第34話 side: Robert

 イオリちゃんからのメールは、途中で途切れていた。……というよりは、何者かが意図的に情報を隠したように見える。

 ……そういえば、ポールも記憶を覗かれた時、重要な部分を隠していたんだっけ……?


 ローザ義姉ねえさんに連絡し終えた二人に呼びかけ、メールを見せる。


「……どこの地下室だろう?」

「さあ……?」


 読み終えたアン姉さんが怪訝そうにするけど、僕にもわからない。マノンが偶然「見つけた」地下室で、怨霊がいそうなところって言うと……なんだろう。まだ情報が足りないのかな。


「呪い……異国の剣……マノン……?」


 と、ロッド義兄にいさんがメモを取りながらぼやく。棚から昔の原稿を取り出し、ぱらぱらとめくっている。


「……。グリゴリーのメール、もっかい見せろ」

「え、あ、うん」


 僕が画面を見せると、ロッド義兄さんの眉間のしわが深くなる。


「……イヌガミ……異国の剣って……東洋のだったりするか……?」

「日本刀ってこと?」

「そういやブライアンって、呪われた剣を拾って取り憑かれてたんだっけ……」


 アン姉さんは自分の顎に手を当て、少しでも多くを思い出そうと首を捻っている。

 レヴィくんが言っていたけど、ブライアンはある怨念に利用されて「亡霊辻斬つじぎり」になったんじゃなかったっけ……。ええと……名前がちょっと思い出せないな。……シレー? だっけ?


「マノンはカミーユの親父さんとこに働きに行ったんだろ? んで、そこそこ儲かってて金には困ってない家だったと」

「確かに地下室ぐらいありそうだけど……でも、証拠はなくない……?」

「ブライアンに取り憑いてたからって、実家に行ってる保証もないしな……まあ、可能性はなくもないけど」

「本人に聞くか……? いや、知ってそうにねぇな。ガキの頃から実家に帰ってねぇんだろうし……」


 三人で話し合うけど……なんだろう、あと一歩、何かが足りない気がする。

 レヴィくんからのメールを見返してみるけど、まとまらない。


「レヴィに分かってるところまで伝えよう。ブライアンの友達だし、俺たちより知ってることは多いはず」

「そ、そうだね!」


 アン姉さんの冷静な案に頷く。

 そういえば、「向こう」は今、どうなってるんだろう……?


 と、再びロッド義兄さんの電話が鳴り響く。


「……サーラからだ。早ぇな……」


 ロッド義兄さんが目を丸くする。ここと外では時間にズレが起こってるし……時間の「流れ」自体が変わってしまっているなら、おかしくはないのかも……?


『ロデリック! 調べたよ! 一回こっきりの案件だったけど、ウチのプロジェクトに関わってた』

「契約社員ってこと?」

『いやいや、フリーランスだから外注だよ。どっかからの紹介だったんじゃないかねぇ』


 アン姉さんの疑問にも応えつつ、サーラは続ける。


『個人情報だけど、まあ……緊急事態だしそんなことも言ってらんないね。目立った情報はないけど、一応伝えとくよ。ハンドルネームはトーマス・ヴィンセント。職業分類はシステムエンジニア兼プログラマー。担当してもらったのは……あー、なんかの企画の広報ページっぽいね。本名は……』


 ヴァンサン・トマ。……そんな、当たり前の答えが帰ってくるものだと、僕達は思い込んでいた。


だってさ』


 サーラが名前を告げた途端、その場の空気が固まった。


『ああ、リヒターヴァルト療養院からの紹介だね。アンドレア、アンタの見舞いに行った時に……ん? どうしたんだい? 黙り込んで』


 ……ポール・トマ?

 い、一体、どういうこと……!?

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