第155話 魔力0の大賢者、500年の進化を感じる
「残念ながら、我々はここから先はご同行出来ません」
「いえいえ、ここまで連れてきて頂きありがとうございます」
魔法都市の入り口近くで御者さんとお別れすることとなった。魔法都市は永世中立都市であるため、他国からの干渉を認めておらず都市内でその権力を振りかざすことも出来ない。
その観点から他国の威光を振りかざすような行為も制限されており王国の馬車で都市に入るというのもそれに該当する。
勿論事前に許可を受けていれば別なようだけど、今回はその許可がおりなかったようだ。許可が下りない理由は試験を受ける生徒があからさまに国が手配した馬車で乗り付けるような真似は学園のl不信感を煽る要因となりえるからだそうだ。
その決定に関しては、納得の出来るものではあると思う。だからお世話になった御者さんともここでお別れとなる。
「ちなみに宿に関しては、こちらでとらせていただいておりますので白銀の馬車という宿を訪ねてみてください」
「ありがとうございます」
魔法学園に入学後は寮に部屋が用意されるけど試験までの間は宿など各自で対応する必要がある。それを王国側で事前に手配してくれたようだ。
「皆様のご武運を祈っております。試験頑張ってください」
「はは、もし落ちたらまたお世話になることになったりして」
冗談交じりに伝えると、御者さんが笑顔となり。
「ははは、大賢者様に限ってはそのような心配するだけ無駄かなとは思っております」
「……マゼルが落ちるなんて考えられない」
「そうだぜ。むしろ俺のほうが心配だ」
「確かに。僕たちは気合をいれなければ。マゼルに折角教えてもらったわけですし」
皆の謎の期待が心苦しくもあるけど、とにかく僕たちは御者さんと別れを告げて魔法都市へ足を踏み入れることとなった。
「流石魔法都市だけあって、使用されている魔道具も凄いんだね」
大きな街の入り口には門番が立っていたりするけど、この都市にはいなかったんだよね。なんでも門にはセンサー式の魔道具が備わっているようで不審な物がいた場合、すぐに反応するらしい。
手配書の回っている罪人なんかも顔が認証されて、そういう場合はすぐに障壁が生まれ罪人が街に入れないようにした上、自動で動きを封じ捕らえられる仕組みなんだとか。
凄い仕掛けだよね! あれ? でも僕は魔力がないのだけどそれでもわかるのかな?
う~ん、まぁいっか! 街の中に入ってみたけど人の数が凄い! 王都も多かったけど魔法都市もかなりのものだね。
「とりあえずどうするマゼル?」
「そうだね。先ずは御者さんが教えてくれた白銀の馬車という宿に行ってみようか」
「何か高そうな名前の宿ですよね」
「……学園の近くでとってくれたと言っていた。そこに案内板がある」
アイラが指差した方に巨大な案内板があった。見てみたけどかなり広大な都市だ。
「よくわかんないけど、どこなんだ?」
「ここですね。この場所からはかなり離れていますから歩いていくのは厳しそうかな」
首をかしげるモブマンにネガメが教えていた。う~ん、僕だけなら歩いて行っちゃうけど、地図で見ると確かに結構距離があるね。
「馬車に乗っていく?」
「……案内だと、この魔導列車にのると早そう」
「「「魔導列車?」」」
聞き慣れない言葉に、僕たち男子3人は小首を傾げた。
「……魔法都市は様々な魔法研究者が研究を重ねるから最新式の魔道具や魔法の設備が整っているみたい」
この魔導列車もその一つって事なのかな。とにかく僕たちは魔導列車に乗れるという駅というところに行ってみたけど驚いたよ。
大きな長方形の箱が何個かつながったよう乗り物が馬いらずで動くんだって。
「ふぇ~こんなのが魔法の力で動くんだなぁ」
「はっは。君たちはこの都市は初めてかな? これを見ると初めての人はだいたいそんな反応を見せるね。人によっては鋼鉄の魔獣だーー! と騒いだりするぐらいだし」
駅の係員がそう教えてくれた。でも、その気持ちもわからなくもないかな。こんなの500年前にはなかったしね。
転生した当初はそこまで大きな変化はないのかな? と思ったものだけどこういう物を見ると進化を感じるよね。
僕たちは乗車券というのを購入し、魔導列車にのった。動くと馬車よりは圧倒的に速かったよ。
「すげーなこれ! マゼルより速かったりして!」
「……それはない。確かに馬車より速いけど、マゼルが地面をくり抜いて投げ飛ばした後に皆で乗った方が絶対速い。亀と光竜以上に違う」
「いや、流石にそこまでは――」
思わず苦笑した。アイラはあのときのことしっかり覚えていたんだね。
ちなみに光竜は光の速さで動ける竜だ。実は転生前に普通に捕まえたりしたこともあるんだけどね。
さて、魔導列車を学園前駅で降りて白銀の馬車という宿に向かったのだけど……
「で、でかい……これが、宿?」
正直驚いた。建物が見上げるほど高い。こんな宿は初めて見た。
「……ホテルとある」
「それって宿と違うのか?」
「そういえば聞いたことがあります。一部の都会にはこういった高級な宿があると」
「……うん。ホテルなら王都にもあった」
「え? そうだったんだ?」
そういえば僕が前に王都に行った時は直接お城に招待されたし、あまり王都内を見てないんだよね。
だから気づかなかったよ。
とにかくホテルに入る。扉が自動的に開いて皆が入っていく。これも魔法の力を活用しているんだね。
「あれ?」
だけど、僕が前に立ってもドアは開かなかった。
あ、そういえば僕の場合魔力がないからこの手のは動かないんだった……魔力がない僕の不便な点のひとつなんだよね。
皆も心配しているし、仕方ないね。まさか手でこじ開けるにわけにもいかないから氣を使って開けて入ることにした。
「……流石マゼル。大賢者の力がすごすぎてドアもすぐに反応できなかった」
「おお、そういうことか」
「流石ですね」
「違うよ~」
まさかドアが開かないことでそんな評価を受けるとは思わなかったよ!
それにしても綺麗なホテルだよね。フロントにはビシッとスーツを着て蝶ネクタイをした人が受付をしているし。
「チェックインでございますね。ではこちらにお名前をご記入頂けますか?」
そして1人ずつ記入していく。終わった後、受付の人が確認してくれたのだけど、ふと僕に視線を向け。
「も、もうしわございません。マゼル・ローラン様のお名前で部屋が取れていないようでして」
「え? そうなの?」
「……そんな馬鹿な話ありえない」
受付の男性の言葉にアイラが反応した。
「……マゼルの名前がないのはありえない。絶対に」
「確かに俺達ならわからないでもないけどな」
「えぇ、マゼルだけがないなんて絶対おかしいです!」
「いやいや! それは皆一緒だと思うし!」
「申し訳ありません。すぐに確認してまいります!」
皆僕の名前が無いという部分に不思議がっていた。そして受付の男性が確認しに一旦その場を離れ、暫くしてから戻ってきた。
「この度は真に申し訳ございません。どうやら手違いがあったようでして部屋が取れておりませんでした」
「……手違いなら別の部屋を開けてもらえる?」
「それが、本日は生憎満室になってしまい当ホテルでお泊めすることが出来ないのです」
「えぇ? それならどうするんだ?」
「何とかならないのですか?」
皆に詰め寄られ弱った顔をする受付の男性。う~ん、確かに弱りものだけど、でも間違いは誰にでもあるしね。それに逆に僕で良かったかもしれないよ。僕なら別に最悪野宿でも――
「マゼル様、もうしわけありません。私は当ホテルの支配人ですが、今回は本当に当方の不始末で――」
今度はメガネを掛けた支配人の男性がやってきて頭を下げてきた。そこまで謝られるのも逆に申し訳なく思える。
「そこでですが、当ホテルではあいにくと部屋が取れない状況ですが、代わりの宿と部屋をご用意させて頂きました。それでどうかご納得頂けませんでしょうか?」
すると支配人が低姿勢で僕にそんな話を持ちかけてくれた。
「勿論今回は当方の不始末ですので代金もご予約いただいた御方に返金致します。ですのでどうか」
「うん、僕はそれでかまわないよ」
「……マゼル、本当にいいの?」
「うん。泊まる部屋は用意してくれたようだしね」
アイラは、折角一緒の……、と何か呟いていて不満そうだったけど、あまり責めるのも可愛そうだもんね。
というわけで僕はホテルの案内係の操る馬車に乗って代替の宿に送ってもらった。
「こちらでございます。話は通しておりますので……」
「ありがとうございます」
そして僕は降りて、宿を見たのだけど――
「こっちは随分と年季の入った宿だなぁ……」
うん、さっき見たホテルとはまるで違う、まさに宿って感じの宿だったね。看板には鼠の住処と記してある。
ここまで案内してくれた人もそそくさと帰っちゃったな。う~ん、とにかく入ってみようかな――
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