第175話 魔力0の大賢者、いよいよ実技試験へ!

「う~ん。おかしいなぁ? これで再現出来ると思ったのに……」

 

 ゴッドサンダーを放ったアダムは、手を開いたり閉じたりしながら首を傾げていた。


 今の、確かに魔法だ。僕と違って魔法であれだけの雷を発生させたんだ。まさに本物の魔法使いって感じだけど、彼は納得していない様子を見せている。


「はは、これはおっどろきたよ!」

「え? いや、それはどちらかというと僕の方だけど……」

「いやいや! だって、これまで僕が完璧に再現出来なかった魔法はないんだよ? でもね、今のは明らかに違ったんだ! 僕にはわかる。口では言ってみたけど、あれはゴッドサンダーじゃない。比べられた物じゃないよ!」


 そ、そう言われても反応に困るかな……そもそもゴッドサンダーという名前もいつの間にかついていたものだし。


「……それは当然。マゼルはゼロの大賢者の再来。常人の力が及ぶところじゃない」

「そうだそうだ~マゼルはね、すっごいんだから~」


 アイラとビロスが寄ってきて、諭すように言ってるけど、僕はもう汗が止まらないよ!


 ある意味魔法って点で言えばアダムの方が優れているわけだからね。結局僕のは魔法じゃなくてただの物理だし。


「ねぇマゼル! 今の魔法をマゼルはどうやってたの?」

「え? あ、いや、それは」


 アダムに聞かれて正直焦った。魔法じゃないわけだし――


「あ、いけない! はは、つい聞いちゃった。ごめんね忘れていいや。やっぱり自分の力でやらないとね~」


 屈託のない笑みを浮かべてアダムが言う。ふぅ、おかげで助かったけど何か憎めない子だよね。


「……マゼル。最後は貴様だ。いつまでもだべってないでさっさと試合にむかえ!」

「あ、す、すみません!」

「ふん!」


 ゲズルにどやされた。一礼して試合場に向かう。ふぅ、さてと。ここまで来たんだ。僕も気合を入れないとね。


 さて、相手はどんなゴーレムかな?


「さぁこれで最後の試合だ。出てこいゴーレム!」


 ゲズルが叫ぶと、僕の正面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。あれ? これまでは正面に見える出入り口から出てきていたのだけど、こういうタイプもあるのかな?


 そして魔法陣の中から姿を見せたのは、何かとても変わった形のゴーレムだった。アイラが相手したような金属のゴーレムっぽいけど、明らかに材質が違う。図体も見上げる程大きいね。形も流線型でちょっとかっこいいかも……


 両方の肩には戦艦に搭載されるような大きな大砲が乗っているし、なにか手強そうかも。


「な、なんだこのゴーレムは?」


 するとゲズルの驚く声が耳に届いてきた。あれ? もしかして試験官のゲズルも知らないゴーレムなの?


「待て待て、予定ではこんなゴーレム……」

『あははは~やぁ大賢者マゼルくん。さっきぶりだねぇ~』


 ゲズルが戸惑っている中、どこかから高い女性の声が発せられた。近くにいるわけじゃない。どうやら魔法か魔導具かわからないけど、遠くから声だけを届けているようだ。


「こ、この声はまさかゲシュタル教授!?」

 

 ゲズルが目を見開いて叫んだ。ゲシュタル……そう、あの時カンニングを疑われた僕に助け舟を出してくれたあの人だ。確か七賢教と呼ばれていたっけ。


「……マゼルの知り合い?」

「え~? 誰誰~?」

「いや、ちょっとまって下さい! ゲシュタル教授といえば魔導工学の権威! 七賢教とされる世界七大教授の一人ですよ!」

「そんなにすげーのか? ふぇ~」


 皆の声が聞こえた。ネガメはどうやら良く知っているみたいだね。


「しかし、なぜ貴方が?」


 ゲズルが問いかけた。


『いやぁ、何でもゴーレムの一体が今さっきバラバラになって試験不可能になったと聞いてね。それだと最後のマゼルを相手するゴーレムが一体減るからさ~急遽僕が代替品を頼まれたってわけ。それが今マゼルの目の前にいるゴーレムさ。僕の最高傑作だよ! でも嬉しいよねぇちょっと気になってたんだよねぇ彼のこと』


 筈んだ声でゲシュタルが言った。さっき、そうか確かにアダムの試験でゴーレムが粉々にされていたからね……その代わりがこのゴーレムってことか。


『というわけでマゼル。僕の自信作と戦ってよ。あ、ちなみに審査も僕が担当しているからね』

「な! 教授! それは秘密で!」

『あれ? そうだっけ? はは、まぁいいじゃない。もうこれで最後なんでしょ? 硬いことはいいっこなしだよ』


 か、軽いノリですごいこと言ってるなぁ……


『さて、ルールそのものはこれまでと変わらないよ。制限時間は15分。ただ僕の判定は厳しいからね。ろくに戦いもせず逃げ回るなんて真似されたら――ちょっと白けちゃうかなぁ~』


 これは、暗に戦え、と言われているようなものだね。どうやら逃げて時間稼ぎみたいな真似は許されないようだ。


「ま、最初からそのつもりはないけどね」


 これが試合である以上、僕もしっかり手合わせさせて貰うつもりだ。


『そうこなくちゃ。じゃあ早速試合、始めさせて貰うよ! いけぇ! メイリア!』


 メイリア、それがこのゴーレムの名前なのか。とにかく、合格するためにもしっかり戦わないとね!

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