第157話 魔力0の大賢者、エルフの少女達と知り合う

 若者たちに絡まれていた女の子達を助けた。するとフードを被っていた女の子がお礼を言ってきたんだけど、その表紙でフードが捲れて、金色の髪と金瞳、そしてエルフ特有の長い髪が顕になってしまっていた。


「お嬢様! お耳が!」

「あ!?」


 彼女を必死に守ろうとしていた少女が語気を強めた。ついついエルフという呼称を口にしてしまったんだけど、それが悪かったのかな?


 僕も転生してからエルフに会うのは初めてだからつい――転生前なら会ったことあるんだけどね。


 何より当時僕の側にいてくれたナイスがエルフだったからね。彼の場合はハーフエルフではあったけど。


 かつてのエルフはまだまだ閉鎖的で他種族とあまり関わり合いを持とうとしていなかった。


 でも、今は文献を見ていると昔よりは大分考えも変わったみたいで、エルフィン女王国という名称で建国し、他種族との交易少しずつ増えていったのだとか。


 だから人里にエルフがいるのは今ならそこまでおかしなことでもないかもだけど、この様子だとやっぱりまだまだ警戒心は強いのかもね。


 助けた女の子は慌ててフードを深めに被り直して端をギュッと掴んだ。な、何か凄く可愛らしい。


「貴殿、助けていただいたのは感謝している。しかし、今はまだあまり公にしたくはないゆえ、このことは内密にしてもらえると助かる」


 切れ長の瞳な彼女がいった。そういえば彼女もフードは被っているね。


「うん。約束は守るよ。今見たことは誰にも話さない」

「助かる。しかし、先程の魔法には驚かされた」


 う~ん、魔法じゃないんだけどなぁ。とりあえず僕も笑ってごまかしておくけど。


「あ、あの、改めてありがとうございました! 私はイスナと申します。こちらは私の親友のクイスで」

「し、親友などと、そんな恐れ多い!」

「ちょ、クイス、2人の時は普通にしててっていつも言ってるのに~」

「何を申されるか! これこそが私の普通。生涯貴方様をお守りすると決めたのですから当然です!」

「あはは――」


 仲が良さそうな二人だね。でも、さっきお嬢様と言ったりしてたし、今の様子からしても身分は高いのかもしれない。


 かつてのエルフは人間ほど爵位など多くはなかったけど、それでも人で言う貴族に近い身分のエルフはいたからね。


「そういえば僕も名乗ってなかったね。マゼルと言うんだ宜しくね」

「え? マゼ――まさか、大賢者マゼル様!」


 イスナが僕に詰め寄ってきてジッと顔を見つめてきた。ち、近いかも。ちょっとドキドキするよ。


「え~と、その、確かにそういう風に呼んでくれる方もいるのだけど、まさかエルフの女の子にまで知られているとは思わなかったよ」


 うぅ、個人的にはあまり広まって欲しくないんだけどなぁ。


「ジーーーー」

「あ、あのもしかして顔に何かついてるかな――」

「あ、ご、ごめんなさいつい――」


 僕が問いかけるとイスナが慌てて飛び退いた。フードをギュッと掴んで何かモジモジしているよ。


「……やっと会えた――」


 うん? 今イスナが何か今呟いたかな?


「まさかあの大賢者だったとは」


 するとクイスが前に出て僕に関心を示すように視線を向けてきた。


「……まさかこんなにも早くお会いできることになるとは。大賢者の噂はエルフの耳にも届いている。だが、なるほど。大賢者の再来とまで呼ばれる程の腕であれば、あれだけの魔法を行使できるのにも納得できる」

「いや、あの本当僕はそんな大したものではないので……」


 初対面の子にまで魔法のイメージを広げられるのはあまり好ましくないんだけど……


「あ、あの! 大賢者マゼル様!」

「は、はい?」


 イスナがまた前に出てきて、真剣な目を向けてきたよ。


「そ、その私を見て、何か思うところはありますか?」

「へ?」


 そして僕にそんな質問をぶつけてきた。でも、思うところ?


 な、なんだろう? というかわりとぐいぐい来る女の子だね。


「え、えっと、い、いい名前だよねイスナって」

「え?」


 て、何言ってるんだ僕! 今の質問で名前を褒めてどうするんだよ、もう! 


 あぁ、イスナも何かポカンっとした顔を見せてるし、うぅ、もっと気の利いた事言えなかったかなぁ僕~。


「そ、そうですか?」


 あれ? イスナがちょっとうれしそうな顔を見せた。名前を褒めたのは、良かったのかな?


「大賢者マゼル様に、そんな風に言ってもらえるなんて凄く嬉しいです!」


 花が開いたような笑顔でイスナが喜んでくれた。

 それなら良かった……僕がほっと胸をなでおろしていると。


「あ、あの他には、な、何か気づくことありますか?」

「へ?」


 ほ、他にも。な、なんだろう?


「そ、その私の見た目とか――」


 フードの中から飛び出た髪の毛を弄くりながらイスナが聞いてくる。


 見た目? いや、本当凄く可愛いとは思うけど――


「え、えっと、すごく、女の子っぽいと思います」

「……お、女の子っぽい――」


 う、うわぁあああぁあ! 今度こそやらかしちゃった! 何だよもう女の子っぽいって。当たり前じゃん、だって女の子だし!


「う、嬉しい」

「え?」

「大賢者マゼル様からみて、私、そんなに女の子っぽいですか!」

「あ、う、うん。ものすごく女の子だなとは思うけど」

「女の子、大賢者様が、私を、ふふ、うふふ――」


 何か凄く嬉しそうだよ。女の子が女の子っぽいと言われてそんなに嬉しいものだったのかな?


「お嬢様、そろそろ」

「え? もう?」

「はい。約束の時間が近づいてますので」


 クイスがイスナに呼びかけた。どうやらこれから用事があるみたいだね。


「うぅ、あ、大賢者マゼル様!」


 するとまたイスナの顔が目の前に。ついドキッとしちゃうよ。こ、今度は何かな?


「その、大賢者マゼル様はもしかして魔法学園に?」

「う、うん。試験を受けるつもりだけど」


 そう答えると、イスナがまた笑顔を綻ばせた。か、可愛い。


「良かった――なら、また会いましょう大賢者マゼル様!」

「う、うん。またね~」


 そしてイスナとクイスは去っていった。


 ふぅ、それにしても、また会いましょうか……あれ? でもどういう意味なんだろう? 


 もしかして、あの2人も学園にということなのかな? 


 うん、だとしたらまた試験で会うこともあるのかもね。


 さてと、ちょっと寄り道になっちゃったけど、待ち合わせ場所に急がないとね――

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