三章 ポッピンフルーツミックス
Prolog みるふぃーゆめんばー
「おかえりなさいませご主人様ー!」
「にゃーん!ご主人様おかえりだよー☆」
「ただいまミサちゃん!今日も可愛いね……ぐふふふ」
「みるきぃちゃん、今日も会いに来ちゃったよ……世界一可愛いねふふ」
「ありがとうございますっ!」
「にゃは☆ご主人様も世界一かっこいいよん!」
「ふおおおお!笑顔が!笑顔が眩しい!」
「推しの声も顔も仕草も何もかもが可愛過ぎて尊死してしまうっっ!」
「もー、大袈裟ですよご主人様〜。じゃ、お席ご案内いたしますね♡」
#
『
灯火駅から一駅離れた
店主の
良枝の夫は大変な金持ちであり、一、二生くらい遊んで暮らせるほどの資産がある。よって良枝が作った喫茶店は採算度外視で趣味嗜好まっしぐらの一風変わった店となった。
基本コンセプトはメイド喫茶なのに、店内は木製の家具を基調としたシックで落ち着いた雰囲気を醸している。
ホールスタッフは全員若い女性。採用基準も一風変わっていて、声が可愛いかどうか(いわゆるアニメ声)が決め手だそうだ。良枝曰く「カフェは心の癒しでなきゃいけません。声が可愛い=癒しです」との事。
そんな一見ふざけているようにも思える採用基準に対し、提供する料理は食材をこだわっておりそこらの喫茶店よりも明らかに上手い。が、値段は高くない。一食千円で必ず収まるほどである。
そんなちぐはぐさが地元で有名となり、若者を中心に多くの客を呼び、ネットニュースで取り上げられたりもしている。
そんな絶好調(利益的には赤字だが)のみるふぃーゆだったが、現在少々困った事になっていて……
「シフト、きつくないですか」
夜、閉店後。ダウンライトのみの薄暗い店内。そこに二人の人物の影があった。
一人は涼しげなすました顔だが、確かな不満に満ちたため息を吐く背の高い女性店員。キッチンスタッフらしく、白いシャツと黒いズボンにエプロンといった服装の彼女は閉店後の店内のカウンター席にて頬杖をついて、もう一人の人物――横で立っているメイド服姿の小柄な女性に目を向けた。
「ごめんねー復帰早々
独特の表現で返したメイド服の女性はツインテールに結んだ髪を指先で弄りながら犬歯を覗かせて笑う。
「別にいいですけど……人随分辞めたんですね。まさか人員三人足りてないとは思いませんでした」
「四月でごっそりね。就活生が多かったんだよにゃー。その上この店ネットニュースに載っちゃったもんだから忙しくって。『本格料理のメイド喫茶!』だーって。あたしインタビュー受けちゃった♪」
「へぇ。このお店も有名になったものですね」
「他人事みたいに。初期のみるふぃーゆを支えたメンバーの一人でしょ」
「別に。ただのアルバイトですし」
「人気読モになった有名人は流石にクールですにゃー」
「それもただのバイトですから」
「わぁお、大物ハツゲーン!でもでも、だったらリムちゃんはどうして読モの仕事ほっぽりだしてこんな面倒くさいお店に帰ってきてくれたのかにゃ?こっちのがお金安いでしょ?」
「………………………」
「……ん?なんで黙ってるの?フリーズ?」
「別に、何でもいいでしょ」
「うんまあ、いいけど?こっちは得して超ハッピーだしにゃあ」
メイド服の女性は首を傾げて不思議そうにしつつも、それ以上追求する気は無いようだった。
代わりに何か思い出したのか嬉しそうにはにかんで一つ手を叩き、
「あ、そだそだ!知ってる?もうすぐかぁ君も戻ってくるみたいなんだよね!あたし、リムちゃん、慎太郎、かぁ君!あの頃仲良かったメンバー勢揃いだにゃー!」
「…………そうですね」
「楽しみだね♪」
「まあ…………はい」
背の高い女性は変わらずのローテンションだったが、その口には僅かに笑みが浮かんでいた。
「秋春と、また一緒……」
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