第41話
寄士竜がゆっくりと身を起こすと、その重みから解放されたレトゥラトスの喉から空気が漏れ出るかすれた音が鳴る。
テツは寄士竜を見上げると、その表情からは分からない感情を囁きから拾おうと耳を澄ますが、囁きの代わりに耳を突いたのは兵達が上げる歓声だった。
自分の部下達が歓声を上げながらこちらに駆け寄ってくるのをボンヤリとした目で見つめる。
これは結構怖いな。
黒い鎧の巨人が雄叫びと大差ない歓声を上げながらこちらに走ってくる光景をそう評す。
寄士竜が気を利かせたのかテツから一歩下がり場所を空け、疲れたと言わんばかりにそっと身を伏せる。
走り寄ってきた部下達が周囲を囲み何かをしきりに言うが、皆が同時に好き勝手喋る為にまともに聞き取れない。
テツは苦笑しながら、とりあえず落ち着けと左手を上げようとして違和感を感じる。その正体が分からないまま左手を上げようと肩を動かすと、肩から嫌な音が鳴った。
なんだ? と思うまもなく腕甲が左腕からバラバラになって地面に落ちる。
なぜか兵達がそれを見て更に歓声を上げる。
戦闘で
不意に歓声が
「よぉ」
とりあえず、どうして良いか分からずおどけてみせる。
フレイが兵達が空けた道を歩いてくる、無言なのが妙に怖い。
「血塗れだな」
目の前に来たフレイが開口一番にそんな事を言う。無表情なのがテツとしては怖い。
「返り血だ」
テツの答えを聞いているのか、フレイがツイと視線を下げる。
「左腕」
「中身は無事だ、右腕じゃなくて良かったよ」
ほら、お前に貰った腕甲は無事だ、と右腕を見せる。
フレイはそれにも応えずにテツの顔をじっと見てくる。
こういう時のフレイが何を考えているのか、テツは昔から分からなかった。戦場でなら視線が合っただけで何をして欲しいのか手に取るように分かるのに。
いつもの様に口に出してくれないかな、とテツは途方にくれる。
「次は」
聞き逃すのではないかと思うほどの小声がフレイの口から漏れる。
「次は私を仲間はずれにしたら怒るからな」
こんな事が二度もあってたまるか、という心からの言葉をテツは飲み込んだ。
奥歯を噛みしめキツく唇を結ぶフレイの姿が泣き出す寸前に思えたからだ。
テツは苦笑を浮かべる。
そうだな、コイツはこういう奴だ。
「そうだな、次は一緒にやるか」
そう口に出しながら思う。
そんなに――。
泣きそうになるくらいに――。
竜と戦いたかったのか――、と。
テツ・サンドリバーはそう思った。
早くも乾き初め
「お見事でした」
サムソンが賞賛の籠もった言葉をかけてくれる。
「俺は何もしてませんよ、サムソン様」
ありがたく手ぬぐいを使わせて貰いながら、気が抜けていたテツは、つい様を付けて呼んでしまったがサムソンは流してくれた。
「まさに伝説の騎士のようでした」
いやいやそんな、と事実としてレトゥラトスを倒したのは寄士竜と兵士達だと思っていたテツはその言葉を否定しようとしたが、サムソンの目が余りにも本気であった為につい否定の言葉を詰まらせてしまう。
なんというかサムソンの目がキラキラしていたからである。
えーなんだコレ。
どうしようかとテツが迷っていると、竜からの囁きがそれを遮った。
「みんな下がれ! 竜が何かする!」
その囁きを受けてテツが慌てて皆を下がらせると同時に、伏せていた寄士竜が
何をするのか? テツを含め全員が注目する中、寄士竜は大きく口を開けると横たわるレトゥラトスの頭の付け根へと牙を突き立てた。
寄士竜が断ち切ったレトゥラトスの首を咥え上げると、テツはそれが何なのかを理解した。
「そうか、それがお前の取り分か」
魔石ではなく頭をほしがる、というのは竜としては不可解だったが、テツは寄士竜のその主張に文句を付ける気は無かった。
この寄士竜がいなければ自分は死んでいたというのは紛れもない事実なのだ。
それなら好きな物を持って行ってくれれば良いと思う。
テツの言葉を聞いた兵達が、お前そんなので良いのか、頭なんて食える所少ないぞ、と好き勝手な事を寄士竜に言う。
同じ寄士竜を纏う彼らからすれば、この巨大な寄士竜も軽口を叩ける相手になるようだ。
テツがそんな兵達を呆れた目で見ていると、竜が更に囁きかけてくる。
付いてきて欲しいと。
慌ててちょっと待ってくれと返すテツに寄士竜が頷くような仕草を返すと、テツの慌てた様子にフレイとサムソンが怪訝な顔を向けてくる。
まずは相談しなければ。
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