はあるドラマのキャプチャ画像で、このハンバーグがドラマ内でいわくつきのものとされていたことから、一時期ブラックジョークとしてネタにされていたらしい。
こんなことをしてなにになるか。わたしの場合は、ぽつぽつ反応をもらえるくらい。当たり前だ。若干ネタが食傷気味だし、わたし自体がリアルでもネットでも上手くいかないくらいに人付き合いがダメなのだから。
約一時間くらいインターネットゾンビの怨嗟の河川を眺めてから、「クソどもめ」と吐き捨てて端末を切る。それからカーテンと窓を開けて、ベッド脇の黒い表紙の本を手にとって読み始めた。
ある日から自分の周囲のものが全て作り物に思えてくる男の話。男はその世界にとって非常に重要な役目を担っていて、周囲は男の世界への気付きと抵抗を全力で抑えようとする。
こういうものはいい。人が一生懸命生きているという感じがよく出ている。不条理に対して惨めに、不器用に抗おうとするフィクションの人間の様は、たとえばチート能力で女を侍らせるような様より見ていて気持ちがいい。
そう思いながら読み進めたり、休憩がてらにAR端末でサイトを見て回ったりを繰り返しているうちに、玄関の開く音が聞こえた。
ばたばたといくらか動いて、階段を駆け上がる音がする。足音は近づいてきて、扉がノックされた。
「お姉ちゃん、入っていい?」
「……帰って」
「帰るもなにも、ここが私の家だよ。入るね」
扉が開けられる。わたしはかったるそうに本を閉じて、ベッドの脇に置いて寝たふりをする。
妹は本が積まれたり散らばったりする部屋の中を器用に避けて、わたしのベッドの脇にたどり着き、その場で三角座りをする。
わたしと同じ姿の、わたしの妹。別にわたし達は双子というわけではない。彼女は妹であり、本当のわたしの身体を持つ人間だった。
「相変わらず、色々読んでんね」
「読んでない本がそこに積んであるんだよ」
「だとすると、積み過ぎじゃない?」
「いつか読むから積んであるの。ていうか、余計なお世話」
「ふーん。分かんないな、そういうの」
妹の
咲樹は家に帰ると、すぐにここに来る。わたしにはそれがちょっとだけつらい。目の前に本当の自分の身体があったら、自分の選択を後悔してしまうから。
身体中の神経がピリピリするような、そんな錯覚。また魂が過去を思い出して、
「部屋の外のお盆見たけど、今日もちゃんとご飯は食べてるみたいで安心した」
「動いてなくても、お腹は空くから」
「その身体でもお腹が空くんだね」
軽い調子で笑う。咲樹にある種の憎しみを抱きはじめる。
魂の抵抗による、憎しみがふつふつと湧き上がった。その身体を返せと、本能のままに動こうとする。わたしはそれに、手を握って歯を食いしばって抑えようと努める。
ダメだ、だめだだめだだめだ。わたしが選んだことのはずなのに。わたしは自分で自分の選択を無下にしようとしている。
指がわななく。脚が震える。腕は気を抜くといまにも飛び出しそうになる。
「お姉ちゃん?」
強い電気の走るような感触で目を開くとともに、妹が振り返る。かつてのわたしそのものの咲樹の顔が視界に入る。
わたしは止められなかった。
足が身体を持ち上げて、手が無意識に咲樹の首へと向かっていく。わたしの暴走のまま、馬乗りされた状態で首を絞める。
咲樹はわたしの強い握力に身動きできず足をばたばたと動かし、かすかな抵抗が柔らかな下腹部を通して跨る股の上に伝わっていく。罪悪感とともに快感がわたしの精神を突き抜ける。
「――ッごめ、んなさい! お姉ちゃん、ごめん、なさい!」
「…………」
「もう、言わないから! 気をつけ、るから! お願い、死んじゃ――」
咲樹が咳き込んでぐしゃぐしゃに涙とよだれをこぼしながら、制服のポケットから緊急停止スイッチを取り出す。それを親指で思い切り押して、わたしの意識がぷつりと切れる。
ごめん、咲樹。急速に弛緩していく身体と意識のなかで、小さくつぶやこうとした。
咲樹の計らいで、さっきのことは両親にバレずに済んだみたいだ。つくづく優しい妹だと思う。
あの子は小さな頃から不治の病によって、もう病院の外には出られないものだと言われていた。だけどその代わりにとても物覚えが良くて、わたしは両親によく妹と比べられて「どうしてお前じゃなくて咲樹なん
だ」とそのたびに言われた。
正直なところ、わたしも家族親戚だけではなく学校の誰もかもに疎まれるような人間だったので、咲樹の身体に代われるものなら代わってあげたいと思っていた。そして、それは進歩した科学技術によって叶えられた。
人間の意識を人間や
こうして、わたしの意識を模造体の方に移し、残った身体に咲樹の意識を移すことが決まった。近親ということもあってわたしから咲樹への適合率は高かったが、両親は咲樹の意識そのものがわたしみたいにならないかを憂慮していた。お医者はその心配はないと言っていたが、施術して少し経つまでは両親の気がかりは晴れなかった。
一方、わたしはたとえ医療ミスでわたしという存在が消えたとしても、むしろ都合がよかったのだろう。だからわたしが機械の器に入れられるとしても、両親は特に気にもとめなかった。
結果、両方とも成功した。咲樹はわたしの身体に、わたしはわたしそっくりの模造体の身体へと、意識を入れ替えた。
妹はわたしの身体で、わたしより良い学校へ行った。その一方で、わたしは身体の不調を訴えて不登校になって、そのまま通っていた高校を退学した。
身体の不調というのは、いわゆるわたしの意識と模造体との乖離感で、たまに身体が言うことをきかなくなるだけじゃなく、生理的な不調による不定期の嘔吐や発作など、それは外で生きていくためには致命的なものだった。
一方、咲樹の方はそのような不調はまったくと言っていいほどないらしく、今日までずっと普通の生活を過ごしているそうだ。
元から家族としての「虫」だったわたしが、「虫」になる運命を余儀なくされていた妹の代わりになるべくして「虫」になる。わたしもそれで満足したはずだった。
だけど、わたしは日に日に自分の元の身体が恋しくなっている。さっき咲樹の首を絞めようとしたのはそういうことだ。わたしにはもったいないと思っていた身体を、いまではわたしの無意識が欲している。
首を絞めたのは今回が初だったが、こういう衝動はだいぶ前からあった。咲樹は毎日部屋に入ってはなんてことのない話をするから、そのたびに衝動を抑えるのに精一杯だった。
なぜ首を絞めたのだろう。そんなことをしたって、わたしは元の身体を手に入れられないのに。ただ咲樹が死ぬだけなのに。
夜も更けて薄暗闇のなか、しわだらけのベッドの上で天井を見上げながら苦悶する。
そうしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「お姉ちゃん、入っていい?」
「……また、首絞められたい?」
「わたしのことは心配しないで。入るよ」
扉が開いて、廊下からの光が差し込んでくる。カチャカチャと食器を小さく鳴らしながら、ご飯の入ったお盆を持って入ってくる。
机の上にお盆を置いて、窓とカーテンを閉めてから電気を点ける。
わたしは目を逸らして、咲樹が部屋を出るまで衝動から逃れようとした。だけど、咲樹が部屋から出る様
子は一切なかった。
「ここ、座っていい?」
「さっさと出てけ」
「座るね」
シーツを握って、振り向こうとする自分の身体をどうにか抑える。健康的なあの身体は、わたしじゃなくて妹が使ったほうがずっといいと分かってる。なのに、魂はあの身体を強引にでも取り戻そうとしていた。
背後でベッドが沈み込むのを感じる。ベッドの軋む音から少しして、シーツを掴む手にそっと咲樹の手が添えられる。
「晩ご飯なら部屋の外に置いとくだけでいいから」
「お姉ちゃん、自分の身体が恋しい?」
「……いきなり、なにいってんの。あんたを見ないのは、なんでも手に入れられるあんたが憎いだけ」
「お姉ちゃんだけじゃないよ。いまにして思えば、私も大切だったものを失ったの」
わたしの背中にそっと、かつてのわたしの、いまでは咲樹のものになった身体が重なる。
「お姉ちゃんに見つめていてもらうための、私の元の身体が恋しい。たとえ病に冒されていたとしても、その身体ならお姉ちゃんは私を見つめていてくれたはずだから」
「わたしは、あんたのことなんか見たくない」
「……緊急停止スイッチ、ちゃんと持ってきたよ。だから、また私のことを見て」
咲樹がわたしの肩と顎を持って、こちらに振り向かせる。目を閉じていてもわたしの感触と香りが伝わってしまい、また思わず目を開いてしまう。
わたしの顔がそこにある。わたしの帰るべき場所であり、妹の手に渡ってしまったもの。
手元はシーツを離れて、わたしの姿をした咲樹の首にかかる。こうすればこの身体に入っている妹の魂がどこか違う場所に消えていって、わたしの入る余地があるとでもいうように。
二回目は少しだけ調節がきいて、どうにか殺さないように手元の力を抑えながら、わたしは咲樹に向かって叫ぶ。
「早く緊急停止スイッチを押して!」
「……やだ」
「なんでよ!」
「そうしたら、また……お姉ちゃんは、私を、見つめなくなる、から……!」
「いいから、早く! わたしも咲樹のこと、殺したくないから!」
咲樹はその言葉に反してポケットのスイッチを押すことはなく、代わりに自分の緑の寝巻きのボタンを外し始める。そのまま下着も外して、全てをベッドの外に放り出す。
わたしの姿をした咲樹は、一糸纏わぬ姿でわたしの身を腕で寄せる。
「もっと近く……お姉ちゃんに、触れたいから」
わたしの一時的な発作も少し落ち着いてきたのか、腕の力が抜けて首から手を離す。それでも衝動が治まったわけではなく、ぎこちない身体の動きで緊急停止スイッチを取ろうと、床に落ちた咲樹の寝間着に手を伸ばす。
その直前、咲樹の手がわたしの腕を掴んでベッドに押し倒す。さっきとは反対に咲樹のほうが馬乗りになり、わたしの青い寝間着のボタンを脱がしていく。
「あんた、どういうつもり――」
「寂しいんだよ!」
強引に下着ごと脱がされて、遠くに放り投げられる。それが積まれた本の一列に当たって、ばさばさと崩れる音が聞こえる。
疲れて力の抜ける身体は抵抗できない。もしかしたら、なにかの拍子にまた首を絞めてしまうかもしれない。
そんな葛藤を繰り返しているうちに、わたしの頬に上からぽたぽたと涙が落ちてきた。
「お姉ちゃん、ずっと私のことを見てくれなくなったから! 寂しくて、わけわかんなくなっちゃってるの!」
目の前で、わたしの顔がぐしゃぐしゃに泣いていた。わたしの姿をした、妹の咲樹が。
わたしにとって、わたしの身体も妹の咲樹も大切だった。だからか、目の前にあるものに対して、わたしは弱くなっているのかもしれない。
そのままゆっくりと、自分の意思で背中から抱き寄せる。立てた腕から力が抜けて、咲樹もわたしの模造体に手を回す。
裸で触れた身は柔らかくて、どこか少しだけ温かかった。
「……ごめん、咲樹」
「お姉ちゃん、なんかひんやりしてる」
「そう? わたしが機械だから、かも」
「私の身体はどう?」
「温かい。それでいて、どこか懐かしい感じもする」
「そりゃお姉ちゃんの身体だもん。普段から大事に使ってるんだから」
わたしの愛していたわたしだった身体を、わたしの愛している咲樹として抱く。
先ほどまでの発作は消えていて、代わりに本能に突き動かされたかのように裸の身を絡め合う。そうしていると、どこか自分の身が戻ったように安堵する自分がいた。
失って初めて気づく、自分の身体。大したものでもないとさえ思っていたものがここまで魅力的に見えているなんて。
わたしはもう戻れないことを改めて思う。この身体の不調を抱えながら、
だけど、それでもいいのかもしれない。いまのわたしは、わたしの元の身体を持つ咲樹という、この世のなにもかもより愛せるものと寄り添えるのだから。
咲樹はいつか来るであろうわたしの処分に納得してくれるだろうか。納得していようが、わたしたちの愛を知ることのないあの両親は、
とすれば気がかりなのは、わたしのことではなく咲樹の方だ。わたし亡き後で、この子はわたしのことを忘れて生きていけるのだろうか。
案外早く忘れて、したたかに生きていくのかもしれない。案外、この子にとってのわたしは、ちょっと距離が近くて身体の相性が良かっただけの近親だろうし。少し寂しいけど、もしそうだったら安心だ。
だけど、もしかしたらそうじゃないのかもとも思う。これから残りわずかの時間まで身体を重ねていくうちに、わたしはこの子にとっての呪いになってしまうのかもしれない。
どちらにせよ、この子の未来にはわたしという存在はあってはならない気がする。「虫」は「虫」らしく、誰にとっても後腐れなく「虫」としての役割を果たすべきなのかもしれない。
そう考えて決意する。ベッドの外を手探りして、咲樹の寝間着のポケットから緊急停止スイッチを取る。それを咲樹の手に握らせる。
咲樹が目を覚まして、眠たげな目をこすってわたしを見つめる。
「お姉ちゃん……?」
馬乗りになって、わたしはわたしの意志で、元のわたしの首に手をかける。
これは
そのまま手に力を込める。咲樹はわけがわからない様子で苦しみだして、信じられないような目でわたしを見つめていた。
「お姉、ちゃ……どうし、て……」
「やっぱり、あんたがわたしの身体を奪ったことが許せないの。その身体で
これは発作じゃない。その気になれば、いつでもこの手を離すことができる。だけどわたしは、この手を絶対に緩めることはない。
これがわたしの、「虫」になったわたしが妹のためにできる最後の役目だ。咲樹がスイッチを押してわたしのことを両親に言えば、わたしはすぐにでも処分される。誰彼にも疎まれたまま、この世界から退場できる。
わたしはそれを望んでいた。そのはずなのに、首を絞めるうちに、ただでさえ薄暗い視界が霞んでいた。
「泣いて、るの……?」
「泣いてなんかない!」
「ねえ、なん……で……」
「あんた死にたいの! 死にたくないなら、早くスイッチ押してよ!」
首を絞める力を強める。咲樹は一向にスイッチを押そうとしない。
だけど中途半端に止めたらまた覚悟が鈍るかもしれない。だから、止める訳にはいかない。
わたしは咲樹に見限られる期待を込めて、首を絞めていた。
結局、咲樹はスイッチを押さなかった。賢いこの子はわたしから真意のようなものを読み取って、わたしを殺さないことを選んだのだろう。
窓を全開にして、裸のままベッドにぐったりと横たわった咲樹を背負い込む。
その身体にはもう息はない。裸同士で触れた部分から伝わる熱は、すでに冷えきっている。
それから思い出したように、咲樹だったものが取り落とした緊急停止スイッチを拾って、窓枠からゆっくり乗り出した。
まさかこうなるなんて思わなかった。わたしだけが死ぬべきだったのに、咲樹の命を奪うことになるなんて思わなかった。
ごめんなさい。
わたしも、すぐに行くから。
スイッチに親指を添える。身を大きく乗り出し、緊急停止スイッチを強く押す。
意識がぶつりと切れる最期の感覚に、わたしは身を委ねた。
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