第208話 少女たちの脱出大作戦

sideイスナ

「……マゼルに会いに行く」


 アイラが意を決したようにいいました。入学式が終わり私達はいよいよ学園での寮生活が始まります。


 しかし一年生は小テストが終わるまで、授業がある間は学園の決められた範囲内から出ることが許されません。


 また授業が終わった後は寮と周辺の庭までが活動できる範囲であり、それ以外の一切の外出を禁止すると聞かされているのです。

 

 正直もしこれでマゼル様が一緒の寮であったなら何の問題もなかったのですがマゼル様は何故かZクラスなどに決まり寮も本校舎とは別の離れに存在すると言います。


 つまり事実上このままでは私達はこの寮から出る事ができないのです! これは由々しき事態です!


 そこでアイラの提案がなされました。こっそりと寮を出てマゼル様に会いに行くなんと素敵な方法でしょう。


「それありえるわね!」

「ちゅ~!」

 

 アリエルもアイラの作戦に賛成なようです。肩に乗ってるファンファンもとても乗り気です。


 それにしてもこの方もマゼル様と随分と親しいようで、まさか人の王女まで虜にしてしまうとは……やはり昔から・・・変わってませんね。


 本当に天然の人たらしなのだから……


「ビロスも勿論行く! マゼルに会う! そして一緒に寝たい!」

「い、一緒に……」

「モブマン鼻血出てますよ」


 マゼル様のご友人であるモブマンの鼻から血が。治療しましょうか? と聞きましたが問題ないそうです。


「これは油断出来ません。勿論私も行きます!」

「イスナ様本気ですか!?」


 クイスに驚かれました。私としては当然のことですが。


「何か問題が?」

「いや、仮にもエルフの王女が規律違反など……」

「大丈夫です。それにアリエル様もいかれるのですよね?」

「勿論ありえるわ!」


 この通り王女同士仲良く規律違反ですね。勿論マゼル様に関しては一歩も譲る気はありませんが。


「クイスが行きたくないのであれば待っていても構いません。私だけでも皆様と!」

「そういうわけにはいきません。私は護衛としてもご一緒してるのですから!」


 硬いですねクイスは。個人的にはクイスも綺麗なのでそういう意味では心配でもあるのですが……


「……ちょっと人数が多い。あまり大勢で行くと目立つ」


 作戦参加者を見てアイラが難色を示しました。確かにちょっと多い気もします。


「仕方ねぇか。俺は今回は留守番しておくよ。それに皆がいないとなればごまかし役が必要だろう?」

「そうですね。モブマンだけでは心配ですから僕も残りますよ。ですからマゼルと会えたら宜しく伝えて下さい」


 なんということでしょう。モブマンとネガメが居残るメンバーとして手を上げてくれました。流石マゼル様のお友達は紳士的ですね。


「……なら決まり」


 ……正直言うと結局残ったのが全員女の子なのが気にかかるところですが


 とにかく私達は後をモブマンとネガメにお願いして寮からこっそり抜け出すことにしました。


「……こっち」

「ふむ、どうして道がわかるのかな?」

「……事前に警備が手薄そうなところを下調べしておいた」

 

 クイスが不思議そうに問うとアイラが答えます。抜け目ないですね。流石ですがマゼル様のこともありますしムムムッ――


「もうすぐ山にいける! これで脱出もありえるわね!」

「ちゅ~!」

「マゼル~ビロスすぐ行く――」


――ジリリリリリリリリリリリリッ!


 そう、もうすぐ出口と思えたその時、どこからともなくけたたましい音が発生しました。更に地面に魔法陣が現れ鎧騎士が姿を見せたのです。


 どうやら中身はがらんどうのようで自動で動く仕組みなようです。


「くっ、罠か!」

「ムムムッ邪魔するビロス許せない!」

「……問題ない全て破壊して脱出する」

「それはちょっとやめてもらいたいかな。その騎士もただってわけじゃないし」

 

 今度は知らない声が私達の耳に届きました。見ると銀髪の男性がこちらに近づいてきます。


「……誰?」

「僕は風紀委員副長のアラード。ここに警備魔法を張り巡らせたのも僕だよ」

 

 風紀委員の副長――だからこんな真似を。


「……誰か知らないけど邪魔するならお前も排除する」

「いや。それはやめた方がいいよ。そもそも君たち僕に見られた時点でもう詰んでるし」

「何言ってるかビロスわからない!」

「ありえない!」

「ちゅ~!」


 アラードに言われるも殆どの皆は納得してません。勿論私もです。しかしクイスは表情が固くなってました。


「……アラード殿の言われてる通り。今夜は諦めた方がいいでしょう」

「……むっ、何故?」

「いや、何故も何もこの手の作戦は見つかっては全く意味がないと思うのだが」

「ハハッ、そのとおりだね。君たちがどういうつもりかは知らないけど、それでも無理していくというなら最悪退学ぐらい覚悟してもらう必要があるわけだけどそれでも本気で行く気?」

「……え?」

「退学って何?」

「学園を辞めさせられるってことですありえないわ!」

「ちゅ~……」


 そ、そうです。せっかく学園に入ったのに退学となってはそれではたとえ今日マゼル様に会えても今後は無理となってしまいます。それでは意味がありません……


「さて、もう一度聞くけど君たちそれでも行く?」

「……うぅ、やめておく」

「諦めるのもありえるわね……」

「ちゅ~……」

「えぇ! ビロス嫌だ会いたい!」

「……それだと逆に長い時間会えなくなる」

「え? それ嫌! なら今日諦める!」


 というわけで結局この日マゼル様に会いに行く計画は見事に失敗となってしまったのでしたクスン――

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