第209話 魔力0の大賢者、学園で初めての朝を迎える
朝が来た。学園の寮に入ってから初めての朝だよ。窓を開けて空気を入れ替える。なんだろう? 同じ朝だけどやっぱり感じる匂いは異なるね。
さて、とりあえず井戸に向かう。この寮は井戸から組み上げないと水が確保できない。本校舎の寮だと魔導設備で水道が確保されていてお湯も簡単に出るらしいけどね。
「マゼルお早う早いんだね」
井戸で顔を洗っているとドクトルから声が掛かった。早いか。そうかもしれない。今日はちょっと早めに目が覚めたし。
ドクトルも僕と殆ど変わらないけどね。
「今日からいよいよ授業開始だね」
「うんそうだね」
タオルで体を拭きながら答える。するとドクトルの表情に影が落ちた。
「僕はなんとしてでもここを卒業したいんだけどZクラスのままだと厳しいかなと思ってる。だから今日からの授業をしっかり受けて早めに挽回したい。マゼルもやっぱり同じ考えだったりする?」
「え? 僕」
「うん。だってあんな凄い魔法が使えてるんだもの。魔力0だって何かの間違いじゃないかなと思ってるんだけどね」
「あ、あはは……」
ごめん。それ間違いじゃなくて事実なんだ。しかも魔法は一度もつかってないし。
「ちぇっ。何だよ朝一番早いのは俺だと思ったんだけどなぁ」
僕たちが話しているとアズールも井戸にやってきた。何かちょっと残念そうに見える。
そしてアズールはシャツを脱いで豪快に井戸の水を掛けていた。何だか様になるね。
顔を振って水気を払い、その後僕をマジマジと見てきた。えっと――
「――てかドクトルも意外と鍛えてるな。そしてマゼル。本当お前のからだ魔法使いっぽくないな」
「はは。それを言うならアズールだって」
「うん。そうだね僕なんて二人と比べたら全然」
自分は魔法使いって意識は当然ないし体が資本とも思ってるから普段から鍛錬はしている。
でも魔法使い系は頭脳が資本とされるから体を鍛えてることは少ない。それは昔からそうだったね。
「前に偉大なるゼロの大賢者は肉体的にも優れていたって話を聞いたからな。そっから俺も鍛え続けてるのさ。やっぱ大賢者とも呼ばれる人物は魔法だけじゃなくて肉体的にもすぐれているんだな」
いや魔法は全く優れてないんですが……
「おはよう。皆早いな」
ガロンも来たね。これで男性陣が揃った。皆なんだかんだで早起きだね。
「しかしこっちは使える水場が井戸一つなのが不便なところだな」
ガロンもシャツを脱いでタオルで体を拭き始めた。アズールが歯をむき出しにして不機嫌そうにしている。
「どうしたのアズール?」
「どうしたも何もなんでお前ら揃いも揃って体鍛えてんだ。くそ俺のアイデンティティーがー!」
「一体どうしたんだアズールは?」
「はは……」
言われてみればガロンも強靭そうな体つきをしているね。肩幅も背中も広い。
「ちょっとあんた達一体いつまでだべってるのよ。私達も井戸使いたいんだからね」
メドーサが校舎の影から半分ほど体を出してこっちを見ていた。不満そうにしている。
「別にいいぜ。俺らなんて気にせず使えばいいだろう?」
「だから、体だって拭きたいし!」
「……こっち来て拭けばいいだろう」
「あんた石にするわよ!」
「はは、アズール流石にそれは無茶だよ」
アズールがメドーサに睨まれた。女の子は流石に僕たちがいたんじゃ着替えられないよね。
「とにかく済んだら離れてよ。アニマなんて顔を真っ赤にして今にも倒れそうなんだから」
「何だ風邪か?」
「違うわよ! いいから早く!」
首をかしげるアズールを連れて僕たちはその場から離れた。
アズールはブツブツ言ってたけどね。
そして折角早起きしたわけだから昨日の食材のあまりで簡単な朝食を作って皆で食べた。先生とシアンには今日も僕が渡しにいった。
朝食を摂った後はいよいよ授業だ。教室に向かった僕たちだったけど――そこには既に着席している女生徒がいたんだ。
でも、この子って。
「えっと君は確か?」
声をかけると彼女がこちらを振り返り反応を見せる。
「……今日からここで授業を受けることになったメイリアです。どうぞ宜しく」
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