第350話 上級生の示し

side クラーク


 そうだ。俺たちはただでさえあのマゼルって一年坊にしてやられたんだ。これ以上一年坊主に舐められたままじゃ上級生としての示しがつかねぇ。


 だから俺はモブマンに対して、しっかりわからせてやることにした。俺に逆らった場合どうなるのかを――


「――変化の拳、鉄拳の制裁、鉄拳魔法――ナックルサンクション!」


 詠唱し魔法を行使した俺の拳が鉄に変化した。そうだ! これこそが俺の鉄拳魔法。これを見れば一年はビビって逆らう気も起きなくなるだろう。


「出たぜクラークの十八番!」

「もっともそれしか芸がないとも言えるけどな!」

「お前ら黙ってろ! さぁ一年坊。お前だってわかるだろう? これで殴られたらどうなるか?」

「……はぁ」


 なんだコイツ? 俺の鉄拳を見ても反応が薄い。ビビりすぎて思考がおいついてないのか? ま、まぁいい。


「とにかくだ。お前が無理ならお前の友だちとか誰かしらいるだろうが! そいつらから無理矢理でも金を引っ張ってこいや!」

「……それって俺にダチを売れってことですか?」


 な、なんだ? こいつ急に雰囲気が変わったぞ。


「それは幾ら先輩の頼みとは言え聞き捨てならないっすね。そういうことならこっちも黙ってはいられない。躍動する筋肉――」

 

 な、なんだ? こいつの体、詠唱に呼応するように盛り上がっている? いや筋肉が増幅してる!?


「筋肉強化魔法・パンプアップ!」


 モブマンが魔法を行使した。途端にモブマンの体がボコボコと膨れ上がり、そして服が弾けた。


「な、なんだこいつ!」

「これが俺の魔法、筋肉強化の効果だ!」


 こいつ体格もより大きくなりやがった。クッ、だからどうした! たかが筋肉だろうが!


「うるせぇ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ一年! 鉄拳制裁!」


 俺はモブマンに対して鉄拳を放った。だが俺の拳はモブマンの筋肉に阻まれ全く効き目がない。


「な、俺の拳が!?」

「こんなものっすか? 大したことないっすね!」


 モブマンの眼力が強まる。睨まれた俺は思わず後退りし、一方でモブマンがジリジリと近づいてきた。


「さぁ観念するっすよ。このまま一緒に先生のところに行ってお説教を喰らうっす!」


 先生のところだって? やべぇぞ。今そんなところに連れていかれたら言い訳のしようがねぇ。だがこいつも簡単にボコれそうにない。どうする? 考えろ俺――


「ご、合格だ!」

「へ?」


 思わず俺は叫んでいた。するとモブマンの目が丸くなる。今だ!


「ハッハッハ。いや実はな、上級生にはこんな感じで下級生を脅す不届き者がいると聞いていてな。俺たちはそんな被害を食い止めるために君たちを試していたのさ」

 

 そう言って俺はモブマンの肩を叩いた。


「おいおい、いくらなんでもそれは……」

「通じるわけ無いよな……」


 後ろで連れの呆れる声が聞こえてきた。くそ! だったらお前らも少しは考えろってんだ。


 するとモブマンの肩が震えているのを感じた。怒ってるのか? やべぇやっぱり無理があったか!


「そ、そうだったんですね! 俺! 感動です!」


 だが違った。モブマンがぐいっと俺に顔を近づけて涙を流して訴えてきた。こ、こいつ信じやがった!


「先輩がそこまで思って俺たちのことを考えてくれていたなんて、それも知らず俺、俺!」

「いやいや気にするな。敢えて悪役を演じるのも上級生の努めだからな。うん。とにかくこういう手口で来る上級生もいるから気をつけたまえ。これからは君が一年を代表して皆を守っていくんだ」

「お、俺が! いやでも、マゼルを差し置いて俺なんかが……」


 うん? 今妙な名前が聞こえたような……。


「えっと、今マゼルと言ったかな?」

「はい! マゼルは俺の大事な友だちです!」


 マジかよ……あいつにはできるだけ関わりたくなかったってのに。


「と、とにかく気をつけるんだぞ」

「はい! ありがとうございました!」


 モブマンの声を背中に受けながら俺たちはその場を後にした。


「馬鹿で助かった……」

「だけどどうすんだよ。結局何も出来なかっただろう?」

「予定と大分変わってきたな」


 連れの目が冷たい。こ、こいつら俺に任せっきりな癖に言いたい放題だな!

 とにかく気分転換に一度外に出た。昼休みだけに外にも生徒の数が多い。歩いているとふと眼鏡の一年を見つけた。


「よし。あいつならいけそうだ」

「流石弱そうな相手を見つけるのは早いな」

「クラークは弱者には最強だからな」

「うるせぇ!」


 とにかくだ。あの一年から金貨をせしめて――


「僕の眼鏡、光る眼鏡、至高の眼鏡、究極の眼鏡、全ては眼鏡に始まり眼鏡に終わる――眼鏡魔法・メガネオブサン!」


 俺たちが近づこうとすると眼鏡の眼鏡から光線が放出され空を貫きやがった……。


「いやぁ今日も僕の眼鏡は絶好調だなぁ」

「あいつはやべぇ! 行くぞ!」


 何か眼鏡が不思議そうにこっちを見ていた気がしたがあいつはマジでヤベェ。俺の直感がそう告げたぜ。くそ、だけどこっから一体どうしたら――

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