第248話 魔力0の大賢者、先輩と呼ばれる

 気配が離れていくのがわかった。しかもしっかりサーペント王国側の方にだ。これでは下手に追うわけにはいかない。


「そのサーペント王国に乗り込んでいってとっちめてやればいいんじゃないのかい? 主様なら三十分もあれば国の一つや二つ滅ぼせるだろうさ」

「いや! 流石にそれは……」


 今回ばかりは仕方ないと思っていた僕に向けてアネがとんでもないことを言ってきたよ!


「何を言ってるのですかアネ!」


 するとラーサがアネに向けて強い口調で反論する。そうだよね流石のラーサもそこまでとは思ってないだろうし。


「お兄様なら三秒あれば国ぐらい、いえ世界だって壊せます!」

「いやいやいやいや!」


 まさかのアネ以上の発言が飛び出てきたよ!


「むっ、言われてみれば確かにそのとおりだね。ラーサに負けるなんて悔しいけどねぇ」

「勝ち負けとかあったの!?」


 もう突っ込みが追いつかないよ!


「とにかく僕も今は一学生に過ぎないのだしあまり派手なことは出来ないからね」

「……先輩がとんでもない力を持ってるのはわかったがその通りなのだよ」

「ハッ! 先輩……うぅ、先に言われたぁ……」


 そういえばグリンは僕を先輩と呼んでくれてるね。そして何故かラーサが膝から崩れ落ちた。一体どうして……。


「大丈夫? 調子悪いの?」

「いえ、そうじゃ……ハッ! だ、大丈夫ですマゼル先輩!」

「へ? あ、うん。なら良かったけど」


 ラーサがぐいっと顔を近づけてきて大丈夫だってアピールしてくれた。だけど先輩って妹から呼ばれるとなんだかくすぐったくなるね。


「やった! これで女の子で先輩って呼んだのは私が初めてです!」

「妙なことにこだわるんだねぇ」

 

 ラーサが何か喜んでるね。アネは呆れ顔だけど。


「ラーサはお兄さんのことが本当に好きなんですね」


 アンが微笑ましげに言っていた。前世では一人だったし妹のことは大事にしたいよね。


「とりあえず縛って動けなくはしておいたさ。僕の銀魔法でね!」

「手足を縛っておけば安心だね」


 シルバが銀の鎖で縛めてくれたようだね。中には魔法を切る力を持ってるのが残ってるかもしれないけど体を動かせないなら問題ないはず。

 

 ただあの透明になっていたのみたいなタイプは何してくるかわからない。もしそんなのが残っていればすでに抵抗していると思うし問題ないとは思うけど――


「念の為」

「「「「「「――ッ!?」」」」」」


 縛られた教団の人間に電撃を浴びせた。やっぱり一部は目覚めていたのか声が漏れていた。


 だけどこれで完全に意識は失ったね。引き渡すまでは目を覚まさないよ。


「今のは雷魔法?」

「はい。お兄様に掛かればこの世のどんな魔法でも行使可能です」


 目をパチクリさせるシルバにラーサが答えていたけど、僕としては弱ってしまう回答だよ。


「凄いですマゼル先輩」

「え? あ、いや、はは……」


 フレデリカが目を輝かせていた。でもこれ魔法じゃないんだけどね物理だし……。


「さて、気を失ったからこうやって――」

 

 次に僕は拳で空間を割って中に教団の人間を放り込んでいった。これで連れ貸せるのは問題ないね。


 まぁ担いで行く方法もあるけど皆いるし目立つもんね。


「……空間を操作する魔法まで扱えるとは驚きなのだよ」

「まるで手で割ったみたいにパリンっとしてたよね」


 グリンとブルックが感心したように言っていたけど、はい、ブルックの言うとおりです。拳で空間を割りました。


「……底が知れないとお答え致します」


 えっと何かメイリアにお答えされちゃったよ……。


 その後は皆と一緒に御者のおじさんのいた場所まで戻った。


「驚いた。本当に君一人で全員救出してくるとはね」

「ちゅ~♪」


 皆と一緒に戻った僕を見ておじさんが驚いていたよ。ファンファンはどこか得意げに僕の頭に乗って鳴いていた。


「ところであの連中は?」

「安心してください。お兄様の魔法で異空間に閉じ込めてますから」

「へ? く、空間? 何だかよくわからないが凄い魔法の使い手なんだな君は」


 いや、すごくは無いです。空間を拳で割っただけのただの物理なのです……。


「君が言っていた通り、ここにも全く魔物が寄り付かなくなったしな」

「お兄様の結界魔法ですね! 素晴らしいです!」


 いや、ただ周辺の魔物を威圧して近づかれないようにしておいただけなんだけどね……。 

  

「よしこれで全員の無事も確認出来たからな。大分予定より遅れたが――学園に向かうぞ」

「それなら僕が安全なルートで先導しますね」

「うん? いやこっちは馬車、しかもただの馬車じゃないからな。速度もかなり出るんだぞ?」

「それなら出来るところまで……」

 

 そう答えて僕が前を走った。う~ん確かに一般的な馬車よりは速いし特別な馬車らしいけど見る限りこれなら前を走っても問題ないね。威圧で魔物が近づかないようにした上で風の抵抗を受けないようにしたから馬車の速度もより上がったようだった。


 よし、これならおもったより速く戻れるかもしれないね! 何か御者のおじさんが目を見開きっぱなしなのが気になるところだけどね――

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