4-4

 里奈のマンションから数十メートル離れた場所で早河はイヤモニ越しになぎさと矢野の報告を聞いていた。


(木村隼人と浅丘美月を尾行していた柴田をさらに佐々木里奈が尾行していた。佐々木里奈と柴田……南明日香が繋がった)


 携帯が鳴る。上野警部からだ。


{早河の読み通りだった。南明日香の偽のアリバイで借りられたDVDと佐々木里奈が借りたDVD、ケースのシールから同じ店の同じ商品だった。佐々木里奈はその店の会員ではない}

『中央区に職場と家のある人間が北千住のレンタルビデオ屋なんか使いませんからね。なぎさが指摘していましたが、佐々木里奈と南明日香、髪型や髪の色が似ているそうですよ』

{南明日香は事件前に人工毛をつけて髪を伸ばしている。アリバイ偽装のために佐々木里奈の髪型を真似たんだろう}


 湿った風から雨の匂いがした。黒い雲が街を覆っている。パラパラと降り出して来た雨を避けるために早河は車に避難した。


{だが佐々木里奈にハッキングの知識があったとは思えない。アゲハは柴田と美月ちゃんの合成写真まで作って明日香に送りつけ、柴田の携帯をハッキングして偽のメールも作り上げている。あの佐々木里奈にそんなことができるのか}

『共犯がいると思います。それも男の』

{なぎさちゃんから送られてきたもう一枚の写真にあったあの腕時計の男か。……なぁ早河。美月ちゃんの心をえぐって傷付けたアゲハが俺は許せない}


上野の声は怒りに震えていた。温厚な彼がここまで怒りをあらわにするのは珍しいし。アゲハはそれだけの重罪を犯しているのだ。


『わかりますよ。俺だってこんなこと許せない。アゲハは自分は手を下さずに明日香を使って柴田を殺させ、浅丘美月を陥れた。人を思い通りに操って動かす……カオスの常套手段にはうんざりします』

{そのアゲハをさらに操っている黒幕がいる}

『佐々木里奈の身近にパソコンに精通している人間を探せばアゲハの後ろにいる黒幕に辿り着けるかもしれません』


         *


 なぎさは里奈の部屋の床に隼人と美月の隠し撮り写真を並べて、デジカメで写真を撮った。早河に見せるための証拠品だ。


『そう言えば早河さん、ピッキングに燃えてて報告するの忘れてましたけど、例の沢井あかりの件』


 上野との通話を終えた早河に矢野が話しかける。


{何か掴めたか?}

『第一段階なのでまだなーんにも収穫はありませんが、木村隼人の話通り、沢井あかりは3年前に啓徳大を中退後に渡米しています。両親がロサンゼルス在住なのでその関係でしょうけど、その後も何度か日本に帰国しているんですよ。ちなみに今は帰国ほやほや。今月の3日にロサンゼルスから成田着の便で帰って来てます。まだ出国はしていませんね』

{沢井あかりは日本にいるのか……}


 家宅捜索を終えた二人は里奈の部屋を出た。矢野が里奈の部屋の施錠作業を始める。


『でも3年前の事件のすぐ後に渡米って怪しさ120%な気もしますね。木村隼人が怪しむのもわかるかも』

{沢井あかりは間宮が殺されることを知っていたんじゃないかと木村隼人は疑ってる。当時も間宮殺害には疑問が残っていたからな}

『間宮殺害には沢井あかりが関わっている……つまりカオス側ってことですよね。……よし、マジシャン矢野くんの任務完了。ボス、今から戻りまーす』


 なぎさと矢野はエレベーターではなく階段でマンション一階のエントランスに降りた。小雨の降る道を小走りに駆けてしばらく行くと早河の車が見えた。

車内で煙草を吸いながら物思いに耽る早河が待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る