第10話 調書⑴⑵

 ・某日の調書より、たむろしていたチンピラ風の男の言葉


 だから、なんでオレがここいたら困るんだよ。特に何もしねーのによ。

 ……おめーそんなルールまで気にしてたらすぐ死ぬぞ。脅しじゃねーっつの! 割とマジでおめーみたいなの瞬殺だわ。そこらのチンピラでも余裕だろ。ホームレスそんないねー街なめんなよ。まともなホームレスこんなとこで寝ねぇわ。

 まだハタチそこそこで死にたくねーだろ。……え? 32? ちゃんとメシ食ってっか?



 ・翌日、絵を同じ場所で数時間描いていた不審者の言葉


 あのさ、何で数時間絵を描いてるだけでケチをつけられるわけ? 君何様?

 僕特に何もしてないよね? 絵描いてただけだよね? 怪しいことしてたなら言って?「絵を描くこと」が怪しい行為なの?

 雰囲気が何? ああうん真剣だったよねごめんね。僕本気だから。この場所薄暗くて不気味なのに……って、だからこそでしょ。絵描きが皆似たような絵だったら芸術すぐ廃れるって。

 君新入り? 僕みたいなのに構ってるってどれだけ暇なの? 来たばっかりだから街のこと知りたいけど怪しい奴が結構多かったからとりあえず声かけた……なら分かるよ。

 でも、声かけるのにいきなり警察ですとか言ってお堅い挨拶されるとイラッときて当然だと思う。そんなに偉い立場なわけでもないし。何か言いたいなら言えば?


 ────


 とりあえず、関係のありそうな資料がこれ。……今見てもやっぱり腹が立つ。まあ、この街がどういう印象の街かは分かると思う。


 チンピラは赤毛の短髪に緑色の瞳。服装はTシャツにジーパン。明らかに学がない。不審者は亜麻色の癖毛に青い瞳。服装は小洒落ていてセンスがいい。胡散臭い雰囲気で明らかに嫌味。


 彼らとは、この先妙に関わっていくことになる。……ただ、はっきり言って初対面の印象は、バカと面倒くさい人でしかない。


  もうひとつ、気になるものがあった。




 ・「レヴィ」についての証言書


 1.前の殺人もあいつが犯人なんだろ?

 怖いよな。どこでもトラブル起こしてたらしいし。……俺は会ったことないけど。

 目立つ外見らしいから、よっぽどすぐわかるんだろうなぁ……。え? どんな外見? 赤毛の大男って聞いたよ。


 2.噂の人でしょ? どこかの組織と繋がりがあるとかいう……。会ったことはないけど、危険なのくらい知ってる。

 えーと、二十代半ばくらいで……目付きが悪いって。

 ところで、お兄さん今夜どう?サービスしちゃうわよ。エルダは最近見かけないし、今がチャンスよね……あ、こっちの話!


 3.レヴィって名前の奴になら前ちょっと会ったけど、あれは別人だろうなー。だって真面目な奴だぜ? サボってる奴いたらちゃんと注意するし、店長や先輩の言うこと真面目に聞いてくれるし……。いい子なのに何かトラブったとかで辞めちまったな。おっと、話がそれた。何かあれだろ、やばい人だろ? ……外見?

 顔に傷あるって聞いた。


 ────


 ……まとめながら頭が痛くなってきた。

 どうやら、「レヴィ」という名前の人物は実在するらしい。リヴァイでもリーヴァイでもリーヴィでもない発音からして、まあ、たぶんそういうことだろう。民族や宗教関係はややこしいから、あえて言及はしない。


 ともかく、噂の危険人物と言うと、大体皆が口を揃えて「会ったことがないけど」と語る。外見に関しては、男性。……以外はほぼ信用ならない。三つ目の証言では顔に傷があると言われていたのに、次の証言。


 ────


 4.かなりの美形らしいよ!

 近寄り難さがすごいって……。めっちゃ長い金髪で碧眼らしいし!


 ────


 ……最初の証言で「赤毛の大男」と言われてるのに明らかな矛盾。さらに、


 ────


 5.緑色の瞳のええと、黒髪で、あれ、茶髪か?……あー、なんか、化け物らしい。本当は人間じゃないって……いや、噂だけど。


 ────


 読むだけでイライラした。失礼に程がある。彼が一体何をしたっていうんだ。




 ……さて、情報を集めてわかったのは、くだらなさすぎる事実。

「レヴィ」という名前は未解決事件が多い恐怖を落ち着かせるために、民衆が作り上げた偶像。つまり作り話。


 ほっとした帰り際、公園で例のチンピラと出くわした。レオと名乗ってるけど、こいつはやけにしつこく絡んでくる。当たり障りのない範囲で調査について話すと、顔色が変わった。


「でもよ、そいつってホントにいるんだろ?」


 上手く書き表せないほど、怒っていた様子だった。……つい、逃げたくなるくらいには殺気立っていたように思う。その後、アドルフさんに尋ねると、今はまだ調べるな……とのこと。


 レオの言葉は、ある現実を示していた。

「レヴィ」は実在する人物なのに、その名前が示すのが凶悪な危険人物の偶像。そして、「会ったことがない」人だらけ。

 ……それって、本人は……?


 彼らは悔い改めず、諦めない

 罪を、未だに重ね続けている

 ……許さない




 ***




  なんだ? このメール。

 街の中の人間について、か……。レヴィは確か、「助けて欲しい」って言われていた……ような……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る