第199話 魔力0の大賢者、改めてクラスの皆に自己紹介する

「今ギクって言ったわよね?」

「い、言ってないわよ。気のせいよ気のせい!」


 メドーサがどこか疑ってそうな目をリミットに向けたよ。


 リミット自身は否定しているけどね。


「もう私のことはいいでしょ。次はあんた! はい!」

「む、俺か?」


 リミットが指定したのは見た目ワイルドな青髪の少年だった。背が高くて服は前を開けている。普段から鍛えているのか無駄のない良い筋肉の付き方をしてるね。


「ガロン・ジンロだ。魔力は111扱う魔法は……自己強化魔法だ」

「――うん? それだけか?」


 ガロンの話にアズールが引っかかりを覚えたのか、彼がガロンに問いかけた。


「あ、あぁ。そうなんだ」

「そうなんだって、それだけで合格出来たの?」

「……だからZクラスなのかもな」


 どこか自嘲気味にガロンが答えたよ。皆は不思議がっているけど、ガロンはあまりそれ以上その話に触れてほしくない様子だ。


「それより、ほらまだ紹介してないのが残ってるだろう。あんたはどうなんだ?」

「え? わ、わわ、私?」


 ガロンに促され小柄な少女があたふたし始めた。凄く照れくさそうにしているね。左右と前が切り揃えられた黒髪で、顕になった額も赤くなってるよ。


「わわ、私は、あ、アニマ、ひゃ、ひゃぁと、あ、いえ、ハートりぇす!」

「はは、アニマさん落ち着いて」

「かみまくりじゃねぇか」

「でもちょっと可愛いかも――」


 メドーサが目をキラキラさせているね。アニマは初対面でちょっと緊張しているのかもしれないね。


「わ、私の魔力は、き、90,です。得意なのは動物と心を通わせる魔法りぇす、痛ッ!」


 舌を噛んじゃったみたいで両手で口を押さえて涙目になってるね。


「大丈夫?」

「り、りゃいじょうぶりぇす! 命にべつりょうはりゃいです!」


 声をかけたけど、必死に平気だってアピールしているね。流石に命の心配は大げさかもだけどね。


 そういえば姉御さんも剣でよく舌を傷つけていたっけ……何となく懐かしい気持ちになったよ。


「それにしても動物と心を通わせるって凄いじゃない」

「でも、動物いないと意味ないだろう?」

「あ、それなら……」


 アズールが動物について質問すると、アニマが窓の側に立ち口笛を吹いた。


 バサバサッという羽ばたき音がして開いた窓から飛び込んできた鷹がアニマの肩に止まった。


「ピィーー」


 甲高い声で鳴き、首を回す。アニマが頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。


「うわぁ、可愛い。撫でていい! 撫でていい!」

「う、うん! き、きっと喜ぶと思う!」


 リミットが目を輝かせているね。アニマに断って頭を撫でてニコニコしてるよ。


「名前は何ていうの?」

「め、メーテルだよ!」

 

 僕が聞くとアニマが教えてくれた。


「メーテル。いい名前だね」

「ピッ――ピィ~~!」


 僕がアニマにそう伝えると、メーテルが僕を見て、鳴き声を上げて飛んできた。僕の頭の上に止まったよ。


「うそ、メーテルが自然と私以外に懐くなんて、凄いよマゼルくん!」

「え? そ、そうなの?」

「ピィ~♪」


 翼を広げてメーテルが歌うように鳴いた。そのまま肩におりてきて僕にすり寄ってきたよ。


「はは、擽ったい。でもとてもいい子だねメーテル」

「う~ん。しかし鷹だけなのか?」

「え、えっと、ほ、本当は狼のシグルも一緒だったのだけど、に、入学式に狼も一緒は認められないから預かって貰ってるの。め、メーテルは一旦空で待機する形で許してもらえたんだけどね」


 アニマが教えてくれた。狼も一緒なんだね。


「う~ん、魔法で動物と心通わせるって結構凄いような……これでもZクラスに?」


 ドクトルがアニマに質問していた。聞かれたアニマはわたわたしつつ質問に答える。


「えっと、で、でも動物と心を通わせるだけだと使役テイム魔法の劣化版と、み、みられるみたいで」


 テイムか――テイムは魔物や魔獣を従わせる魔法だね。何故かアネの事もあって僕も使えると勘違いされたっけ。


「使役魔法といえば正に大賢者が生み出した魔法として有名だよな」

「え! いや、そんなことは、な、ないんじゃないのかな?」

「いや、何でマゼルがそれ否定するんだよ……」


 うんうんと頷いてアズールが説明したから慌てちゃったよ。


 確かに前にそんな話も聞いた気がするけど、そもそも僕は魔法なんて一切つかってなかったわけだしね。時折懐いてくれる魔物とか魔獣とか竜がいただけで! あぁ、でも何かアズールが不思議がってる!


「でもそれって諸説あるみたいよ」

「そ、そうなんだよね」


 よかったリミットが話に加わってくれて。せっかくだから僕も乗っかっておく。


「でもそれだけの理由でここに?」

「え、え~と、私、頭があまり良くなくて」

「ピィ~」

 

 ドクトルに改めて問われ、アニマが指でつんつんっとしながら元気無く答えた。メーテルがアニマの肩に戻って羽でよしよしと慰めているよ。


「は、筆記試験なんて運でどうにかなるだろう。俺なんて全部勘だぜ!」

「それ威張れることじゃないでしょ」


 堂々とアズールが言い放ったよ。確かに選択問題も結構あったけどね。


「あとは、貴方は……もう知ってるけど一応聞いておく?」

「あはは――」

 

 メドーサが僕に話を振ってきた。確かに入学式の時点で色々あったし今更かもだけどね……


「えっと、僕はマゼルと言います。魔力は0で得意な魔法はこれといってなくて、はは」


 なにか言ってて虚しくなってきたかも! ちょっと笑ってごまかしてる感じになったし!


「いやいや、あんな凄い魔法を使っておいて得意な魔法がないはないだろう」

「う~ん、でもあの足を砕いたのって本当にマゼルだったの?」


 アズールはどうやら入学式の出来事を思い出して言ってるようだ。だけどリミットはちょっと懐疑的っぽいね。実際魔法じゃないんだけど。


「眼の前で見てた俺が言うんだから間違いねぇよ。大体あの性格悪そうなワグナーが途中で魔法を止めるわけないだろう!」


 う~ん、ワグナーラクナも散々な言われようだね……


「それに俺の火を消したのも水魔法だしな」


 いえ、あれはただ空気中の水分を集めてぶつけただけですから物理です……


「あ、そうか! さてはそもそも色んな魔法が使えるからこれといって得意な魔法はないって意味なんだ! くっ、とんだライバルがいたもんだぜ!」

「それが事実ならあんたライバルにもなれないわね」


 メドーサが意外と辛辣だよ。そして僕に対しては完全な勘違いですから!


「残ったのは貴方ね」


 僕の紹介も終わってあとは包帯を体中に巻いた子だけになった。メドーサが話を振ったけどしばしの沈黙が訪れる。


「おい、どうしたんだよ?」

「…………シアン」


 そして一言くぐもった声でそう呟き再び口を閉ざす。


「シアンってそれが名前なの?」

「いや、だとして扱う魔法は魔力は?」

「…………………」


 だけどシアンはそれ以上答えることはなかった――

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