第154話 魔力0の大賢者、魔法学園都市までの道のり
「乗り心地はいかがですか大賢者様?」
「うん。凄くいいよ。流石は王国の馬車だよね~」
「大賢者様にそう言って頂けると、御者としてこのように光栄なことはありません」
な、何か手綱を握る御者さんに凄く恐縮されてしまったよ。むしろ王国がわざわざ馬車を手配してくれるなんて僕の方こそ恐れ多い気がするのだけどね。
「……王国の馬車にはいい魔道具が組み込まれている。うちの馬車でも多少は揺れるけどこの馬車は揺れを全く感じない」
「はい。きっと板バネの質が違うのだと僕は思いますね」
ネガメが眼鏡を押し上げながら私見を述べる。確かにその辺りが違う気はするね。
「流石ですね。実はこの馬車のバネにはハイミスリルが使用されているのです」
「何とハイミスリルですか!」
「それ美味いのか?」
「……希少な魔法金属。食べ物じゃない」
御者さんの話にネガメが凄く感動していた。モブマンはピンっとこなかったみたいでアイラから呆れられてるけどね。
でもハイミスリルかぁ。確かにミスリルより更に魔法の効果も乗りやすいから魔道具の素材にはぴったりかもね。
ミスリルよりは衝撃にも強いし馬車での移動ぐらいなら十分に耐えられるもの。
「ですが、それだけのものだとやはりお高そうですね」
「確かに以前はハイミスリルの材料を使った品物は高くて庶民の間ではとても手が出ないとされていましたが、最近は出回る量も多くなり価格もこなれてきたので割と一般的になりつつあるのですよ」
「そうなのですね。でも、それだけ採れるようになったとなるとどこかいい鉱山が見つかったりしたのですか?」
「ははは、大賢者様はご冗談も上手いのですね。それも全て大賢者マゼル様のおかげではありませんか」
え! 僕の! 御者さんが笑顔で答えてくれたけど、まさか、僕のおかげだなんてなんかの間違いでは?
「何せあのスメナイ山地が開拓されたのは大賢者様のお力があってこそ。そしてスメナイ山地のダンジョン攻略も大賢者様のおかげで一気に進みハイミスリルも含めた希少な鉱石が次々と発掘されております。ハイミスリルがここまで身近になったのは大賢者様の活躍があってこそです」
思い出したよ。確かにあのダンジョンは父様のプレゼントの件で潜ったけど……その後は本業の冒険者に任せていたんだよね。
だからそれ以降のことは僕と言うより冒険者の活躍な気がするんだけどなぁ。
「……流石マゼル。あのとき、マゼルが攻略したおかげで冒険者にも出てくる魔物の攻略法が知れ渡ったし安全なルートも確保できた。ただ強いだけじゃなく皆が幸せになれる偉業をこなせる。そこが凄い」
「そうだね。マゼルのおかげで僕たちもこうして魔法学園の試験に挑めるんだもの」
「あぁ全くだぜ。マゼル様々だ!」
「はは、流石大賢者様は人望も厚いのですね」
う、うぅ、僕としてはそこまでのことはしてないつもりなんだけどなぁ。
「その、ダンジョン攻略も含めて僕1人で出来たことじゃないし、僕個人の力は本当に微々たる物だよ。ここにいる皆も含めて助けてくれる人がいるからここまで出来たわけだからね。うん、そう今があるのも皆のおかげだよ!」
「「「「……」」」」
あ、あれ? 何かしーんとなっちゃった。あ、やばい! つい恥ずかしいこと言っちゃったかも!
「これが大賢者様が皆から慕われる理由なのですね」
「……そう。マゼルは決して驕らない。そして常に誰かのために動いている。だから――」
あれ? 皆呆れてるのかと思ったんだけど……何かアイラもじっと僕を見てきてるし、うぅちょっと照れくさい!
それから馬車は進み暫くしてモブマンのお腹がぐぅ~っと鳴った。
「はは、つい」
「あぁ、でも確かに出発してから結構経ったもんね」
モブマンの腹の音を聞いてネガメが思い出したように口にする。確かに感覚的にはそろそろお昼かもね。ただ途中で立ち寄る村まではまだ少しあるみたいなんだよね。でもそんなこともあろうかと。
「実はラーサがお弁当持たせてくれたんだ。母様と一緒に作ってくれたみたい」
「おお! マジか! 俺もいいの?」
「勿論皆の分あるからね」
「マゼルのお母様に感謝ですね」
僕が弁当を取り出すと、モブマンとネガメが喜んでくれた。でもアイラが何かもじもじしている。どうしたのかな?
「アイラの分もあるよ。一緒に食べよう」
「……ありがとう……それで、あの、実は私も、お弁当作ってきた」
「え? そうなの?」
「……ん。マゼルの分もある」
そしてアイラがお弁当の入った籠を取り出した。
驚いたなアイラも作ってきているなんて。
「……でも、マゼルのお弁当があるなら……」
「うん、嬉しいよ! アイラのお弁当かぁどんなのかなぁ」
「……食べてくれるの?」
「え? そりゃそうだよ。せっかく作ってくれたんだし、アイラが作ったならぜひ食べてみたいな」
僕が答えるとアイラが目を伏せてしまった。
あれ? 余計なこと言っちゃったかな?
「……マゼル、嬉しい。これ――」
どうやら違ったみたいだ。そしてアイラが僕に籠を手渡してくれた。皆の分もあるみたいだ。
ラーサと母様が作ってくれたのはおにぎりだった。イナ麦で出来た米を握った携帯食で名前はそのままの意味だったりするけどね。
おにぎりは中の具でまた味が変わる。ラーサち母様が作ってくれたおにぎりは愛情たっぷりで美味しい。皆も喜んでくれたよ。
そしてアイラはサンドイッチだ。中身に工夫があって肉やフルーツなど種類も豊富でこれもとても美味しかったよ。
「うん、凄いよねアイラ。これならきっといいお嫁さんになれるよ!」
「……ん、嬉しい頑張ってマゼルの――」
アイラがモジモジしながら呟いた。最後の方は聞き取れなかったけど何て言ったのかな?
お弁当が結構な量になったから御者の方にもおすそ分けしたら喜んでくれたよ。
そんな感じでわりと和気あいあいしながら先に進む。途中で宿場に立ち寄り休みつつ、1日掛けて更に移動。王国の馬車は通常の馬車より魔道具の恩恵で速いんだけど、それでも学園までは結構あるんだよね。
とは言え学園までの道は魔物も殆ど出ない安全な道だから、心配することは何も――
「た、大変です! ダイアーウルフの群れが!」
と、思ったらそんなことなかったみたいだよ!
うん? でもダイアーウルフ? おかしいな。あの魔物は山に住んでいる魔物だけどこの辺りは森で本来生息地ではないんだけど――
「……マゼル」
「あ、うん。そうだね。放ってはおけないよね」
馬車が止まったところで僕たちも一旦外に出る。
周囲は既にダイアーウルフに囲まれていた。数が多いね。
よし、馬車に乗り続けていても体がなまっちゃうし、相手しちゃおっかな。
そう思って腕をぐるぐるって回したんだけど。
「「「「「「「ギャウゥゥウゥウウウゥウゥウウウン!」」」」」」」
「え? あれ?」
ちょっと力込めて腕を回したら突風が生じてダイアーウルフ達が飛ばされちゃった……あれぇ? 本当にちょっと力いれただけなんだけど――
「こ、これは最強の風魔法の1つとされるブレイクストームではありませんかーーーー!」
ネガメが興奮気味に声を上げたけど、いえ、ただ腕を回しただけの物理です。
「……流石マゼル。相変わらず詠唱もなしでとんでもない魔法をまるでただ腕を回しただけみたいなノリで使用する」
大体あってるよ! アイラの思ったとおりで間違いないからね!
「すげーなそのウレテルスコーンってのは」
モブマンもうんうん頷きながら感心してるけど、名前が間違ってるからね! いや、僕もただ腕を回しただけなのに、凄そうな魔法名で呼ばれるのは気恥ずかしいけどさ!
「流石は大賢者様です。おかげで助かりました。あのような魔物、もし大賢者様がいなかったらと思うとゾッとします」
「え? う~ん、でもほら。数は多かったけどちょっと大きいぐらいのダイアーウルフだし。ある程度経験を積んだ護衛がいればそこまで恐れることはないんじゃないかな?」
「ははは、なるほど。いや流石は大賢者様だ。我が王国の騎士団を含めこの程度は相手できるようではないと国を護るには力不足だと、だからこそ常日ごとの鍛錬が大切だと啓発しているのですね。なるほど戻り次第しっかりお伝えいたします」
「……マゼルは凄い。常に周りのことをひいては国のことさえ考えてくれている」
「え、いやそこまで深い意味は……」
「謙遜するなってマゼル」
「そうですよ。もう皆が知っていることですから」
うぅ、何か思いがけない解釈をされてしまった。
さてと、そこから先はもうこれといったトラブルに会うこともなく馬車は進みそして。
「見えてきましたよ。あそこが魔法学園都市です」
「へ~やっぱり大きいんだねぇ」
そう、僕たちは遂に目的地の魔法学園のある都市に到着したんだ。う~んでも本当1つの都市だけど国と変わらないぐらい規模が大きいよ――
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